12<変革の始まり>
審議会は紛糾しましたが、結論らしい結論は出ませんでした。
アテマ王国の支援物資を待つ、と言うことぐらいでしょうか。
それでことが収まれば、と皆考えました。
私たちは殿下の執務室に戻ります。
「奴ら、この事態は想定外のようであるな。何やら次の手を考えていたかと思ったか、のんびりした連中で助かる。ならば……」
いよいよセラフィーノ様が決断いたします。
「今夜決行すると伝えてくれるか」
「分かりました」
「やるしかあるまい」
殿下の革命が始まります。
私の人生はこのお方のためにあります。
がんばります。
私はあらかじめ打合わせをしていた、城内のメイド数名に計画の実行を伝えます。
「了解したわ。夕方外出してメイドカフェに伝えます」
「よろしくお願いいたします」
「分りました。みんなは、まだかまだかって言ってる」
「気をつけてくださいね」
「うん」
仲間たちが協力してくれます。
そしていつものようにライ麦パンの籠を下げて地下の隠し部屋を尋ねました。
マリアンジェラ様と、お付き侍女メイドが二人。そして軍人らしき眼光を持つ、平民服姿の男性が二名おりました。
「今夜決行です」
「あの人、決断したのね。分りました。伝令をお願いします」
「はっ」
兵の二人は足早に隠し通路の先へと消えました。
「お茶を飲む時間はあるかしら?」
「はい。あと後はその時まで、普段通りに振る舞うだけですから」
「そう」
二人の侍女は手早くお茶の準備を始めました。久しぶりの香りが私の鼻腔をくすぐります。本物の高級品です。
「ケーキを差し入れてくれたの。食べるでしょ?」
「いただきます」
どちらも久しぶりの味です。食べ物には弱い私でした。
深夜、所定の時刻。私は自室でメイド服を脱ぎ棄て、下着姿になりました。
腰にベルトを巻き、太ももにホルダーを装着します。
そして抜身のナイフを収めました。
スカートを少しめくれば、すぐさまナイフを抜き戦闘に参加できるのです。
その上から新しいメイド服をまといます。
幸せを呼ぶ純白は、宴の席を祝福します。
深い紺色は葬送の列を彩ります。
今宵の私は戦闘メイドとなりました。
今頃、仲間のメイドが手はず通りに動いているはずです。
裏の通用門を開け、外に待機していた冒険者グループと戦闘メイドたちを招き入れます。
地下の通路に入り込み、外部からの侵入者を助けます。
城内に不案内な者の案内役として何人もが走ります。
私は地下の隠し部屋へと急ぎました。
そこにはマリアンジェラ様と多数のアテマ王国兵士がおりました。
こちらの準備も万全のようです。
「どうかしら?」
令嬢の瞳はランランと輝いておりました。好きなのでしょう。
「予定通り動いております。ご安心ください」
「そう。うまくいかない時は、いつでも言ってね」
「はい」
応援が必要な場合は、ここから兵士が城内になだれ込みます。
最悪の場合は、殿下がここから外へと脱出されます。
そうならないことを祈るばかりです。