二十三話 成果
やー。こりゃびっくりした。
普段の売値を知らねえから判断しづらいけど、多分普段より格安で買い取られた。ギルド職員の態度を見て、これは確実だと思う。なんかニヤニヤ顔と嫌そうな顔を掛け合わせたような複雑な表情をとってたし。
それにも拘らず、馬鹿みたいに報酬が出た。流石に平均で七匹ぐらいの群れの十数連戦の成果が出た。ステータスカードは提出してないから、ステータスの更新はされてないけど。まあ報酬がウハウハだから、こんな些細な事はどうでも良いや。
酒を飲みたいけど、酒場はどうせ居心地が悪そうだしな。かと言って持ち帰り用の酒なんて高級品しかねえから買いたくない。
まあ酒は諦めるか。いくら報酬が弾んだとは言え、そんな無駄遣いをする余裕はないし。今回の冒険で、消耗品はほとんど使い切ったからな。それ分も残しておかないといけない。
「さっさと宿に帰るか。どうせこの時間は出来る事も限られてるしな」
その辺りの買い出しも、明日やれば良いか。もうすぐ太陽が沈むぐらいの時間だし、流石に店も閉まってる。
もう一回ダンジョンに潜る気にはならんし。報酬はうまかったけど、もう一回あの大群と戦いたくない。もう疲れたし。たまに予兆があって来てくれるなら良いけど、こんな何の前触れもなくモンスターの大群と戦うのはもう御免だ。依頼を受けたとしても、一人ではやりたくない。
あれはガチで死ぬ。たった一手ミスるだけで死ぬ。今回は比較的低階層のモンスターだったから良かったけど、三層以下は流石に死ねる。簡単に死ねる。
「まあ、丁度良い練習にはなったか」
あのケモ耳相手だと、変な癖が付きそうだったし。モンスター相手に慣れておかないと、戦えなくなる。対人と対モンスターは想像以上に変わってくるし。人型のモンスターだったとしても、色々と勝手が違うんだよ。言葉にしにくいけど、本当に色々違うんだよ。
ま、さっさと宿に向かうか。
モンスタードロップは基本、モンスターの核ってのが落ちるだけだ。ボスぐらいになればドロップ品も豊富になるけど、低階層の雑魚相手はマジでこれしか落ちない。
ギルドはこんなよくわからん奴を買い取ってるけど、これを何に使ってるんだろか。だって武器鍛冶師とか装飾鍛冶師ですら加工は無理だと言って、錬金術師にもこんな低位の核とか素材には不十分って言われてる品なんだぞ?
それを買い取る、のは良いとして。冒険者の報酬が基本これだし、文句はないけど。本当に何が目的で買い取ってんだ?特にギルドって物品の販売とかもしてないのに。
「多少は良さげなのも落としてるけど」
流石に三層ぐらいのモンスターになれば、その階層よりも明らかに強いモンスターってのも出てくる。いわゆる中ボス。そいつらも低確率で良いドロップ品を落してくれるんだが、今はその確認。
「謎の鉱石に、品質が高そうな魔力回復薬。それと、装飾品か。うん、絶妙に俺が使えない奴ばっかりだな」
謎の鉱石はマジで謎だから、そういう知識が一切ない俺にはただの石ころ同然だ。加工する術もないから、マジで河原の石と同じぐらいの価値しかない。まあ鍛冶師が見れば価値も変わるんだろうけど。そもそもモンスタードロップの鉱石って、ちゃんと価値が付くのか?
そして品質が高そうな魔力回復薬。これはヒーラーとか魔法が主力で戦う魔法師にとっては喉から手が出るほど欲しい一品だろう。なにせ魔力が尽きれば足手纏いになるし。多少は動けるんだろうけど、本職の前衛とかと比べればやっぱり足手纏いと同じだろう。だから魔力を回復させられる貴重なこのアイテムは、マジで欲しいだろう。錬金術師ですらまだ完璧に再現できるような品じゃないから、かなり貴重な消耗品だ。まあ俺はいらない物だ。
装飾品は、これは価値がわからん。身につければ何か効果を発揮する物もあるけど、正直こんなの判断つけられない。
モンスタードロップの装飾品は大抵効果が付いてるけど、それを判断するのは無理だ。明らかに力が増してるとか素早さが上がってるみたいな、ステータスが上昇してるとかならわかるだろうけど、毒を無効化するとか、モンスターの咆哮への耐性とか、試してみないとわからない事が多い。だから着けておかないと大体効果を判断する事ができない。
だから近接の肉弾戦が得意なら、ただただ邪魔になる事の方が多い。魔法師とかみたいな後方で戦うヒトなら問題ないけど、モンスターの目の前で戦わないといけないようなヒトとかなら、なるべく身に着ける物は少ない方が良い。まあ慣れれば問題ないけど。俺はそんなのを着ける事に無縁だから、やっぱり俺にはいらない物だ。
「これも売りに行った方が良いだろうな。俺が持ってても活用できる物はないし」
まあこれも明日の事だけど。今は店が閉まってる時間だし。
_________________
「ところで、この二つの部屋ってニャに?」
「はい?」
「だから、この二つの部屋って、ずっと閉じてるニャよね?」
「ああ、ここですか。前の住人が使っていて、ずっとそのままになっているのですよ」
イルの店は、路地裏のかなり裏手にあるおかげか、かなり広い部屋だ。居間とキッチンが繋がっていて、他に四つほど部屋がある。別に部屋が多いだけで、部屋一つは狭いと思うかもしれない。だがかなり広い。宿屋でそこそこの部屋を借りた程度には広い。そんなのが四つもある。
だが現状、そのうちの二部屋は使われていなかった。そもそも一人で暮らすなら広すぎる部屋ではあるのだが、それでもその二部屋は完全に使われていなかった。
「まあできるなら、荒らさないでください。その部屋に思い出などがある訳ではないですが、本人の許可なく荒らすのはどうかと思うので」
「ニャ?他にもこの店の従業員っていたのかニャ?」
「いえ、いませんよ。特にこんな辺鄙な場所に就職したがるもの好きも居ませんし。昔の仲間は全員亡くなりましたし」
イルはその部屋を使わない。その部屋に入れば、昔の事を思い出してしまうから。その部屋を片付ければ、彼らが生きた証拠がなくなる気がしたから。
「別に入るなとは言いませんが、荒らすのだけはやめてください。それと、奥の部屋は入らない事をお勧めします」
「ミャーもそこまでするつもりはニャいけど」
「まああなたにはあなたの部屋もありますし、これ以上部屋を与える事は出来ませんよ?」
「わかってるニャ!」
だがまあ、残り二部屋はある。一部屋は物置になっているが、もう一部屋は完全に空室だった。だから特に気にする事なく、ラフィに部屋を与えた。イルが使ってた訳でもないから。
イルは居間にあるソファで寝たりしている。いつ客が来ても大丈夫にするため、ではないが。ただ単にここで寝る事に慣れてしまっただけだ。逆に他の部屋では寝付けなくなるぐらいには。別にどこであっても寝る事は出来るのだが、やはり落ち着く場所と言うのはある。それがこの居間のソファと言うだけであって。
「ところで君は良いので?こんな場所で寝泊まりなど。こんな事をしていれば、同じ冒険者のパーティーを組めなくなると思いますが」
「そんニャ奴なら、こっちから願い下げニャ」
「一匹狼になるのは良いですが、できるなら人脈は作っておくべきですよ。あって困るものでもないですし」
「イル君にだけは言われたくニャかったニャ!」
イルは仕事上、少々人脈はある。まあ普通の冒険者などと比べれば圧倒的に少ないだろうが。いざとなれば頼れるようなヒトは、多少なりともいる。
普通のダンジョン探索は、数日かけて行います。そのためマッドのたった数時間しかダンジョンに入っていないのは異常です。てかその時間で大体百匹近いモンスターを倒してるのもおかしいです。
ブックマークと評価をしてくれると嬉しいです。