六話 無償の救助
そもそもだ。助けるって言っても、モンスターのところに行くまでにも、その他のモンスターが出てくる可能性だってあるんだ。正直こんな平原だと、警戒のしようがないけど。
それにだ。言っても一キロも距離は無いけど、それでも結構な距離ではある。全力で走るにしてはちょっと長めで、楽に走るにしては短い。中途半端な距離だ。
こんな変なところで体力を使うなんてしたくないが、速く行かないと手遅れになる可能性がある。あの人がどれだけできるのか知らないが、あのモンスターの数だ。そうそう簡単にくたばるような奴はいないだろうけど、危ない事に変わりはない。
「くそっ」
あいつの言葉を借りるようで嫌だけど、なんで冒険者ってのは、誰も彼も自分第一なんだ。そりゃ、我が身は可愛いだろうさ。他人を助けるより、自分が生き残りたいだろうさ。
けど、結果として、助け合った方が生き残る可能性は高いだろ!毎回毎回モンスターの大群と出くわすたびに、囮を、それも人を残すとか理解できない。あんなの冒険者失格だろうが。俺なんかよりよっぽど失格だろうが。
「おいこら、化け物!てめえらの相手はこっちだ!」
近くに来て、ようやくモンスターの正確な数も理解できた。合計で23体。種類は様々で、動物の見た目とそっくりなのがいれば、人の子供の見た目をした、肌が爛れたようなのもいる。
このダンジョンの事なんて、俺はほとんど知らんけど。それでも、種族が違うモンスター同士がこんな風に、力を合わせてヒトに襲い掛かるなんて聞いたことが無い。しかもモンスター同士で争ってるって話もあるぐらいだ。こんな数のモンスターに襲われるって事は、よっぽど下の階層に行かないと無理だと言えるはずだ。
「おらっ!」
いくら強いモンスターが多いとは言え、所詮は一層。まだ何とかできる弱さだ。この多さだと、余裕なんて言えないが。ちょっと前ですら、10体もいるかいないかぐらいのあれで苦戦してたんだし。
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「おや?こんな場所に、階段?」
それは、確かに階段だった。そう、階段があった。
ここは一層、その最端だ。一番端ではないが、少し目を凝らせば、壁が見える。そのぐらいの距離ではある。
そしてこのダンジョンの一層の広さを考えると、ここはやはり最端になる。
そして、その壁の付近に、階段が確かにあった。イル達が遭遇したように、階段が透明になっていき、最後には完全になくなる。今まさに、その階段がなくなったタイミングだった。
「一階は階段がランダムで生成されるのは知っていましたが、地上に出る階段もランダムで生成されている?ではなぜ、ギルドが管理している階段は消えないのでしょう?そもそも、いくらランダムだとしても、今まで出くわした事が無いと言うのも不自然ですよね。僕が見逃していた可能性が一番でしょうが、流石の僕でもそんなへまはしないはずです。となると、最近になって地上への階段もランダムで生成されるようになった?それこそまさか。ダンジョンに意思があるとはとても思えません。……いや、新しいモンスターも徐々に増えてきている今、その可能性を否定するのは早計ですかね」
ダンジョンの常識の一つとして、各階層を繋げる階段は必ず一つ。二つ以上ある事はなく、階段が無い階層は、そこが最終階層とされている。たまに壁などの向こうに階段が隠れている時もあるのだが、それもほとんどない。なにせダンジョンの壁はヒトの技術などでは壊せず、何故か階段が隠されている事はほぼ無い。
そのため、地上と地下を繋ぐ階段もまた、一つしかない。そのためギルドが管理できている。もちろんダンジョンは未知が広がっていて、その常識も覆される可能性はある。だが地下と地上の境界が無くなった日から数えてみても、この常識だけは一切揺るがないものだった。
「確かに今、階段がありましたよね。そして消えた。僕の見間違え、は流石に無いでしょう。そこまで疲労が溜まっているはずないですし。なら、これからは、これを本格的に調べる必要性が出てきましたね。ですが、こんなのを知っている人なんているとは思えないですが」
地上と地下とを繋ぐ階段は、一つしかない。それは今まで変えられなかった常識だ。そんな常識を覆すような事があれば、冒険者どころか町中でその話が広まっているはずなのだ。なにせ今まで発見されなかった事実が見つかるかもしれないのだから。
それにだ。ただの一般人は、冒険者とギルドがあるおかげで、モンスターの脅威に怯えなくて済んでいる。冒険者が適度にモンスターを討伐し、入り口をギルドが管理している。そのためモンスターが地上に出てくる事は、ただの一度を除いて起きてない。
その平穏が崩れるのだ。そういった話題には神経質になるだろう。一般人には、モンスターに対抗する術を持ちえないのだから。
「まあ、焦ったところで、正確な情報は得られませんからね。急ぐ必要があるにしろ、時間をかけてじっくりと、確実な情報を得ないと。でないと、ただ混乱を招くだけですしね」
こういった話題は、一般人は特に神経質になる。だから、嘘だろうと本当だろうと、大慌てになる。なにせダンジョンなんかと無縁の人は、モンスターは未知で恐怖で、自分たちを襲ってくるものだと思っているのだ。なにも間違ってはいないが、抵抗できるかできないかでは、大きな差がある。
いざとなれば、冒険者が守ってくれるか?それは無理だろう。そもそも冒険者は常にダンジョンに潜っていて、町に居る時と言うのは、ほとんどが休息のためだ。体調などが万全になれば、またダンジョンに潜る。
そんな事、誰でも知っている。だからこそ、守ってもらえるとも思わない。そもそも冒険者には感謝しているだろうが、冒険者と言うものには関わりたくないと思うのが、平和を謳歌している一般人。何故自分から、野蛮と言われている冒険者と関わろうとするのか。
「おや?あんな啖呵を切っておきながら、全然じゃないですか。いや、この数相手ですと、善戦している方ですかね」
イルは情報屋を自称しているので、こういった初めて見るものはには反応してしまう。それこそ、モンスターが自分に向かってきていたとしても、興味がモンスターに行かないぐらいには。
だが勿論、他の事を忘れている訳ではない。
彼はある意味、とても不器用な人間だ。一つの事に没頭すれば、他の事は頭から離れてしまう。だが冷静になれば、その離れた事もしっかり思い出せる。だが一つに集中すれば、他の事を一切気にできないのだが。
「まあ、折角の新人ですし、ここで失うのは勿体ないですね。うちの評判も落ちる事になるでしょうし。ああ、こうなるなら下手に王に紹介しなければ良かったですね。見捨てる選択は無いですが」
と言いつつも、イルは特に急ぐ様子が無い。杖を突きながら、革の鞄を少しだけ揺らしながら。ただのんびりと歩いているように見える。
「にしても、モンスターの大群ですか。近々モンスターパレードでも起きるのですか?はぁ。調べなければいけない事が多すぎますよ。全く、どうしてこの国は情報屋がこんなに少ないのですか」
鞄の中を探っている。もちろん歩きながら。
鞄は完全に開ききっているのに、中身が散らばる事は無い。それどころか、中身が一切ない。にもかかわらず、鞄の中を探っている。
「ああ、ありました。討伐なんて面倒な手段を取らなくてもいいじゃないですか。非効率極まりないですよね」
何もないはずの場所から、瓶のような物に、紫色をした何かが詰まっている物を複数取り出した。そしてそれらを組み合わせる。
「君。助けるなら、もっと効率よくしなさい。そんなんですと、助けるべき相手すら危険に曝す事になりますよ」
「あ?てめえにだけは言われたくねぇ」
「全く。いつまで僕の事を侮っているのですか?成り損ないでも冒険者だったのでしょう?相手の実力を見極められなくてどうするのです」
「何言ってんだ。てめえはどう見ても、戦える見た目じゃねえだろ」
イルが持っていた瓶を、モンスターが一番多く集まっている場所に投げ込む。
「「「!!」」」
「ほら、そっちに行ったのは任せますよ。僕も万能ではないので、できない事の方が多いので」
「あ?てめえの方がモンスターが多いだろ!」
「だから、言ったでしょう。実力を見極められないでどうするのですか。……それと、相手の事より自分の事、ですよ?」
「なっ!?」
「ニャ!?」
イルが手に持っている杖を、モンスターに振り上げ、薙ぎ払い、突き刺す。どう見てもただの杖なのに、その硬度と言い、斬り味と言い、普通の剣よりも性能が上だ。
多少なりともモンスターを攻撃するには、抵抗と言うか、モンスターの骨や筋肉によって勢いが殺される。だがそう言ったのが一切ない。何の抵抗もなく、モンスターを攻撃していく。
「なにぼさっとしてるのです?そっちにも行ってるのですが」
「あ、ああ」
まさに効率よく、モンスターを殺していく。モンスター一匹に対して、必ず一撃で仕留めていく。それも行動できなくするとかでもなく、確実に息の根を止める一撃。
無駄な動きは、あるのかもしれない。なにせ見た目は、並の冒険者より圧倒的に下だ。ステータスが冒険者より上だったとしても、この体ではどうやっても全部の力を発揮できない。だからそこ、無駄な動きは出来てしまうだろう。
それでも、この程度のモンスターだと、その無駄があろうと関係ない。そのぐらいには実力差がある。もちろん武器の性能もあるが、それでもやはり、ステータスが一番重要になってくる。武器がどれだけよかろうと、使い手が無能だと本来の性能を発揮できないのだから。
「少々手を出し過ぎましたかね?これだと、依頼料を頂かないと割に合いませんよ」
イルはちゃんと金さえ払えば、できない事以外は引き受けてくれます。しっかりと金さえ払えば、ですが。
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