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なんでも屋は暇じゃない  作者: ゆきつき
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二十五話 依頼

「それでは、準備をしておいてください。かなり長めの調査になるはずですので」

「具体的に、どのぐらい掛かる予定なんだ?」

「一か月から二か月、でしょうかね?正直なところ、あのモンスターはどの階層にも出現報告があるせいで、正直見積もるのが難しいですね。流石にそれ以上掛かるとなると、地上に戻る事になると思いますが」


 また、結構な長期調査になるのか。一か月か二か月て、遠征と同じぐらいの時間だよな?しかも結構下の階層まで行く遠征じゃん。


「それと、今回は君も来てもらいますよ?」

「ミャ?ミャーが?」

「別に一人ですべてやっても問題は無いですが、いつまでも家に居られても困るのでね。多少なりとも調査の仕方を覚えて頂かないと。それか最低限、三階から五階ぐらいまでのモンスター相手に苦戦せずに戦える力を身に着けるか」

「ニャ、それ、普通に言ったけど、冒険者のニャかだと、かなり上位の」

「何を馬鹿げた事を。この国のレベルが低すぎるのですよ。そもそも最初のボスまでが、そのダンジョンの練習と言われているのに。何故誰もそのボスを攻略できていないのですか。それが不思議でなりませんよ」


 こいつはいつも簡単に言ってくれるけど、常人には厳しいんだよな。まあ最初のボスまでが練習ってのも聞くけど。残念な事に。


「そんなの、イル君がおかしいからできるだけニャ!」

「僕がおかしいのではなく、この国にいる冒険者のレベルがおかしいだけですよ。五階にボスが居るのですから、準備さえしっかりすれば、他の国のダンジョンよりも圧倒的に攻略しやすいはずなんですから」


 あ?ここのダンジョン、五層にボスがいるのか?


「他の場所だと、十階層ずつボスが配置されてるんじゃなかったか?」

「一つの考えとして、ここは他のダンジョンより横に広い分、他のダンジョンよりも下に続いていない可能性があります。まあ単にレベルが全体的に高いせいで、ボスが五階ずつ居るだけかもしれませんが」


 そうなると、普通にヤバいだろ。だって五層の普通に湧いてくるモンスターですら、今までの階層のモンスターと比べものにならないぐらいには強かったぞ?てかそのせいで仲間が死んだってのに。


「とにかく、この店にいる以上は、こちらの方針に従ってもらうしかないですよ。少なくとも、情報を提供する側は、その辺にいる冒険者より強くなければ話になりませんから」

「ミャぎゃ」

「どうした、しっぽを踏まれた猫みたいな事を出して」

「ミャー、そんにゃ強くなれニャイ」

「だから、せめて情報の集め方などを知ってもらいたいのですよ」


 カランカラン


「おや?いらっしゃい。なにか用ですか?」


 この、客が来たにも拘らず不愛想な感じ。どうにかならねえのか?こんなんだから、なんでも屋としても情報屋としても絶妙に売れてないんじゃないのか?


「ここが、ウィ・リンクで良いのか?」

「そうですよ」

「聞いた話だと、店主一人だって話だったんだが?」

「まあ従業員が増えただけですよ。ところで、その名前を聞いてここに来たのですから、何か仕事を持ってきたのでしょう?」


 ……ちゃんと有名だったんだ。あれ?知らなかった俺の方がおかしいのか?けどこんな場所にある店の事なんて知る事ねえだろ。


「ああ、かなり訳ありな感じだから、こんな廃れた場所まで来たんだ」


 店主も店主なら、客も客なんだろうな。全く礼儀が無いだろ。来ていきなり、廃れた場所て。まあ否定しないけど。外装はあんなだけど、内装はちゃんとしてるから。


「ギルドの悪評」

「!?」

「あれは、どこまで本当なんだ?」

「なんだそりゃ」


 俺だってこいつから、なんだかんだギルドを信じるなみたいな話は聞いてたけど、こいつの思い込みじゃねえの?別にギルドって、良くも悪くもないだろ。


「君たち、買い出しに行ってください。長い時間ダンジョンに潜る事になるので、それに見合った備えが必要になるので」

「あ?」

「そしてあと一週間は、ダンジョンに潜れないと思うので」


 いや、なにこれ。勝手に話が進んで行くんだけど。それはいつも通りにしろ、こう、いつも以上にあいつの勝手って言うか。俺が話についていけないってより、あいつが無理やり話を進めた感じの。


「おい、説明ぐらい」

「世の中、知る必要のない事もあるのです、良いですね?」


 こいつが言えば、無駄に説得力があるのが腹立つ。


「それと、君はしばらく、宿を取ってください。料金なら気にしなくても良いです。僕が出しますので」

「ニャんで、急に?」

「しばらく、ここは空き家状態にしたいので」


 そんな事普通したいのか?どんな事があっても、そんな事思わないよな?


「まあ、ミャー?」

「とにかく、買い出しをお願いします。これに書かれた物を買ってきてください。できれば多めにお願いします」


 紙を渡された。ちゃんと何を買ってこいって書かれたメモ。


「では、よろしくお願いします」




_____________________




「それで、あなたも良いのですか?無駄に情報を得れば、それだけ危険になりますが」

「別に構わない。そもそも、俺は冒険者をやめた身だ。今更ギルドの恨みを買おうが、関係ない」


 なんとも、残念な男がやってきてしまった。

 綺麗な、濁りなどの無い、見るヒトを魅了するような、綺麗な金髪。

 そしてそれに一切劣る事の無い、整った顔立ち。優しいと恐ろしいの間の、程よく男らしさが残った、冒険者の中に紛れていても問題なく、かと言って貴族が集まるパーティーに居ても一切場も乱す事の無い、とにかく整った顔立ち。

 目も綺麗な緑色、翠眼だ。その目を見れば、男女問わず、思わず心惹かれるだろう。

 全体で見て、神が彼に肩を入れてると思わざるを得ないぐらい、彼は外見が魅力的だ。そして内側も勿論の事だった。色々あって、今はその内側は残念な事になっているが。


 にも拘らず、何が残念なのか。内側が、ではない。見た目が良くても、内側が最低な野郎もいるのだ。だから、そんなのは誤差だ。彼はまだ良い方だと言える。

 結局、何が残念なのか。それは彼の雰囲気にある。別に、今までの人生で失敗が無かった訳ではないだろう。なにせ神すら驚くほどの天才であれば失敗する事なく人生を暮らせるだろうが、そんなヒトは一握りといない。だから、落ち込んでいるのは、そんな馬鹿で単純な事でないのだろう。

 とにかく、容姿をすべて台無しにする雰囲気を纏っているのだ。威圧感を放つ、もしくはすれ違うヒトすべてを信じていないような、そんな雰囲気を。そのせいか、綺麗な緑色の眼は、かなり濁っている。


「何があったのかは聞くつもりは無いですがね。では一つ。ギルドと手を切ってるつもりなら、その考えは捨てるべきです。冒険者を捨てたにせよ追い出されたにせよ、彼らはどこまでもしつこく追ってきますよ。残念ながら僕はあなたの評判を知っている訳では無いですが、ギルドの悪評をそう簡単に聞ける物でもないですし、それなりの実力者なのでしょう」

「……」

「ですから、ギルドはずっとあなたを監視しているはずです。まあ他の国に移ってまでその監視が続くかは知りませんが」


 イルは少々、特殊なヒューマンだ。彼ほど自分にも他人にも無関心なヒトはいないだろう。そのため、ただ淡々と事実を告げる。これは時によっては悪い方に進む事もあるが、今回は丁度いい。

 そのヒトに肩入れするでもなく、ただ第三者としてのアドバイスのような、そんな感じで話をする。これは、ある意味助かる。こちらを同情するでも憐れむでもなく、ただ事実だけを告げてくれる。


「それで、具体的に何を知りたいので?ギルドの情報となると、こちらも少々本腰を入れなくてはなりません。まあ今ある情報で事足りる可能性もありますが」

「何!?やはりギルドの悪評ってのはあるのか!?」

「まあ、その分値は張りますがね。どうします?多少ならば無料で教える事も出来ますが、その分ギルドから狙われると考えるべきですよ」

「……」


 だがやはり、こうも現実の話になれば、彼は嫌われ者に早変わりだ。なにせ金しか頭にないヒトと思われる。実際その通りかもしれないが。

 ただ、情報を求めてここに来たヒトには、これは些細な問題だ。肉を買いに来たヒトが、店主に値段の話をされたとたん嫌な気持ちになるだろうか?つまりは需要さえあれば、金の話があると言うのが常識。

 そもそも情報屋など、金で動く傭兵と同じようなものだ。その金の多さによって、取るべき行動が変わってくる。大金を持ってくれば、それに見合った働きを。お小遣い程度だと、そもそも働きもしない。結局世の中、金があればヒトを動かせるのだ。


「……これで、どのぐらいの話ができる?」


 出された金は、250000コル。いつか、王様からの依頼の報酬よりも高額。たった一つ、情報を聞くためだけに、これだけの値段を使うのだ。


「なるほど、そちらはそれなりに本気なのですね。では一つ、こちらからも質問を」

「なんだ?」

「冒険者をやっていた、と言いましたよね?でしたら、仲間はどうしたのですか?」

「……殺されたよ。モンスターに殺された。けどあれは、半分はヒトに殺されたようなもんだ」

「ほう?」

「俺達は、自分で言うのも変な話だが、そこそこの実力者のパーティーだった。仲間もゴールドだったし、今でも自慢したいぐらいの最高の仲間だ。酒のつまみに出てくるぐらいには、有名だったさ。それが原因と言えばそうかもしれないが、とあるパーティーに、モンスターを押し付けられたんだ。後になって知ったが、そのパーティーはギルドに媚びてたようなパーティーだった。考えすぎだと思ったが、少し調べればいくらでもそのパーティーの悪評は出来てた。しかも絶妙に冒険者には知られないぐらいの場所に情報があった」


 そして、大金を渡された以上、それに見合った情報を提供するのが情報屋。だが聞かせた情報が必要ない物だった、など笑い話にすらならない。

 そのため、必要な情報を選別するためにも、相手の事情を知る必要がある。


「なるほど、何処の国でもいるのですね」

「何?」

「まずは、この質問から。具体的に、どのような情報をお望みで?」


 情報は、ちゃんと調べていけば形がくっきりとわかるのだが、中途半端に調べていると、輪郭すらつかめないような、あやふやな事を指す。

 それがあれば身を守る事にも繋がるが、逆に身を危険に曝す事にもなる。中途半端にあれば、無駄に警戒だけ出来て、その対策の仕方を知らない、なんて事もあるのだ。

 そのため、中途半端な情報を売る事はしない。できる限り客の要望に応えつつ、且つ不確定な部分が無い情報を売る。


「別にどんな事だって良い。ただ、何かあった時に、ギルドに対する切り札として使えるような、そんなのが欲しい」

「なるほど、わかりました。こちらにある情報でも事足りるかもしれませんが、やはり昔の情報では切り札になりえませんからね。とりあえず、今ある情報はここで提示します。あとは一週間後に報告できると思いますが、もしかするともう少し時間が掛かるかもしれません」


 だから、出来る限りできる情報を集める。全く関係ないと思っていた話でも、突然繋がりが見える事もある。とにかく、量を集める。


「良いのか?」

「良いもなにも、そちらは依頼として仕事を持ってき、尚且つ報酬まで準備している。ではこちらもそれ相応の働きをするのが筋です。まあ、あなたの国で使えるかは知りませんが。ではまず、今ある分の情報を」


 そもそも、イルは情報屋ではなかった。冒険者を止めて、情報を集める事に専念する事にしただけであり、元は冒険者。情報屋になろうと決断した事件があるが、今は詳しい話は良いだろう。

 とにかく、彼は冒険者を止めて情報屋になった。冒険者兼情報屋ではない。そのため、ギルドの権限を恐れて半端にしか調べない、なんて事もない。


「さて、まずはあなたが受けた被害について、こちらも多少心当たりがあるので。何処に仕舞いましたかね?……あー。ありましたありました。一応纏めてますから、目を通しておいてください」

「お、おう」

「では二つ目は口頭で。あなたも知っているでしょうが、ギルドは基本、金の亡者です。そちらはただ事件を纏めた程度ですが、その被害者、と言うのもおかしな話ですがね。あの被害に遭った人物は、ギルドにとって不都合なヒトだった。思い通りに動いてくれないのか、無駄に強いせいでギルドが制御できなくなるのを恐れたのか。僕には判断しかねますが、多少なりとも規則的ではありますね。どれも、ギルドにとって邪魔だと思われていますね」

 なんでも屋って、なんでしたっけ?


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