02<新たなる婚約者となりました>
「紹介しよう。エリーザ、出ておいで……」
私はおずおずと前に出ます。
このような場所に、無理矢理引っ張り出されて縮こまってしまいます。
「ラファネ・エリーザだ。昨日婚約を申し込んだ。これで納得してくれたかな?」
「何ですって? 私という婚約者がありながら、何と非常識な。納得などできませんわっ!」
「うむ、確かに順序が違ったな。それは悪かった。では結婚は今宵申し込むとしよう。昨日のことはなかったことにしてるくれるかな? 愛するエリーザよ」
私は返答を促され、何とも答えようがないとばかりに困った表情をいたします。
「はははっ、なんとも奥ゆかしい女性であろう。そなたとは大違いだ。わははは――」
「何という理不尽な」
「状況がいささか変わったのだ。そうだったな、デマルティーニ?」
「はい、殿下」
成り行きを見守っていた、皇政府宰相のデマルティーニ様が懐から書面を取り出しました。
広げてセラフィーノ様に差し出します。
「なんと驚いた! 周辺諸国がわが大ブルクハウセン帝国に同盟を申し込んでおるぞ。そのたとの婚約に慌てたようであるな。さてさてどうしたものか?」
デマルティーニ様は満足げに頷いて、セラフィーノ様に耳打いたします。
「つまりはそういうことだ。お前はもう用済みなんだよ。わかってはくれぬか?」
「よーく、わかりました。国に帰ってお父様にそのように伝えますが、よろしいのですか?」
「わが国の水は体に合わなかった、と伝えてくれ」
「そのようにさせていただきます。それではごきげんよう。ふん……」
アテマンツィ・マリアンジェラ様は言いたいことを全て言い終わったとばかりに、アテマ王国の臣下たちを引き連れて広間から出て行きました。
しばしの沈黙が続きます。デマルティーニ宰相はことさら大げさに、満足したとばかりに大きく頷きます。
「ふう〜……」
セラフィーノ様は大きなため息をつかれました。
半ば浮きかかっていた腰を玉座に深く沈めます。
デマルティーニ宰相はその様子を見て手を叩き始めました。
それにつられたのか、お客様たちもあいだにパラパラと拍手がおきます。
セラフィーノ様はその様子を眺め、誰が拍手をしているか、誰がしていないかを何気なく見極めておられるようです。
騎士団長オラツィオ様は、いつもと同じで難しい顔をされております。
だけど少しだけ口の端を釣り上げて笑いました。
近衛兵団長のアマデオ様は苦笑いを隠そうとしません。
二人とも戦乱が大好きな方だから、政局とはまた別の楽しみを見たのでしょう。
セラフィーノ様は、無理に表情を引き締めております。
他の高級政務官の表情は様々です。
同伴のご婦人たちは、どう反応していいかわからないようです。
「私は中座する。皆はゆっくりとお楽しみください。では……」
殿下は立ち上がり挨拶を述べました。
「エリーザ、来てくれ」
「わかりました」
私も招待客様たちに向き直って、ドレスのすそをつかみ小さく頭を下げました。