二十七話 売る
「では、報告させてもらいますね」
「本当に一週間で情報を集めたってのか?」
イルの仕事ぶりは、驚かずにはいられないだろう。簡単な事であるならば、一週間もかからず情報を集める事ができるだろうが、ギルドはそんな簡単に情報を集められる場所ではないのだ。
そもそもがギルドの情報と言うのは出回っていないのに。それをたったの一週間で終わらせたと言うのだ。まあどのぐらいの価値が付く情報かはわからないが。
「ギルドに対する手札に成りえるかは微妙なところですが、これは冒険者を止めたあなたにはかなり有効な情報になるでしょう」
「それは何だ?」
「それですが、思っていた以上の情報になったため、もう少し料金を吊り上げる必要がありますね。まあ別に知らなくても問題ないような事でしょうが」
この情報は、イルすら予想できなかった、そして貴重な情報。
「金なら問題ない。どのぐらい渡せばいい?」
「……あなたほど、お金の心配をしないヒトはいないでしょうね」
「金なら、余生を遊べる程度には溜まってるんでな。まあ遊ぶつもりもないが。それで、どのぐらい?」
そのため、あの金額では足りなかった。これは情報屋の匙加減ではあるのだが、今回得た情報は、あれだけで250000コル以上の価値がある。それこそ、国を滅ぼす事の出来るような情報。
「100000コルぐらいですかね」
「ほら」
「本当、あなたは優れた冒険者だったようですね。ええ、では約束通りに話しましょう」
ただ、イルも別に、金稼ぎの為に情報屋をやっている訳ではない。これは正確ではないだろうが、イルは別に、金に困っている訳ではない。そのため比較的、他の情報屋と比べ料金設定も易しい。
「僕達がステータスカードと呼んでいる物、あれはただのコピーに過ぎません」
「??」
「僕も今までそこを疑った事は無かったのですが、まさかでしたよ。やはりギルドには謎の技術があるのは確実ですけど、それ以上に驚きの結果です」
「結局何を知ったんだ?」
「『ステータスオープン』。それを言えば、自分のステータスが見る事ができます」
だから、この情報は貴重だ。何せ、冒険者ですら知らず、尚且つギルド職員ですら知ってるヒトが少ないだろう。
そして、これを知られれば、ギルドの存在価値が、本当にダンジョンの管理だけになりえる。そもそも冒険者の中にすら入り口を管理する事を疑問視するヒトも居るのだ。
それは市民も同じで、別に冒険者が入っていけるなら何でもいいと思っている。何せほとんど仕事もしてないのに、国からも支援を受けれているのだ。不満を抱く層も一定数いる。
そこにステータスをすべてのヒトに与えればどうなるのか。これは考えすぎだろうが、ステータスを与えられる事により、ギルドのことをよく層が、反旗を翻す可能性があると言う事。兵士以上の戦力を持った市民が、国家に反逆する可能性がある事。
そのため、冒険者と言うダンジョンに入る事を生業とするヒトにのみ、ステータスを見る事を許された。この実態を知ってるのはギルドの上層部のみだろうが。
「では、僕はこれで伝え終わったので」
「これが本当に有効なのか?俺にはイマイチ理解できそうにないが」
「まず一つ。今までギルドが勝手にステータスを更新していたのが、それをせずともステータスを知る事ができるようになった事。二つ。これにより僕のようなギルドの手を離れたヒトだったとしても、自分の実力を把握できるようになる事。三つ。今までステータスカードを勝手に作られてステータスが優秀だったヒトに優秀だなんだと嘘をついて、死地に送っていたギルドの所業がなくなると言う事。とまあ、軽く考えてこの程度は出てきますね」
まあ、実際、問題として一番大きいのは、最後の奴だろう。
ステータスは、一人一人必ず持っている。今までは冒険者にならなければ確認する事ができなかったが、それが無くなった。そして今まで見えなかった事を良い事に、レベルが多少上がっているヒトを相手に、『君は天才だ。冒険者になる前から、こんなにもステータスが高いのだから。君はこれから冒険者を引っ張ってもらう存在になる』などと、適当な事を言い冒険者にさせる。結果は自分を天才だと思い込んだ残念なヒトが量産され、死ぬヒトが増えたのだが。
「使い方はあなたで考えてください。僕はあくまでも情報を提供するだけであり、その用途まで口出しするのは仕事ではないので。まあ、また御縁がありましたら、この店をご利用ください」
「ありがとう」
別に、イルにとっては情報はあくまでも情報。それだけでも脅威なのは変わらないが、所詮ただの文字列。それだけで意味を見出すのではなく、それを如何に活用するかが肝心なのだ。
隣人は殺人鬼と言われ、その後の行動が大事なのだ。今まで通り生活するのか、さっさと引っ越しなどするか。とにかく、情報を聞くだけではない。それを聞いてどうするのか。それこそが大事なのだ。
「ああ、それと。これからギルドと離れて、更に働くと言うのでしたら。その髪色は目立ちすぎますよ」
「……忠告どうも」
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やっぱり、買い出しの時はやたら高値で売りつけられた。いくら金は気にしなくても大丈夫と言われても、気になるもんは気になる。けちんぼ主夫って訳じゃないから、格安で買う事に拘りがある訳でも無いけど。できるなら、安くできる部分は安くしたい。いわゆる貧乏性って奴だよな。まあ、俺の出費じゃないから別に良いけどさ。
「それで、いつ頃出発すんだ?」
「準備が整っているのあれば、今すぐにでも出発できますよ。僕としては、もう出発したいぐらいですが、そこの猫が駄々をこねているのでね。無理やり連れていく訳にも行きませんし、とりあえず明日出発ですかね」
あいつ、いよいよ家主にすら猫判定されたんだな。
「ニャ!行く決心ができたニャ!」
「だ、そうです。では行きますよ」
「おう、そうか」
なんで決定権があいつにあるんだ?いやまあ、行く気のない奴を無理にダンジョンに連れて行って危険な目に遭うってのは、良く聞く話ではあるけど。こいつの一声で行動が変わったぞ。いやまあ、行く気の無い奴が行く気になったんだし、そこまで大きな問題じゃねえけど。
「ほら、早くしてください。猫は気が変わりやすいのですよ」
「せめてヒトって認識で居てやれよ、家主ぐらい」
まあ、あいつは結構、うん。すぐに気変わりしてるけどさ。
「今回は調べないといけない事が結構あるので、急いでください」
「わかったよ」
まあ、元々出発できる準備ではいたから。今すぐ出発でもなんも問題ないけど。
「それと君、ナイフを持っているのですよね?」
「あ?お前に言ったか?」
「まあ、耳が良いと言う事で。多少ならば、扱いを教える事も出来ますので。調査の合間に教える事になると思いますので、それなりの準備を」
「おう、そうか」
こいつ、ホントなんでそんな出来るんだ?両手剣も持ってたし。しかもただ持ってるだけじゃなくて、ちゃんと使えるってのもヤバいだろ。
しかも武器って言えないような、杖すら使えてるんだろ?しかもふっつーに巧かったし。こいつなんなの?欠点とかねえの?
「それと君には、多少情報収集の仕方を教えますので。そのつもりで」
「ふニャ!」
「それとも、僕相手に戦闘訓練でもしますか?」
「情報の、集め方を、教えて欲しい、ニャ」
なに、この、え?そんな苦渋の選択だったの、今の?え?こいつは確かに強いけど、そんな奴に訓練してもらえるって、良い事では、ないのか?
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