二十八話 万能ではない
「僕達はまず、五階まで進みます」
「「……」」
「そして、そこにいるヒト型のモンスターを狩ります。狩りつくす勢いで狩ります」
いやあの、そもそも五層に行くってだけで着いていけてないんだけど。いやさ。あいつの基準だと五層までが練習、みたいに思ってるらしいけど。あんなのは一部の、本当に強いごく一部だけの思考だからな。そりゃ他のダンジョンだと最初のボスまでが練習って言えるけど、あれは全体的にモンスターも弱いから言えるのであって、このダンジョンだとモンスターが強すぎるから、あんな例にあてはめないで欲しい。
普通の、冒険者で言えばゴールドにギリギリ届かないシルバーですら、五層はかなり危険なんだからな?これ、冒険者でもかなり上の方だからな?ゴールドに到達出来てる冒険者なんて、一割もいねえからな?
そんな当たり前、みたいに五層まで進むって、もう意味わからんだろ。具体的にどのあたりで死んでるのかわからんけど、最近で言えばそこまで到達できた冒険者ってほぼ聞かないからな?せいぜい五層の階段を確認したぐらいで、回復薬とか尽きそうになってるから引き上げる、って感じだから。
そもそもこのダンジョンは全体的に広大なマップをしてるせいで、薬とか食料の消費も面倒な量になってくるってのに。
「現状、それ以下を確認する訳にもいかず、そこまでしか確認してませんが。まあ五階に目的のモンスターがいるのは確認済みですし、そこから徐々に上に上がっていく感じになりますね」
この言い方、ちゃんとした理由みたいなのがあれば、五層以下にも行けるみたいな言い方だよな?このダンジョンの最高到達階層って、確か、八層だったか?
いや、これは今考えても仕方無い。今必要なのは、
「いや、そういう事を聞きたいんじゃなくてだな。そもそも五層を攻略できるだけの実力がねえんだが?」
「別に大丈夫ですよ。あの辺りまでなら、僕一人でもどうとでもできますし」
おう、その自信が羨ましい。
「それに自分より格下の相手と戦っていても、レベルが上がるのが遅いだけですよ」
「いや、理屈はわかるけどよ。そもそも俺ですらあの辺りは厳しいってのに、更にケモ耳まで連れていくなんて、無謀にもほどがあるだろうが」
「そうニャ!ミャーにはまだ早いニャ!」
「認めないよりは全然良いと思うけど、そんな開き直っても困るからな、それ」
「大丈夫ですよ。先程も言ったでしょう。あの程度なら、君たち二人を守りながらでも余裕ですよ。流石にボスが出てくると、君たちにも戦ってもらう事にはなりますが」
ボスモンスターって、言ってもあのモンスターパレードの前に討伐されたんじゃないのか?ほら、冒険者を大人数集めて、モンスターパレードにボスモンスターが紛れないように先に潰してるはずだが。まあ実際、その時にどのぐらい冒険者を犠牲にしたのか知らんけど。
「ですけど、まあ君には戦ってもらいますよ?」
「あ?だから、俺はまだ厳しいって」
「五階と言えど、三階ぐらいから既にやってきてる事の繰り返しですよ。その階層にボスが居る事と、少々モンスター全体のレベルが上がっているだけであって」
「だから、それが大きな差だって言ってんだよ」
ヒューマンだと、1レベルの差とかはほとんど無いけど。モンスターにもレベルって概念があるのか知らないけど、一層ずつ下に下がれば、その分強くなってる。ヒューマンで言うところの、10レベルの差がありそう。
「もう一度言いますよ?三階からの繰り返しなんですよ、所詮は。強いモンスターも居れば、その階層に見合わない弱いモンスターも居る。そして五階はボスが居る分、他に沸いて出てくるモンスターが帳尻を合わせるために弱くなっているのです。良いですか?本当に厳しいのはボス階層ではなく、それの一個前なんです。勿論その階層に見合った強さのモンスターも居ますが、それが少ないと言う話です」
そう言われても、やっぱ信じれないよな。なにせ、自分の命が懸かってるんだ。信じないといけないだろうけど、やっぱ怖いもんは怖いんだよ。
てかボスが強いかあ帳尻を合わせて弱くなるって言っても、五層なんて普通に強いモンスターがいるから。そりゃ、こいつみたいな専門家になれば、五層にしたら弱いモンスターとか言えるんだろうけど。
「それに、危なくなりそうでしたらちゃんと手を貸しますよ。先程から言ってるでしょう?あの階層ですと、別に危なげなく倒せますから」
この妙に説得力のある感じが腹立つ。
「それと君は、別に戦わなくても良いですが、情報の集め方を教えますからね?いきなり実践させる予定は無いですが、その目で見なければわからない事もあるでしょう?」
「そうニャけど。五層って、やっぱり怖いニャ。ミャーのレベルを超えてるニャ」
「まあ、あくまで想定ではありますが、五階での調査は短めの予定ですので、そこまで怯える必要はありませんよ。それに、あちらもああは言ってますが、少々過大評価してるようですしね。戦えば意外と、と言う事もあり得ますし。なんなら僕の近くに居てくれれば、守る事もできますから。不用意に一人の行動はしない事です」
「わかったニャ!」
それで良いのか?あの言葉に丸め込まれた感じだったけど、本当にあれでよかったのか?いやまあ、守るって部分だけは妙に説得力があったけど。実際、あいつは強いからなぁ。それだけ説得力も出るって事か。
「まあ、そういった事ですので、出来る限り戦闘は避けますよ。無駄に体力を消費したくないので。四階もできる限り戦闘を避けますが、逃げずに倒した方が良いモンスターも居ますので、その辺りは臨機応変に対応してください」
「まあどうにかなるか」
もう変に悪い事を考えるのはやめておこう。こう、出来るって思ってる方が良い。……けど、仲間が殺されたのも、言って五層手前だったんだが。
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「ニャー。ダンジョンって、こんな静かだったニャ?」
「確かに、モンスターに遭遇しねえな」
「……この静けさ、どうも不気味ですよね」
「あ?別にモンスターが出てこないのは良い事だろ?ほら、体力温存とか言ってたじゃねえか」
そもそもモンスターと遭遇するのが当たり前のダンジョンだけど。別に遭わないに越したことは無いだろ。それだけ死ぬ可能性が減るんだし。
「いえ、まあその通りですが」
「うニャー!何か面白い話題は無いニャ!」
「お前はもっと危機感ってもんを
「そんニャの、さっきまであったニャ!けど無駄だったニャ!」
いやまあそうだけれども。モンスターと特に遭遇する事もなく、今三層。別に走ってるとかでも無いし、他の冒険者がモンスターと戦ってる場面を見つけれるって訳でも無い。まあ平原ダンジョンで他の冒険者とすれ違う事はあっても、戦闘してる場面に遭遇する事はほとんど無いけど。
「それに、話をしてても、警戒してニャイ事にはならニャイ」
「まあそうだけど」
そんな事言い始めたら、何でもありになりそうだけど。
まあ、俺もなんだかんだ、話題があった方が助かるってもんだけど。
「そういやさ。あの客、なんて言うんだ?なんか見た事ある見た目だったんだが」
「一応、客の情報は秘密事項なのですが」
そうは言っても、な?俺だって一応はあの店の従業員なんだ。教えてもらってもよくないか?
「まあ、君達は従業員ですし、問題無いですかね。ハイラント・フェリエラー、と言うようですね」
「それ、ガチの有名人じゃねえかよ!」
王都、って言っても大体が王が居る国だから、この国も王都って言えるだろうけど。とりあえず言われているのは、どの国よりも栄えている国、『王都』。
栄えている理由の一つとして、ギルドの本部があり、ダンジョンを本格的に攻略していると言う事、らしい。自分の眼で見たとは言え、どこも本気でダンジョンを攻略してるように見えるけど、まあ栄えているのは事実だ。
そしてこの、『ハイラント・フェリエラー』って、その王都で一番の冒険者だ。そいつが居るパーティーが、近頃更新されてなかった最高到達階層を三層ぐらい更新したとかなんとか。正直、馬鹿みたいに騒いでたのは覚えてるけど、それが何の結果で起きたバカ騒ぎかは覚えてないけど。
「は!?お前、知らねえのかよ!?」
「別に僕は万能ではないので、知らない事の方が多いですからね。それに、自分が今いる国の事すらイマイチわかっていないのに、他の国の事など知るはずも無いですよ」
「そりゃまあ、そうだけど。最高到達階層を更新した話程度だったら、ここでも聞くだろうよ」
「……君はどうです?」
「ミャ?ミャーに聞くのかニャ?ヒューマンの事ニャンか、知ってる事の方が少ないニャよ」
「まあ、そうですよね。それに他の国がダンジョンを攻略しようが、他の国には無縁ですし。戦う力の無い住人なら興味津々でしょうが、冒険者にとっては嬉しい知らせと言う訳でも無いでしょう。自分達の仕事がなくなる訳ですし」
いやまあ、そうだけど。それでも、冒険者の仕事がなくなる分には良い事だろうに。その分平和になった事だろう。
「とにかく、僕はよく知らないヒトでしたよ。まあ知ったところで何かある訳でも無いですし」
「ドライだな、おい」
実際、その程度の話なんだろうけどさ。ダンジョンすべてを攻略した訳でも無いし。
「うニャ―!そんな話は嫌ニャ!もっとミャーが楽しめる話題が良いニャ!ミャーが楽しめない話題ニャンて嫌ニャよ」
「なんでそんな我儘なんだお前?」
「イル君、ニャにかない?」
今更だけどよ。こいつのニャー基準ってなんなの?さっきまではニャイニャイ言ってたのに、今のあれは普通にないだったし。うーん、よくわからん。
「別に面白い話などありませんよ?」
「話題があるニャ!?なら話すニャ!」
「まあ、別に隠すような事でもないでしょうし、あの写真の事についてでも話しますか」
「あ?」
「しゃしん、って、あの凄い絵の事にゃ?」
「そうですね。まあ、そんな大層な話でもないでしょうが、暇つぶしにはなるでしょう」
あの絵か。なるほど確かにあれは謎技術だったな。細かなところまで綺麗に色が付いてたし。他のヒトを知らないから断定できないけど、あいつに関してはめっちゃそっくりだったし。いくら絵師だったとしても、あそこまで正確に描く事はできないと思う。
それにしても、あんな技術があるなら、もっと有名だと思うんだが。俺もそこそこ国を移動する事はあったけど、そんな話は聞いたこと無いけど。
「まずは、どの辺りから話すべきですかね?本当に写真だけなら、一瞬で終わるような話ですし」
写真があるのか!?じゃあ僕はエルフのムフフな写真をご所望します。