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なんでも屋は暇じゃない  作者: ゆきつき
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二十九話 過去の噂

「僕もほとんど理解できませんでしたが、写真とは光を僕達に当て、その光がレンズ、でしたっけ?それを利用して実像を作るとか。それを何かしら後に、このような写真ができるのだとか」


 ……。

 いやあの、そういう、難しい話が聞きたかった訳じゃないんだが。まともな学が無い俺に、光がどうとか言われても理解できるはず無いだろ。てか光を当てたところで、それが何になるんだ?ただ目くらましにしかならなくないか?


「ニャ!それを聞きたい訳じゃないニャ!もっとこう、ここに描かれているヒトの事が聞きたいのニャ!」

「おや、そうでしたか。写真がどうとか聞いてきたので、てっきりこちらが気になっているとばかり」

「そんなはずないニャ!」


 うんまあ、そうなんだろうけど。写真の事を持ち出したのはあいつなんだが?そりゃ、知識人なら興味をそそられる話題なんかもしれねえけどよ。普通、そんなの興味ねえだろ。


「まあ、仲間の事なら、良い感じに時間を潰せますかね」

「じゃあ最初からそっちを話せよ」

「これこそ、何処から話すべきかわからないのですがね。えー、どのあたりから話すべきですかね?」


 いや、こっちに聞かれても。んな事知らねえよ。知らねえから聞いてるんだよ。


「ニャら、イル君がパーティーに入った時から聞きたいニャ!」

「なるほど、わかりました」


 あっ、良いのね。写真の時の話てきなのじゃなくて、マジで仲間の話になるんだな。うん、ならなんで写真を出したんだ?


「そうですね。僕が仲間に入る前に、既にあの四人はパーティーを組んでいましたね。それでまあ、臨時で荷物持ちと言うか、サポーターを募集してるようでして、その時に初めて彼らを認識しました」


 えーっと、こいつが、サポーター?いやまあ、情報屋をやってるから、そういう事の方が得意なんだろうけど、え?こいつが?荷物持ち?ちょっとどころかかなり意味が分からんぞ。うんまあ、昔の事だし、おかしな話ではないだろうけどよ。え、こいつがサポーターって、どんなパーティーなの、それ?


「向こうから僕に話しかけて来まして。まあ僕も一人で行ける階層など限られている訳ですし、断る理由が無かったのですが」


 あ?確かあのパーティー、三人は亜人だったよな?獣人にドワーフにエルフ。獣が最も嫌われてるから他はイメージが少ないかもしれないけど、亜人ってだけで忌み嫌う輩が居る。それどころか、奴隷にすらしたくないとか言う一部のお偉いさんまで居たぐらいだ。

 そんな奴等から話しかけて来たってなると、多少なりとも忌避感とか抱かねえのか?今でこそあのケモ耳の性格的なのを理解できたから良いけど、俺は多分他の獣人に遭っても前の対応と同じようになると思う。


「そうそう、前はちゃんと言ってませんでしたね。リーダーが獣人のヘルシュ。ドワーフのビルンスケル。エルフのエラ。アマゾネスのブラーヴの四人です」

「は?ちょ、おま、あれがアマゾネスだってか?どう見ても男だったろ」

「君はもう少し、ヒトを外見だけで判断する癖をどうにかするべきですよ?」


 いや、そんな事言われても。あの五人の中だと一番身長も高ければ、ドワーフのおっさんとどっこいぐらいの筋肉量だったし、あと顔が完全に男の骨付きなんだけど。うん、ちょっとぐらいは見た目で判断しないといけねえだろ。


「話を戻しますよ。その四人のパーティーの、丁度サポーター的立ち位置で仲間になった訳です」



_____________




 彼は、有名だった。冒険者で知らない者が居ないほど、彼の名は有名になっていた。

 だが、勘違いしてはいけない。今の彼を見た通り、彼の良い噂など、これっぽっちも流れていなかった。彼が有名になったのは、その悪名が、あまりにも質が悪かったからだ。

 具体的に、どのような噂だったのか。それはもう、とても下らない噂だ。『あいつは、俺達が止めを刺さなかったモンスターに止めを刺し、挙句俺達全員に行き渡るはずの経験値を、あいつが独り占めにする』などと言う、荒唐無稽な話だ。

 そもそも、モンスターを倒すだけで経験値が仲間全員に行き渡っているのかどうかもわかるはずない。モンスターに最後を与えた者に経験値が行くかもしれないし、モンスターに最もダメージを与えた者に経験値を得るかもしれない。そう、何もわかっていない。わかるはずもない。何せ確認方法が無いのだから。

 にも拘わらず、そのようなありもしない事が噂として流れていく。何処にも信憑性の欠片も無い噂が、どんどん誇張されて広がっていく。


 そして勿論、あの噂はすべて違う。いや、噂が流れ出る以上、その元となるような出来事があったのは確実だろう。だが所詮は噂だ。それを信じ込むなんてありえないだろう。

 普通なら、普通の感性があるならば、自分についての出鱈目が流されれば、それを取り消させようと努力するはずだ。ありもしない噂のせいで、自分の評判が勝手に下がってしまうのだから。

 だが、イルはそれを、どうとも思わなかった。思う必要性を感じなかった。自分の事を言って優越感に浸れるのならば、その幻想を抱かせておこう。自分とは関係なければ、仕事にも影響する訳では無いのだから。

 ここまでくれば、一周回って腹が立つ。だがまあ、こういった、変な噂を流すような輩は、相手の事を陥れる事だけを考えているため、これがまた、面倒な事に作用されてしまうのだ。そう、抵抗しないのならば、もっとやっても大丈夫だと思われる。


 結果、こんな馬鹿げた噂だけですら、彼は有名になってしまった。


 だが、彼はこれだけじゃなかった。良くも悪くも、彼は優秀だった。情報を売っている訳では無かったのだが、彼から聞いた情報は、とても活躍してくれた。なんでも、彼は自分で情報を集め、それのどう活かすか考え、それを与えた。

 これは実に、そう、泥臭いような、生き残るための情報だった。モンスターの倒したかではない。どうすれば自分が無事に生き残る事ができるかの情報だった。結果としてモンスターの倒し方などがあるが。

 それは実にカッコ悪く、冒険者とは近いようで、冒険者のそれとは程遠い。

 冒険者は命を捨ててでも、モンスターのいない国にすべくダンジョンに潜っているのだ。そこを、生き残るための情報は、侮辱されてもおかしくない事ではあったのだ。ただまあ、冒険者だって死にたい訳では無いので、そのような事にはならなかったが。


 そして、その生き残る情報を使っていると言う噂を、何処からか聞きつけた四人組が、イルの元に尋ねて来た。

 簡単に言えば、仲間に入れるため。もうちょっと詳しく言えば、彼がどのぐらいあの噂通りなのかを確認するため。もっと言えば、彼らのパーティーは脳筋過ぎて、頭脳役が欲しかった。

 まあ、これの半分は失敗に終わった。半分は成功だが、やはり失敗だろう。仲間には入ってくれた。噂は半分以上嘘だった。彼も又、頭脳役とは程遠い脳が筋肉に支配された残念な人種であった。けど、彼の性格上、深追いをする事は趣味じゃない為、パーティーのストッパーの役目を与えられた訳だが、それはまた別の話。

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