05<殿下の味方>
「久しぶりにやるか……」
セラフィーノ様はもう一つ、厄介な件を片付けねばならないと思い修練場へと向かいます。
そこでは一人の騎士が剣を振っていました。
騎士団長のオラツィオ様です。
「退屈な審議会が終わったよ」
「そうでございますか……」
セラフィーノ様の幼い頃の指南役でもあり、そして若き頃からの帝国皇の盟友でもあります。
「最近はヒマそうじゃないか? 魔獣被害は少ないのだな」
「はい。森が平和なのは良いことです」
この世界は人間と同じ魔力を持つ獣、魔獣の脅威にさらされています。
平民の自警団、冒険者、領主貴族の私兵団などの手に負えない時は、オラツィオ様が騎士団を率いられます。
「アテマ令嬢との婚約破棄についてどう思うか?」
「男女の喧嘩などよくある話です。私にはわかりかねます」
「貴様らしい答えだ。久しぶりに、手を合わせして帰るかな」
「よろしいですね。男同士が話すのならば、やはり剣でしょう」
ニ人は模擬剣を使い、しばらく無言で打ち合いました。
誰もいない修練場に木剣と木剣がぶつかり合う、カンカンという音だけが響きます。
私は目をつむり、ただそれを聞いていました。
これからやるべきことが、少し見えました。
◆
午後はお暇をもらい、街に出ました。
私と同じメイド服の娘がちらほら見えます。
皇城に働くメイドも、貴族の屋敷で働くメイドも、商会で働くメイドも皆同じそろいの制服を着ております。
これがこの街で働くメイド結束を作りだします。
街はいつもの同じで閑散としていました。
ここが帝国の中心部とは思えません。
ずっとそうなのです。
長い間、慣習的に増え続けた軍事費が帝国財政を破綻させつつあります。
しかしこれといった打開策もないまま、ここまできてしまいました。
地方の領主は税を納めたあと、農産品を国外に売っております。
帝国貨幣は信用されなくなっていました。
帝都では慢性的に食料が不足し、住民の多くは郊外に出ました。
周辺の森で狩りなどをし、急増の畑で作物を育てております。
帝都に残っている住民たちは国の仕事があり、この街に縛られております。
不満が溜まっているのです。
宰相一派はそれでもなお、帝政を改めようといたしません。
何かしら私腹を肥やす方法があるのでしょう。
私は馴染みのメイドカフェに入りました。
ここはメイド仕事の紹介所にもなっていて、従業員もメイドで客もメイドばかりです。
私は知り合いのメイドを見つけて、噂話などを聞きます。
帝都には民衆の不満が渦巻いているそうです。
「そちらの様子も大変みたいですね……」
一人お茶を飲んでいると、お店のメイド長が話しかけくれました。
若くして皇城の戦闘メイドを務めた逸材で、私の立場をよく心得てくれています。
「で、どうなのですか? 色々な噂が流れていますけど」
「ほとんどが正しいです」
「そうですか……」
ため息をついて困った表情になりました。
「一部の仕事でお給金が払われなくなっているようですね。仕事を奪われたメイドが大勢います。それに地方でも食料が不足しています。国境沿いの密貿易が盛んになり、希少金属類の貨幣が他国に流れてます」
「まずいですね」
メイド長は様々な情報をもたらしてくれました。
新人たちに道を譲って皇城を去られ、そして今もこうして後進たちの相談相手になられております。
私がとても尊敬する人物です。