三十二話 宴
そしてまあ、そのあともイルが語った通りだ。
ヘルシュが本気でヒューマンを滅ぼそうと策を練ったり。それが悪ノリか本気だったのかは定かではないが、かなり本気で仲間も協力したり。
なんとか冷静に戻っても、彼は新たなヒューマンと関りを持とうとはしなかったり。
そしてまあ、やっぱりいい思い出だったのは、亜人の国での出来事になる。そしてもう一度言う事になるが、なんだかんだでこれが仲間全員にとっても楽しい思い出なので、ここでは省略。
残りの二人は女性のため、詳しいところまで語る事はできないが。
まず先に、ブラーヴについて。
彼女はアマゾネス。それ以上でもそれ以外でもない。あのパーティ―の中で誰よりも身長が高ければ、誰よりもタフネスで男らしい性格をしているが、アマゾネス以上の何者でもない。
以上。彼女は自分を語らない。そのため、そういった外見以上の事を見極めるのは困難だった。本当にこれぐらい。
はい。
次。エラ。
エルフである彼女は、やはりエルフなのだ。美しく、そして強い。
そのため亜人の中でも、まだ差別される事は少ない。いや、捕らえ娼館や貴族に売り渡されている以上、立派な差別と捉える事も出来るだろう。
と、いうよりも。下手に罵詈雑言を浴びせられるより、その種族の尊厳を傷つけられる事こそ、最も許せない事だろう。
とまあ、彼女も今までの例に漏れず、こういった現状を変えるべく、ヒューマンがいる国にやってきた。けなげですねぇ。
そしてその時のエルフの扱いの通り、彼女は誰よりも苦労した。
まずは亜人と言うだけの拒絶感を、隠そうともしないその態度。今までのその集落の様子とは、まるっきり違うのだ。味方もいない。これは、思いのほかキツイ。
だが勿論、これは前提としてわかっており、それを了承の上でここに来たのだ。
本題は、やはりエルフへのイメージだ。娼館に売られ、貴族に売られ。それ以上を知ろうともしないヒューマンには、どう思われるだろう。可哀想?そんなはず無いだろう。嫌われているにも関わらず、こんな場所で働いている。つまりは、そういう事が好きなのだと、勝手な想像が出来上がる。
つまり。女性からは別として、道行く男性からは、拒絶感とは別に性的な目で彼女を見る。べっぴんさんが稀有だから見てしまう、ではないのだ。本当に、それこそ「やらせてくれないかなぁ」などの下衆な考えが頭をよぎる。
これは、どうだったのだろう。少なくとも、嬉しいと思う事は無い。そして勿論、こんな事、語る事すら嫌う出来事だった。そしてこれ以上聞き出すような無礼をする仲間では無かった。
では、彼女が国に初めて来た事はこれぐらいで。
彼女が仲間になった事も、まあ良いだろう。そこは前も触れていなければ、触れる予定も特にない。
とりあえず、彼女がこの国に来たのは、エルフの印象を変える為と言う事だけを、覚えてもらいたい。
そして結論を。エルフの印象は確かによくなったが、今までのイメージを拭い去る事もできなかった。
何が言いたいのか?エルフは、戦いも出来て娼婦としても優秀だと、変な誤解を招く結果となった。
それはもう、馬鹿な貴族と、そういう性癖なヒトには刺さった。その分、エルフをヒトとして受け入れ始めたヒトが居るため、そういった事をよく思わないヒトも出て来たのが幸いだ。まあ行動に移ったのはごく僅かだが。そして行動に出たヒトも、下心が無いと言えば嘘になる。なんでこう、ヒューマンは馬鹿ばかりなんだ?
まあ良い。とりあえず、多少なりともエルフの扱いは変わった。これが彼女の功績と言う事だ。まあ途中からは、その目的に、私的な目的が含まれて来ていたが。そこはあえて触れずに行く。
ようやく、ようやくここから、亜人の国の出来事に移らさせてもらう。とは言っても、大量の話を期待されても困る。所詮は過去の話だ。曖昧な事を大量に語るより、確実な事を少量語らせてもらう。
まず欠かせないのが、やはり祭りだ。本当に国を巻き込んだ宴だ。
笑い話にしようとすれば、彼らが一切知らなかった事。そして知らないのに、周りが外堀を固めていくため、よくわからない催し物の主役として扱われる。だが勿論として、何があっての宴か知らず、更に何故自分達がこういう扱いを受けているのかもわからず、だがそれっぽい振る舞いをする。
結果として、そもそもすれ違う要素が無かったのだが、自分達でそれを創り出した。つまりまあ、王様だとかそこに住む国民の前で醜態を披露する結果となった。
そしてどういう訳か、これが彼らの亜人人気に更に火をつけた。それこそ英雄譚で出てくるような人物を想像していたら、自分達と同じようなつまらない事でも失敗するんだ、と。良くも悪くも彼らは有名にはなれた。
この宴は、三日三晩続いた。一日とかそこらの準備期間だったにも拘らず、盛大に祝られた。とは言っても、半分以上はドワーフが酒を飲み仕事をサボるための言い訳になっていた節はあるが。
その間、彼らはどうしてたのか。一日目は王様に招待さて、お城で優雅な夕食を。実際にやった事ではあるのだが、冒険者なんてかなり身分の下な彼らは、胃に穴があく思いだった。本当に、いろんな意味合いで。
二日目。ビルンスケルが実家へ帰還。その他メンバーは良い武器を求めにビルンスケルの実家へ来店。
あれやこれやとあり、武器がオーダーメイド。それも礼だなんだと言って全部タダになったり、流石に五人分は大変だから、一週間ちょいは必要になると言われたり。
まあ、そういう事だ。武器鍛冶屋に行ったらやるような事をやった。それだけ。
三日目。とりあえず観光気分で外に出たら、それこそ英雄扱い。それも庶民的なところを先日見せたばかりだったため、想像以上に住人からの好感度は高く、観光なんて碌にできなかった。
そして勿論、ここは男女別行動。意図した訳では無かったが、気が付けば男女別々のところに引っ張られていた。ヘルシュとビルンスケルとイル、ブラーブ、エラの三つのグループになってた。そうだね、男女で分けたなら、エラとブラーブは同じグループである必要があるよね。あの住人たちは見る目が無い。
亜人の国のため、勿論ドワーフ以外にもエルフだったり獣人だったりも暮している。知り合いじゃないにしろ、謎に再会を果たしたかのようなやり取りもちらほら見て取れた。
以上が宴の三日間全容。とにかくバカ騒ぎに巻き込まれた、と言う感想だろう。聞いていても、そう思った。