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なんでも屋は暇じゃない  作者: ゆきつき
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三十三話 移る

 あのバカ騒ぎが収まって、多少は彼らも自由に行動する事ができるようになった。まあ一歩でも商店街のようなヒトが集まる場所に行けば、即アウトだが。

 だから一応、そういった場所は避け、観光と洒落込んだ。武器を造ってもらう待ち時間を、それで潰してたと言う訳だ。


 そしてここから、その観光のところを。言ってもそんな大した事はしてないが。まあ、写真を撮ったのもこの時の為、必要な事ではある。




 まず最初は、温泉。

 何故これが最初だったかと言えば、夕暮れ時になれば大勢のヒトが集まる事になり、混乱を招きかねないから。と言う建前の元、自分達の貸し切り状態を体験したかった。

 実際、他人が大勢いるよりは、ゆっくり休めるだろうから、おかしな事は無い。


 そして勿論、混浴ではない。いくら仲の良いパーティーだったとしても、そこまでの関係に行くはずもなく。というよりも、そこの温泉には混浴が無いだけだが。

 普通、こういう場面でこそ、アマゾネスであるブラーブが男湯に忍び込み男性陣を襲うと言うイベントがあるはずなのだが、そういう事はない。色々理由があるのだが、その理由の一つとして、女湯にも彼女の姿は無かった。どういった理由かは、誰も知る由もないが。強いて言えば、彼女はどんなに怪我だらけになったとしても、他人に治療を任せなかった。まあ理由を探すには、かなり難易度が高いが。

 そのため、エラは一人でとても広い温泉を堪能した訳だ。これはいつもの事なので、寂しい一人温泉と言う訳では無い。だっていつも通りなんだし。

 男湯の方は、言うまでもない。ゴッリゴリのドワーフに、もっさもさの獣人。筋肉が無いと思わせるレベルに細いイル。その三人。ちょっとレベルじゃなくて、キャラが濃すぎる。むさ苦しいと言う表現は適切ではないのだろうが、やはりそんな男三人の裸など、むさ苦しいとしか言いようがない。いくら温泉が広いと言えど、せいぜい十人やそこらで入るぐらいの広さ。子供が走り回って遊ぶような広さでは、ギリギリない。まあ狭い。うん、むさ苦しいと言うには十分、だろう。






 色々かっ飛ばして、写真を撮った話に移ろう。


 ドワーフは生まれつき手先が器用だが、それの活用と言うべきか、集大成と言うべきか。カメラができた。それも何故か白黒をすっ飛ばしてのカラー。いや、青などのの色がある墨は量産が難しいようで、そこまでカラー写真を撮れる訳じゃないが。

 だから白黒写真の方が多いのだが、カラーの劣化版として白黒ができた。普通ならば逆だと思うのだが、まあドワーフが変態的な技術を生み出してしまったのだから仕方ない。


 まあどっちでも良い。とにかくカラー写真があるのだ。そして記念だなんだと言われ、写真館に連れ込まれ、更に言えば、それが店のサービスだ、的な事を言われればどうなるか。勿論白黒で撮る理由が無い。色有りで撮る理由もないのだが。まあ無料でやってくれるって言われたら、お高い方を選びたくなるのが心理。

 というより、彼らに選択肢は無かった。写真は、店のヒトが撮り、店で現像し、それを渡す訳だ。そしてまあ、変態技術が生み出したのは、なにもカメラだけと言う訳でも無かった。


 簡単な話、コピーが可能になっちゃった。

 と言う訳で。写真館のヒトからすれば、彼らが来たと言う証明用に、写真が欲しい訳だ。そしてそういう宣伝効果がある物は、どうせなら豪華にしたい。

 だから白黒じゃなくて、ちゃんと色がある状態にしたかった。

 勿論、個人用じゃなくて、店に彼らが来ましたよ、と言う宣伝用だ。間違っても、エルフの譲さんが綺麗だったから、カラーで保存したかったなんて下心は無い。そこは勘違いしないで貰いたい。とは写真館店主の言。


 そしてそんな店主の思惑なんて関係なく。彼らパーティーも、手に残るものがあるとなれば、断る理由もない。

 そもそも、残るにしても、やはり同じ指輪だとかアクセサリーを揃えるぐらいなものだ。

 だから、こういう風な、見ただけでわかる思い出になりえるものは無かった。まあ、冒険者が過度に仲良くなるべきではないのだが。言い方はあれだが、冒険者なんてすぐ死ぬ職業なのだし。どんな美男美女だろうと、冒険者だけは選ぶな、なんて格言があるぐらいだし。だからこそ冒険者同士ではかなり仲良くする訳でもあるが。


 だからまあ、写真を撮った。その一枚が、あの時イルが入れたまま忘れたもの。だが、どうだろう。そういった思い出の品を、忘れたりするだろうか?いや、イルならばその辺りは淡泊な感じっぽいのだが、それでも、忘れたりするだろうか?

 いや、無いだろう。ここはあえて他人の私があえて言わせてもらおう。イルはこういった品に関してだけは、必ず大切にするはずだ。それを証明するかのように、あの店の二部屋は、この部屋に住居人が居た時のままの状態にされている。もう少し攻めたところを言えば、家具類も当時のまま一切変わっていない。十数年使い、それもかなり雑に扱われた為、結構傷ついているが。それでも変えないのだ。

 そのため、何かしら理由があったに違い無い。簡単は話、冒険者のあの仲間以上に大切なヒトとの思いでの品と言うのがあったのだろう。


 そしてまあ、流石にこれ以上は語らない。無駄な推察は良いにしても、勝手にヒトの心を覗くような真似はやめよう。いつかきっとわかる時が来るはずなのだから。


 そのあとも色々あったが、とりあえずこの辺りにしておこう。イルの武器が杖になった時とか、エルフの里に行って唯一ブラーブだけは嫌われていたりだとか、獣人の里ではビルンスケルとヘルシュの面白おかしい喧嘩だったりとか。色々とあるけど、とりあえずこの辺りにしておこう。回想なんてのは良いもんじゃない。早く場面を進めたい。というより、進展がありそうなところまであの三人は進んでるため、これ以上は語れそうにない。


 以上、語り部の何者でした。




_______________________





 ようやく三層からは移動でき、四層に辿り着いた。

 雨の対策も面倒な訳だが。雨具なんて持っていっても、動きを阻害するようなやつしかないし。しかもそんな面倒なのを装備したところで、雨なんて防げないようなもんだし。目を守るにしても、隠しすぎると視界が悪くなるから。そんなのできないし。三層の対策は何もしない事とか言われるぐらいには対策するのが面倒なのに。

 四層は、本当にただただ鬱陶しい。


 四層。さっきまでとは打って変わって、平原じゃなく山岳地帯。それも雪が積もっているような環境。てかかなり豪雪だと思う。完全に前が見えない訳じゃないけど、油断すれば自分がどのあたりにいるのか判断できなくなる。


「どうも、変な感じですね……」

「どうしたんだ?別に変な事とかねえだろ。今降りて来たばっかりだってのに」

「ん?ああいえ。ただの独り言ですので、無視していただいて結構です」


 そんな物騒な独り言はやめろよ。いや、不安を煽るような独り言だな。


「うニャ~。ニャンだか眠いニャ」

「お前はガチで野生に帰るつもりか?冬眠でもすんのか?」


 そしてまあ勿論。雪が降るぐらいには寒い。さっきの雨で濡れた状態に追い打ちをかけてきてるから。マジで意思があってこの配置にされたとしか思えない。


「休憩するにしても、もう少し歩いてからですよ。ここだと、斜面が激しいですからね。休憩できるような場所じゃないですし」

「ふニャ~」


 まあ、どのぐらいかなんて正確に言えないけど、12時間ぐらいは歩きっぱなしだしな。眠いのは知らんけど、休みたいのはわかる。


「とにかく行きますよ。そしてできるならこんな場所で休憩なんてしたくないですし」

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