三十一話 経緯
とりあえず、ビルンスケルの話はこのあたりで良いだろう。もっと他の仲間の方が濃いエピソードが残っている。ただまあ、この亜人の国での出来事が、恐らく彼らにとって一番の思い出だが。まあ、他の仲間を語るならば、それは最後にとっておくべきだろう。結局、この話に帰ってくるのだから。
では、次に獣人のヘルシュの話だ。
彼は、さてどんな目的でヒューマンしかいない国にやってきたのか。結局曖昧なままだったが、極論を言えば、地位向上。そしてこれもまた、彼自身の地位と言うよりは、獣人の地位の為だろう。
だが、ああ。それは結局、達成される事は無かった。
何故か?……はて、何故だろう。ドワーフもエルフもアマゾネスも、そこそこの地位を確立できたのだが。いやまあ、相も変わらず亜人と言うだけで忌み嫌う層は一定数居るが、それが少なくなった。それこそが彼らが誇るべき成果。
なのだが、獣人だけは、一切この評価が変わる事は無かった。
この亜人が集まったパーティーのリーダーだったのだ。別になにかある訳でも無いが、それでもリーダーと言うのは、良くも悪くもパーティーの顔なのだ。つまり、例え仲間が悪印象を与えていても、リーダーがとても良いヒトなら、それなりに良いイメージを持たれる。逆に仲間が良いヒトだったとしても、リーダーが悪人ならば、その印象がパーティー全体の印象になってしまう。
そして。パーティーが成功、つまりは最高到達階層を更新すれば、それはリーダーの名誉になってくる。
これが悪いかどうかと言われれば、彼らにとっては別に悪い話ではない。なにせ、亜人が活躍した、と言う噂が流れるだけで、彼らは勝ちだ。
だから別に、彼だけが評判をかっさらおうと、別に問題ない。そこまで出来たヒト達ではないけれど、やはり亜人が活躍した、と言う評判がある分マシだった。彼が獣人だからこそ、許す事ができたのだろうが。
だが、それでも彼の良い話は聞ける事は無かった。今現在、もう過去の話と言う事なので、そもそも彼らの噂や評判などを聞く事は不可能に近いのだが。ヘルシュに関しては、活躍している時ですら、良い話は聞けなかった。だが真逆の、悪い噂なども特になかったが。
だが彼は、諦める事は無かった。なにせ、まあ、仲間の評判は上がってきているのだ。いつか自分も、なんて楽観視するような性格ではないが。
簡単に言えば、彼はこの仲間と居る時間が好きだった。差別などとは関係なく、種族が違うのにこうして笑えあえるのだ。まあ、イルが笑うところを見たヒトは、恐らくいないのだが。だが決して、彼が嫌がっていたと言う訳でも無い。彼らほどの付き合いになれば、無表情の中でも喜怒哀楽を見極める事が可能となっていた。だから彼も又、楽しんでいると言う事を理解できた。
だからこそ、続けてられた。自分の中の小さな世界かもしれないが、事実として、違う種族がこうして同じ釜の飯を食べ、しょうもないような話題で笑い合えるた。いつか、これを広げていければ。その思いもあった。だがやっぱり、このメンバーでいる時間が好きだったのだ。
だが結局、この評判は、最高到達階層を更新しても、変わる事は無かった。違う国の違うダンジョンとは言え、二度もその偉業を成したにも拘らず、彼だけは一切評判が変わらなかった。
これは彼らのブームが過ぎ去った後にわかった事なのだが、これは、巧みな情報操作の賜物だ。この場合、賜物と言うのは間違いなのだが、一部の、そう、亜人をよく思っていないヒトからすれば、情報操作の賜物だ。
何故、そのような事をしたのか。それは勿論、何処ととは言わないが、悪評などを流させない為。何処かに標的が向かえば、他の事にまで手が回せなくなる。そのため、獣人と言う、見た目からしてヒューマンからかけ離れた種族を悪に仕立て上げ、そちらに悪評を流すよう仕向けた。
そうだ。なにか隠さないといけない事があり、そういった悪評が噂程度だったとしても流れてはいけないような、とても大きな役割がある者達がやった事だ。そしてまあ、冒険者などを管理しているような場所など、数が少ないどころか、まあ一か所しかない。
ああ、だが。これ以上触れるのはやめておこう。無駄に知識を得て、国家と同等の組織を敵に回すなど、とてもじゃないがしない方が良い。いやまあ、既に答えを言っているようなものだが、言い切らなければ問題ない場面だってあるのだ。
話が逸れたが、彼の評判が上がる事は、なかったのだ。結局、彼だけは良い噂も悪い噂も無かった。それが良い事なのかは、少々測りかねるが、彼だけは噂と言う噂は無かった。良くも悪くも、彼の活躍は凄まじいものだったので、悪い噂があったとしてもかき消されただけ、と言うのが本当だろうが。まあ良い活躍をしたところで、それをせき止めようとしたとある場所によって、悪い噂も良い噂も聞く事ができなかった、と言う話だ。
だが、ここで少しだけ、話を遡ろう。具体的に言えば、彼らのパーティーが、まだ新参者だった時辺り。
あの、亜人の国に立ち寄って、里帰りをする事になった。その流れで、ヘルシュも勿論生まれ故郷に向かわざるを得ない状況に追い込まれ、泣く泣く故郷に帰ったのだが。ちょっと脇道に逸れるが、イルは断固として家族の話をしてこなかった為、里に帰ると言う選択肢が、皆の頭から消えており、里帰りはしていない。それと、ちょっと聞かされた話だけで、複雑な家庭環境だと、勝手に考えてた事も理由の一つだ。
まあいい。元に戻ろう。その里に帰ってからの事は、前に語られた通りだ。彼の妹が妊娠している事を知り、更には、具体的な目処が立っていた訳では無いが、一か月以内には、と言った具合で。更に言えば、彼女が選んだパートナーが、ヘルシュがよく知っている人物だったため、しばらくこの里に滞在する事になった。
一番嫌がっていたはずの本人が、いざこの場まで来れば一番テンションが高い、なんてのはよくある事だ。そしてそのあとの盛り上がりっぷりを見て、しばらく仲間からは温かな目で見られる事もあったが、それは又別の話。
とまあ、一応は、そういった経緯があったのだが、本題はこちらではない。これも又この前に語られているが、彼らの里が、襲われた。
その時、いつにも増して慌てた様子のギルド職員が、仕事を張り出しに来た。よくある事ではないが、全くない事でもない。見慣れたヒトが多い訳でも少ない訳でも無い。いわゆる、冒険者ならば知っている事、だ。その内容は、既に忘れたが、ただ一つ、こうあった。『大掛かりな作戦が予想されるため、しっかりと準備されたし』。
別におかしなところは一つもなく、と言うか、いつも通りの内容の為、疑うところを見つけ出せないぐらいだった。
そして勿論、自主参加の小さめな依頼とは言え、ギルドが正式に依頼として出した以上、それを成功、そして活躍すれば、多少なりとも名誉などが得られる。ならば参加するしかないだろう。彼らはそれを求めにやってきた。
だが、彼らは参加できなかった。本作戦は低階層を隅々まで調べるための作戦であり、彼らのような実力者は、いつも通りに、深い階層に潜ってくれと。別におかしな事は無い。不自然な感じはするが、別におかしな事は無いだろう。最高到達階層を更新したとは、まさに偉業だ。そんな英雄達が、既に判明している低階層を、より鮮明にさせる為の調査には勿体ないと、別におかしな事ではない。
だから、無理にとは言わなかった。無駄にギルドに盾突いていい事が無い事など、既に知っている。だからすぐさま身を引いた。もうちょっと依頼を詳しく見るなどせず、本当にすぐに。
だが。その決断は間違いだったと、思い知らされる。何故?自分の生まれ故郷のある、山が燃やされたのだから。
これとそれとじゃ話が繋がらないが、前にイルが言った通りだ。討伐隊では無かったが、確かにダンジョンに潜る為に組まれた一時的なパーティー。だが結局、その調査は少人数でしか行われず、それもダンジョンには潜っていなかった。
結果は既に伝えれらている通り、集落は崩壊した。それも、ヒューマンの、そしてギルドによって。
獣人だけやたら厳しい扱いを受けてるのは何故なんですかね。気が付いたらこうなってたんですけど、心当たりある方います?