表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんでも屋は暇じゃない  作者: ゆきつき
21/33

二十一話 レベル上げ

「ああ、店主さんや。またあの薬草をくれないかい?」


 そもそも、イルはなんでも屋だ。基本的に情報を取り扱う事が多いが、やはりなんでも屋なのだ。自分でできる事ならば、断る事はない。……報酬と割に合わないようなら断る事があるが。


「少々待ってください。確か持ち歩いてるはずですので。それより、料金を」

「はいはい。これで大丈夫でしょう?」

「ええ、確かに。ではどうぞ」

「毎回ありがとね」

「いえ、仕事ですからね」


 だから、老婆に突然仕事関連の話をされても、特に拒否感はない。なにせ仕事で、前からある薬草を渡すぐらいなのだから。鮮度はどうか知らないが、その分格安料金で売る事もできると言うものだ。


 だが何故、わざわざ冒険者の資格を剥奪されたイルに、薬草を頼むかと言えば。それはダンジョンで採れる薬草は、地上で採れる薬草より品質が良い。そして下の階層に行けば行くほど、品質が良くなる。目的の物が採れるかは知らないが、とにかく質が良くなる。

 そしてイルは情報を得る過程で、何処にどんな物があるのかなども把握している。それが危険なのかどうかも研究するため、サンプルに複数個持ち帰ったりもする。


 ただまあ、これはどうでも良い。本命は、とにかく彼から買った方が、他より安いのだ。

 ダンジョン産の物は基本的に、労力によって値段を決める。金や鉄などの貴重品と言う事ではなく、自分がどれだけ大変な思いをして得た物なのかを鑑みて決める。

 そしてその労力は、どれだけ遠くまで行ったかではないのだ。どれだけ命を懸けたか。つまるところ、弱い冒険者であれば一層でも命懸けだろうが、ベテランまで行けば、一層なんかはレベル上げにすらならない、ただの通り道。そこに落ちてる草が薬草なら、いつでも採る事ができる。なにせ、そこにいるモンスターは脅威にならないのだから。

 そのため、この値段は、ヒトによりだいぶ変わる。イルは現状、ここの国にいる、ここのダンジョンを攻略してるヒト達より強い。彼がほとんど実力を見せる事が無いため知る事はないが、知っているヒトは、彼の恐ろしさを知っている。なにせ、最後に更新された最高到達階層、その更新したメンバーの一員。荷物持ちだったとしても、弱いはずない。


 そのため、基本的な冒険者が苦戦してるような階層でも、彼は普通に突破していく。難なく行けるかは彼しか判断できないが、少なくともそこで死ぬ事はない。数の暴力が発生しない限り。

 

 なら、薬草を手に入れる手間が変わる。

 大体わかるだろうが、わかりやすく例をあげよう。幼い頃なら、足し算ですら苦戦するにも拘らず、大人になればほぼ百パーセント間違える事はない。というより、間違える方が恥ずかしいぐらいだ。

 成長すれば、自然と自分の中の出来る幅が増える。その幅と言うのが、冒険者よりイルの方が大きいと言うだけの話だ。


「ああそれと。これはかなり前に採取していた物ですので、こんなにも受け取る事は出来ませんよ」

「おや、別にいいさ。他の店を見ても、これの倍ぐらいはするんだからさ」

「いえですが」

「老婆がお金を有り余らせてるよりかは、若者が使う方が良いだろうさ」

「まあ、僕も若者と言えるほど若くないですが」

「まだまだ私からすれば若いけどねぇ」


 けど基本、イルは現金な奴なのだ。高く売りつけれると思ったなら、可能な限り値段を引き上げる。激安で情報を買おうとする輩がやってくると、あからさまな嫌な態度をとる。

 ただ、常連にまでなれば、扱いも多少変わる。まあ低品質の物を、通常の値段で売ろうとはしない。


「では、有難く」

「いいさいいさ。私もいつもお世話になってるんだ」


 だから、こういった人望は、なくもない。剥奪者と知らない可能性もあるが。


「ギルドはまだ、市民達の足元を見た商売をしてると言う事ですかね」


 基本、ダンジョンで獲得した物は、ギルドで換金する。基本的にモンスタードロップだけを買い取るが、ダンジョンで採れた薬草なども買い取ってくれる。冒険者は薬草を煎じる事はほとんどできない。できなくはないが、下手な事をして微妙な効力の薬しか作れないのなら、もう店から直接買うだろう。そのため、特に渋る事もなく、薬草などをダンジョンに売る。

 そしてそのギルドに、薬屋などが薬草を買いに来る。なのだが、これが結構高値で売り渡す。けどダンジョン産の物なんか、他に売っている場所がない。そのため、これが高いのか安いのかがわからない。

 だから、イルが適切な値段だと思って売っていても、ギルドの売値よりかなり安くなる。ただイルはほとんど信用などないため、訳あり品を売りつけてると思われているが。


________________





 やっぱ、レベル上げは面倒だ。時間をかければかけるだけ強くなるってのは良いけど、それでもやる気が湧くかは別問題だ。

 別に、モンスター相手にスリルを求めたくない。俺だって死にたくないんだ。変にスリルなんて求めて死にたくない。てか死なない為にレベルを上げてるんだ。

 けど、淡々とモンスターを片付けてても、面白くない。レベル上げが好きって奴が信じれない。何が面白いんだよ。


「それにしても、今日はモンスターとよく遭うな。一層は少なすぎたから諦めて三層に戻ってきたは良いが。三層を詳しく探索なんてしたことねえからわからんけど」


 それにしては、頻繁にモンスターに遭う。どれだけの時間潜ってるのがわからないが、少なくとも、三層に来てから三時間以上は経ってる。

 その時間だと、普通五匹ぐらいのモンスターの群れに、二回か三回遭遇する。あとははぐれたような一匹のモンスターにちまちまと。運が良ければ、次の階段を見つけるまで一切遭遇しない事もある。そんな豪運の持ち主はいないだろうが。

 なんだが、もうこの群れを十回ぐらいは遭ってる。それも十匹ぐらいの、いつもよりモンスターが多い群れだし。

 雨のせいで視界は悪いから戦いづらくて仕方ない。それはモンスター側も同じ感じだったけど。いや、連携がうまく取れない分、向こうの方が不利か?俺にとっては有利なんだろうけど、結局俺だって視界が悪くなってんだから変わらん。


「いい加減、帰るか。こんな遭遇するなんて考えてなかったから、薬とかがなくなりそうだし」


 完全になくなってから帰るのは、無謀だ。一層や二層のモンスターだと、ちょっとやそっとじゃ致命傷を負う事も無いだろうけど。厳しい場面に陥った時に、取れる選択肢が狭まるから、資材は残しておきたい。


「夜の階層もなかなか面倒だけど、その次が雨ってのは、もう罠よりたち悪いだろ。体が完全に冷える順番じゃねえか」


 追い付いを掛けるように四層も悪天候だけど。


「さて、階段はどのあたりだった?」


 モンスターの群れが多すぎて、自分のいる位置がいまいち把握できてないんだけど。やっちまったな、こりゃ。

 他人がゲームしてるところを見るのは結構好きですけど、レベル上げなんかの単純作業を見せられるのは苦痛です。自分がレベル上げするのは、飽きさえ来なければやっていけます。皆さんはどうなんでしょう?


 ブックマークと評価をしてくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ