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なんでも屋は暇じゃない  作者: ゆきつき
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九話 旅の支度

 冒険者は基本、拠点を持つ事はない。他国に点々と移動すると言う冒険者も少ないだろうが、家を持つとか、そういう冒険者はいないだろう。そんなのに金をかけるなら、武器や防具なんかの装備品に金をかけるべきだ。そうすれば死ぬ可能性も減るだろう。

 武器が良くなったと言っても、自分のステータスが変わる訳でも無いから、特別強くなる訳じゃない。けど極端な話、ボロボロの武器と名匠が作った武器だと、明らかに後者の方が良いだろう。どう考えてもそっちの方がモンスター相手に対抗できる。


 だから、こんな状態になっても宿を取ってる訳だが。やはり冒険者御用達の店と言うのはある。武器屋もそうだし、アイテム店もそうだ。そして宿もまた、冒険者御用達の場所になる。だって安いんだから、そこに冒険者は集まるだろう。

 ならやっぱり、店主は俺が剥奪された事を知っている。特別高くされる事はなかったけど、前までよりも割り増し料金にされた。それこそ、アイテムを一個節約しないといけなくなるレベルで。


 そしてだ。ギルドでの買取価格もまた、下げられてる。おかげで消費量だけが増えていく。まだ働き始めてすぐだから、給料が出る事もない。

 冒険者なんて名前が売れてる人以外は、貯蓄なんてほとんどない。一回のダンジョン探索で得たアイテムなどの売り上げを、次のダンジョン探査の時に使う事になる。だから手元に残ってる分なんて、ほとんどない。


「はぁ。もう飯代ぐらいしか残ってねえよ」


 次のダンジョン用の金なんてのも、ほとんどない。幸い今回の探索でアイテムをほとんど使ってないから、次に持ち越せるけど。新しく買い足す事ができない。


「まあ働かねえと金も貰えないんだ。しょうがないと言えばそうだけど、流石にキツイぞこれ」


 言ってあの探索は、情報を集めたぐらいだ。あいつが勝手に俺を連れて行ったとは言え、情報収集に関しては、俺は完全に足手纏いだった。報酬をくれるとは思えない。


「にしても、なんでこんな路地裏に店なんか構えるんだよ」


 なんでも屋か情報屋か知らんけど、こんな裏側にあったら、来るもんも全部他に持ってかれそうだけど。


「こんちゃーっす」

「おや、ちゃんと来たのですね。てっきり来ないものだと」

「いつここに来いとか言われてないもんでね」

「そういえばそうでしたね。まあ今日と同じ時間にでも来てもらえば良いですよ」

「ニャ?あっ、あの時助けてくれた!」

「あ?なんでこいつが」


 なんで『獣』がここに居んだよ。


「なんでもなにも、ここで働くからですよ。冒険者は副業もアリですからね。まあそんな余裕がないのが冒険者でしょうが、ダンジョンに用がある僕の仕事とは相性がいいですし」

「そうじゃねえ。なんで『獣』が、ここに居るかって聞いてんだよ」

「ニャ!?」

「もう一度言いましょうか?仕事ですよ」


 違う!そういう事じゃない。


「だから、ここは『獣』の居場所じゃねえって言いてぇんだよ!」

「まあ、他人の思考にまで文句をつけていたらきりがないですけど、とりあえず。別にここは君の居場所でもないでしょう」

「な!?」

「ギルドから追い出され、その不名誉が付いて回るせいでここに泣く泣く来たのでしょう。まああの張り紙に問題があると言えばその通りでしょうけど、そんな不純な気持ちで来られても困るのですがね。実際人手は元から足りていた訳ですし」

「あ……」

「まあそれはどうでも良いんですけどね。他人には理解できないような事情がある事も知ってますし。そもそも自分がやりたい事を仕事にする人なんてごく一部でしょうし、だからまあそちらは良い。問題は、君が信憑性の欠片もない言葉に踊らされてる事ですよね。ここは情報屋なんです。噂を聞くのは良いですけど、碌に確認もせず信じ込むなんて馬鹿な真似はやめておきなさい。自分の目で見て確かめて、それでも尚、獣人が嫌うべき存在だと思うのならそれで良いですがね。そんな噂に流されて信じ込んだ情報など、碌なものじゃないでしょうし」


 んな事言っても、獣人はモンスターだ。ちょっと知性があるからこっちに居られてるだけの、ただのモンスターじゃねえかよ。


「それに、君のような追い出された側が、追い出された側の気持ちを理解できなくてどうするのですか」

「そりゃ、」

「別に仲良しになれと言いたい訳じゃないんです。ただ少しでも良い。相手の事を知るべきです」

「……」

「ミャーの事を、そこまで」

「君は早く準備を終わらせてください。君は女性です。寝る場所なんかも別になる。それに女性には女性の準備と言うのがあるでしょう」

「ニャ―ーー」

「いいから早くしてくださいよ。もうすぐ出発予定なんですから」

「ニャ゛ーーーーーーーーーーー」

「そういえば、君も出発準備をしてくださいよ」


 あ?何も聞いてないが。


「今から外の調査になりますので。食料は問題ありません。この前に碌な報酬も用意できていないので、せめてこのぐらいは準備しますよ。まあ君が必要になる物が何か知らないので、食料ぐらいしか用意してませんが」

「いや、だから何をするんだよ」

「国外調査ですよ。まあ簡単に言えば、外にいるモンスターを調べる、あわよくば討伐する事が主な目的です。僕は他にも色々とありますが、君たちにはモンスターが居るかどうかの調査になりますね」


 君たちって、『獣』と組めってのかよ。


「まあダンジョンに行くようなものですよ。それよりも難易度は低いですが」

「その程度なら、一応は大丈夫だけどよ」

「では、あとは君だけですよ。ほら早くしてください。化粧なりなんなりするのなら時間が掛かるのも理解できますが、ただ必要な物を用意するだけでしょうに。時間はすぐそこまで迫ってるのですよ」

「そうやって焦らせるのがよくないニャ―!」

「僕は前から言っていたのですが、それをしなかったのは君ですよね?」

「ニャ、」

「言い訳は良いですから、早くしてください。時間が惜しいです」


 こいつは誰が相手でも変わらねえのな。






「ニャ!準備完了ニャ!」

「結局一時間前と持っている物が変わってないのですが」

「そんな事ないニャ。これとか、全くの別物ニャ」

「その辺りを語りたいのなら、とりあえず出発しますよ。夜に出発、又は夜までに到着できないのは危険ですので、早く出発したいのですよ」

「うニャ」

「君も大丈夫ですね?」

「そりゃ、まあ大丈夫だけどよ」

「それでは行きますよ。もう予定していた時間を過ぎているのですから」


 俺がこの店に来てから、結局一時間ちょい経った。特に必要な物なんてのも、俺には無いから、この時間は暇なだけだった。

 その間ずっとあいつが急かすのかと言えば、そうじゃなかった。興味がなくなったかのように、ソファでくつろぎ始めた。別に悪いとは思わんけど、あの急かしてたのは何だったんだって感じだ。


「ほら、ぼさっとしないで。まだ昼時とは言え、目的地に着く頃には夜になっているはずです。なんとしてもそれまでには到着しないといけないので」

「ニャ―」

 イルは人間性は多分クソですけど、あの三人の中ですと一番紳士的でもあります。ちょっと何言ってるのか理解し難いですけど。


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