11<帝国の行方>
枢密院議長「なんだ、いったい! あの外に集まっている馬鹿どもわっ!」
デマルティーニ宰相「さっさと治安部隊を組織し鎮圧してしまえ! 戒厳を発令してくれるわ」
軍需大臣「守備隊の大半はアテマ王国との国境付近に出動しております。他には騎士団と近衛ですが……。残りを全て帝都に出せば皇城内の守りが手薄になるのでは?」
枢密院議長「ならばさっさと軍を引き上げさせろ。こちらに戻すのだ!」
軍需大臣「しかしアテマは未だに大軍をはりつかせております。一部が国境線を越えたとの情報もありますが」
外務大臣「なんだって。協定違反ではないか?」
一方的に婚約を破棄しておいてこの言い草です。しかしアテマ王国が手を差し伸べるであろうと、私は知っておりました。
財務大臣「一体どうすればいいんだ。何か手をうたねばいかんのだが……」
帝国皇太子「皆の者、少し落ち着かれよ。国境を越えたアテマ王国の部隊は、食料支援の輸送隊を護衛するためである。だから少数なのだ」
財務大臣「わが国に食料を支援ですか?」
帝国皇太子「そうだ。ラファネ・マリアンジェラ王女との約束である」
外務大臣「しかし婚約を破棄した今となっては……」
帝国皇太子「支援と婚約は完全に分けて考えると、何度も念を押して同意している。アテマ王国は律儀にその約束を守っているのだ。いや意地になっていると言えなくもないがな」
軍需大臣「なんにしても助かります。食料が届けば帝都の民の不満も和らぎましょう」
外務大臣「そうだ。皇城に集まっている連中も解散する」
軍需大臣「しかし食料はいずれ食い尽くします。そうなれば……。なぜアテマ王国は軍を引かんのでしょう?」
帝国皇太子「あちらにもメンツがあるからな。簡単には引かんだろう。王女に恥をかかせたのだ」
司法庁長官「各方面から軍を抽出しよう。とにかくこの皇城の守りを固めれば」
軍需大臣「それは無理ですよ」
デマルティーニ宰相「なぜだ?」
軍需大臣「地方軍は物資を現地調達として、何とか食いつないでおります。帝都に来るまでの食料がありません。途中で餓死者が出るか、はたまた村を襲い食料を奪いながら来るか。それとも森で狩をしながら、のんびりとやって来るか……」
枢密院議長「宰相殿、他国との同盟はどうなったのですか? 食糧支援を得られればそれを糧とし帝都への部隊移動は可能では?」
デマルティーニ宰相「今しばらく時間がかかる……」
内務大臣「それまでは騎士団と残留した防衛部隊で、何とか帝都の治安を維持するしかありませんな。近衛は皇城と陛下を、お守りせねばなりません」
デマルティーニ宰相「皆の者。これは反乱と心得よ。陛下にご許可をいただく。皇城は絶対に死守するのだ」
枢密院議長「強行策もやむを得ん! 地方貴族にまで波及すればこの国は終りだっ!」
デマルティーニ宰相「見せしめに何人か殺せば、烏合の衆など簡単に退くであろう。いざとなったらやるしかない、いやすぐにでもやるのだ」
内務大臣「それでもし引かなければ、数万の民衆が押し寄せれば、我らはどうなるでしょうか?」
枢密院議長「おぬしの不手際ではないかっ!」
内務大臣「そうです。責任者の私がお手上げなのですよ。議長殿がなんとかできますか?」
枢密院議長「くっ……」
内務大臣「今はただ、嵐が通り過ぎるのを待つしかありませんな」