二話 テスト
ダンジョンに潜るってなると、武器と多少の食料、水分に、回復薬か。くそっ。こういうのは、パーティーで分けて持つやつなのに。しかも大半は仲間に任せてたから、何が必要なのか、基本中の基本しか知らない。
しかも都合が悪い事に、冒険者御用達の店なんかは、大抵俺が冒険者資格が剥奪された事を知ってるし。一応店で客だから接客するけど。明らかに前より割高にされてるしよ。
一回目文句を言ったら、向こう側からキレられるし。キレたいのはこっちだってのに。なんで店にいる全員から俺が悪者みたいな扱いを受けないといけないんだ。
それでもまあ、ダンジョンに潜るなら、多少の出費はしょうがない。下手にケチって、命の危機になるとかシャレにならない。だから諦めるしかなかった。
「準備は終わったので?」
「いや、それはこっちが聞きてえんだけど」
さっきまでが、猫背のひょろ爺だとしたら、今は杖を突いてるエセ医者だ。なんか真四角の革の鞄を持ってるし。猫背なのが相まって、杖を突いてるのが似合いすぎてる。そして、本人が骨レベルで細いから、医者感はあるのに信用できない見た目してる。
「僕はいつも通りの装備なので、他人に心配される筋合いはありませんよ」
「お、おうそうか」
「それより、これを。これがあれば、ダンジョンに入る事ができます」
渡されたのは、銅のドッグタグ。そこに何か刻まれてるが、小さくて読めない。
「ああ、それと。これは出来る限り出さない方が良いですよ」
「あ?なんでだよ。これが無いとダンジョンに入れねえんだろ?」
「そうですね。これが必要と言う事は、冒険者じゃない事を認めてるという事です。今日ここに来たのを察するに、まだ剥奪されてすぐなんでしょう。それならば、自らそれを証明するような事は控えるべきですね。まあ他人の意見なんて興味ないというのであれば、僕はこれ以上言わないですけど」
なるほど。確かにそれもそうか。冒険者は、別にドッグタグが渡される。大体が銀で、トップに近い一部の冒険者が金のドッグタグをつける事ができる。確か、25レベルとか超えたら金になるんだったか?
そしてまあ、銅のドッグタグは、見た事が無い。それだけ出回ってないって事だろうけど、少なくともギルドはちゃんと把握してるはずだ。
「それでは行きますよ」
「おう」
ギルドはダンジョンの出入り口の管理の他、冒険者の管理や初心者冒険者のアドバイス等々、冒険者に携わる事が多い。
そして、俺もされたように、冒険者資格の剥奪もここ、ギルドの仕事だ。前まで他人行儀だったとしても、愛想を振りまいてたギルドの受付方も、剥奪されてからはわかりやすく態度を一変させてる。もちろん好意じゃなくて、悪意マシマシになって。剥奪されたからって、そこまで態度を変えるか、普通。
「はぁ。俺より悪い奴等はいるってのに、なんで俺だけがこんな目に」
「答えは簡単ですよ」
「ん?」
まさか独り言に返答が来るとは思ってなかった。
「ギルドが冒険者資格を奪うのは、ギルドにとって面倒な相手などですよ」
「なんだそりゃ」
「簡単な話、碌な成果も出さず、更に言えばギルドの犬になるつもりが無いような冒険者が、その対象ですね」
「あ?それは話が違えだろ。冒険者にふさわしくないようなやつが、対象なんじゃねえのか?」
「他人の言う事を何でもかんでも信用するべきではないですね。自分の目で確かめないと。まあ、小耳に挟んだ程度にでも思っておいてください」
そもそもギルドって、あくまでも中立じゃなかったか?冒険者に害になるような事はしないが、利益になるような事もしないはずだけど。いや、剥奪ってのは十分害になってるけど、あれは冒険者にふさわしくないって判断されたからなんだろ?
「そう言えば言い忘れてましたが、僕は一切手を出しませんので。君の実力を見るためで、僕が手を出したら意味がないですからね」
「まあ、そういう事なら」
そりゃ、来てすぐに信用なんてできるはずねえか。
「僕は自分で確認しないと気が済まない性質でしてね。まあ大丈夫ですよ。使えないとわかれば、しっかりと介入しますので」
「嬉しくねえ宣言をどうも」
こう、複雑だ。使えるって判断されたら、危険な状況だったとしても助ける事はしないって事だし。使えないってなると助けてくれるらしいけど、それはもうここに居れる訳じゃなくなるし。……他に良い場所ねえかなぁ。
「僕達は剥奪者なのでね。他人を過信しすぎて騙される、なんてことはざらにありますからね。なら最初から期待しない方が良いですよ。裏切られたなんて余計な感情を生む事もないですし」
「前から聞きたかったけどよ。お前も剥奪者なのか?」
何回かそういう話を聞いたけど。どう見ても冒険者をやってたように見えない。
「言ってませんでしたか?まあそのようなものですよ。まあ知っても得なんて無いですし、詳しく語るつもりはないですが。……おっと、来ましたよ」
「マジで観客に徹するんだな!」
「自分で五階までは行ったと宣言したのです。一階で苦戦されては困りますし」
確かにそう言ったけど。あれは仲間との連携とかがあったから行けた訳でだな!一人でどうにかできる訳じゃない!
それに、これ一人で対応できる数を超えてる。十数体モンスターが来てる。そりゃ試験なんだったら、試験官が手伝う訳にもいかないだろうけどよ。だからって死ぬかもしれない場面ですら、本当に助ける気が無いぞ、こいつ。
流石に数が多すぎたから、攻撃しては撤退を繰り返してた。どういう訳か、あいつのところにモンスターが行くことは無くて、モンスター全部が俺のところに来た。
あいつ本人も助けるつもりはないって言ってたし、信用するなとも言ってたから、一人で戦うつもりでやってた。
まあ、一層レベルのモンスターだと、数のせいで苦戦はしたが、一匹一匹はそこまで苦戦するような相手じゃない。
この前から武器もメンテとかできてない、剣でモンスターを斬り倒すのも厳しかった。剣を鈍器として扱うとか、新たな試みだよな。
数は多いけど、個としてはそこまでだったから、意外と何とかできた。一人でやってたから時間はかかったけど、苦戦とか特別大きな怪我とかはしなかった。
「まあ、及第点と言ったところですかね。任せるというのは無理でしょうけど、これなら二階までなら手伝わせる事も出来るでしょう」
「にしてもこの国のダンジョン、難易度高くないか?」
「おや?知らないでここに来てたのですか?それでよく五階まで行けたもので」
「あんなの行けたうちに入れれねえよ。ただ覗いたレベルだ」
「それでも十分凄いですがね。まあ剥奪されてる辺り、そのタイミングで仲間が死んだのでしょう。そうなれば、君は生かされた訳だ。可哀想な事ですよ、まったく。こっちの事も知らないで、向こうは気楽に逝くんですから」
「あ?」
仲間の事を悪く言うのは許せねえぞ。あいつの言ってる事も正しいんだろうけど、それでも生かしてもらったのはこっちなんだ。文句なんて言えるはずもねえ。
第一、あいつに何がわかるってんだよ。あいつらだって、死にたくて死んだ訳じゃないだ。
……てか、なんか、今までの雰囲気と変わったような。どう変わったのかは、一日も経ってないからわからないけど、なんか今までとは違う。
「そうですね。では今日はこの辺りで休憩にしますか」
「あ?まだ明るいだろ。……ダンジョンで明るいなんて不思議だけどよ」
ここのダンジョンは他と違って、石で出来た迷路を探索するって感じじゃない。広い平原を探索してる感覚だ。辺りを見渡しても、地平線を見れるレベルには、障害物とかもない。そのせいで、どっからモンスターが出てきてるのか見当もつかん。
「君も言ったように、ここはダンジョンです。この階層は暗くなる事なんて無いですよ。おかげで何度時間感覚を狂わされた事か。ああそれと、この事を知らずに過労になり、その隙をモンスターに襲われるというのが、新人冒険者のやる事です。まま中堅冒険者でもよくある事ですがね」
なんでこいつ、こんな死んだ事をあっさりと言えるんだ?気色悪い。
「それでは僕はもうしばらく調べないといけないので」
「あ?自分で時間感覚が狂うとか言ってたじゃねえかよ。お前も休憩しねえのか?」
「別に、そんな大変な事をするつもりはないですよ。ただこの辺りにもあるはずですのでね。それの確認です」
俺も従業員になるなら、その辺りをもうちょい詳しく教えてくれてもいいのに。
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「このダンジョンは本当に謎ばかりですよ」
イルはボヤいている。
ここはダンジョン一層。それも、他のダンジョンと違い、光はあり、草や花があり、何処からか風も吹いている。ここは、ダンジョンと呼ぶにはあまりにも地上に似ているのだ。
その他にも、他のダンジョンなどと違いはある。
まず一つ。多少の凹凸はあるものの、ちゃんとした壁なんかが無い。ダンジョンの端まで行けば壁を見る事ができるが、その他で壁を見る事はできない。
次に、木や池などの自然が広がっている。よくあるのは、その付近にモンスターの巣があるという事。だがその巣を見つける事は未だにできていない。ただオアシス付近ではモンスターとよく遭遇できるため、そこに巣があるとされている。
他にも、下の階層とを繋ぐ階段も、度々場所が変わる。そう、気が付けば、前にあった場所に階段が無くなっている。気が付けば地形が変わってるのだ。
「モンスターがどこから来てるのかも謎ですが、毎回毎回階段の位置が変わるのもどうにかしてほしいですね。ある程度はパターン化できますけど、まだ確実な訳じゃないですし」
階段の位置が変わるのは、このダンジョンの、この階層だけなのだが。それでも十分おかしな現象。そして、そういったダンジョンの謎を解明する、予定なのがイルの主な仕事内容だ。
三人称視点で書くのが苦手過ぎる。ストレスが無いようにしてるのですけど、実際はどうなんでしょう?
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