十九話 報酬が出ました。
帰るって言っても、荷物が結構多い。テントに小さめの折りたたみ椅子に机。その他調理器具なんかに、その他便利道具。何にどうやって使えば良いのか知らない道具もかなりある。
更に言えば、両手剣も増えてしまった。特に鞘なんかが無ければ、携帯に用いる事ができるような装備もない。適当にロープぐらいなら見繕えるけど、そうすると戦う時に使えなくなる。まあ片手剣があるから、無理して両手剣を使う必要はないけど。けどわざわざ重い両手剣を背中に携えて片手剣で戦うなんて馬鹿な真似はしたくないし。まあ現状そうするしかなさそうな訳だが。
「うニャ。ニャにか入ってたニャ」
「そりゃ突然あげる事になったんだ。何かしら入っててもおかしくねえだろ」
だからまあ、ケモ耳が貰ってたあの袋にテント用品なんかを詰め込もうとしてる。てかそうしないと持っていけない。俺達はほぼほぼ手ぶらで来たようなもんだ。テントとかを持って帰れるだけの装備を持ち合わせてなかった。
「紙ばっかりニャ」
「一応だけど、絶対捨てんなよ?俺にはその紙きれの価値なんて計れないけど、捨てたらダメなのはわかる。てかあいつがブチギレる」
「うニャ?なにこれ?」
「だから紙なんじゃねえの?」
「そうじゃないニャ。ニャンていうの?こう、色が沢山ニャ」
「あ?なんだそりゃ」
情報を纏めた紙なんじゃねえの?
……おお、すげ。
そもそも真っ白な紙が珍しいってのに。黒以外の色付き墨とか、貴重品どころじゃねえだろ。てかそんなのあんの?え、血でも使ってんの?
「はえー。こりゃすげえな。情報とはまた別物の珍しさってか」
「これ、絵、ニャよね?イル君と、あと四人?ニャよね?めちゃそっくりニャ」
「にしても、ヒューマン全然いねえな。二人、だよな?なんでだ?全く知らねえヒトを見た目だけで馬鹿にしたくねえけど、こいつだけは同じヒューマンだと思いたくねえ」
なんて言うか。男らしい、男なんだよ。いやそれはもう男なんだけど、そうじゃなくてだな。こう、女装を失敗した男、って感じなんだよ。ちょっとだけ女の装いをしてる男。うん、この絵の中の誰よりも男らしい、ただし女物の服を着ている。
「酷いニャ。同じ種族ニャのに」
「それを否定したいんだが」
「にしても、本当に他種族ばかりニャね」
「エルフにドワーフ、獣人にヒューマン、ね。あれ、他の種族ってあと何がある?」
「竜人に、精霊ニャ。……多分」
「そんな奴等を仲間にしてる方がおかしいか。まあここまで他種族が揃う事もなかなかねえけど」
真ん中にあいつとエルフの女性が居て、ちょっと後ろの方に獣人の男に、隠れそうになってるドワーフ。女装した男は、あいつとエルフの肩に手を置いてる。こいつが絵の中だと一番大きい。実際は知らんが、頭一つ分以上違う。まあ前に出てる二人はちょっと屈めてるだろうけど、それにしても差が大きい。
そんでまあ、あいつ以外は全員笑顔だ。なんであいつは微妙な顔してんだよ。絵か?絵の描かれ方のせいなのか?どうせあいつの事だし、絶対素でこんな顔してたに違いない。
「獣人、ミャーと同じ種類?」
「脇道に逸れたけど、良いからテントを仕舞え。じゃないと出発できねえ」
「わ、わかったニャ」
まあ、聞けばわかるだろ。あんま興味ないけど。
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結局、一日だけで町に入る事は出来なかった。
なんだかんだ片付けで手間取って、昼を超えるぐらいの時間に向こうを出発した。じゃあまあ、半日程度で辿り着けるような場所じゃないし、普通にキャンプをもう一回する羽目になった。
そしてそこでもう一回片付けに手間取って、今に至る。
今は昼と夕方の間の時間ぐらい。隣のケモ耳はずっとミャーミャー鳴いてる。腹が減ったのもわかるけど、喋ってる方が辛くなる気がするんだが。それは俺だけだったらしい。
でもまあ、国壁近くだと動物もそう簡単に出てこないから、飯を用意する事だってできない。それを多少は理解しているようで、ミャーミャー鳴くのも、行きと違って少なかった。まあ誤差ぐらいの違いだったはず。
まあ、この辺りは良い。あのケモ耳がミャーミャー鳴いてるのは、この一か月で慣れた。やっぱり耳に悪い高めの音だけど、慣れてしまったからにはしょうがない。注意するほどじゃなくなれば、余計な事は言わないで体力温存しておきたいし。てかあれにいちいち言及してたら、こっちの身が持たない。
とにかく問題は、イルが丁度、門から出て来た事だ。いいか?国の出入りを管理しているはずの門から、たった今出て来たのだ。情報を集めるとか言ってどっか行ってたあいつが、たった今、町の外に出て来た。
「はぁあ!なんでてめえがそっから出てくんだよ」
「どうせ訳を説明しても無駄そうですし、とりあえず店まで戻りますよ。色々とそこで説明します」
「なんで置いて行ったんだよ、おい。いや置いて行かれたってより、なんで一切説明なしだったんだよ」
「だから、それを説明するから、店まで戻ると言っているのですよ。はぁ、僕だっていちいちもう一度出国手続きをする手間が発生して面倒だったんですから、これ以上ここでイラつかせないでください。ギルドの対応もそうですが、やはりこの国は腐りきってますよ」
なんか勝手に自己解決したんだが。いやこっちは一切納得できてないし。むこうはなんかキレてるし。
「まあまあ、良いじゃニャいか。おこたが、おこたが待ってるニャ!」
「お前のその平常運転が羨ましいわ」
こりゃもう才能だろ。さっきまでずっと飯飯言ってたのに。なんだよ、おこたってのはそんな良い空間なのか?……それで結局おこたって何?
「まずは、そうですね。報酬も弾みましたし、君たちに渡しておきます」
「やったニャー!」
「あ?なんで報酬なんて出てんだよ」
「まあ段階を追って話しますが、少々厄介なところもあるので、すべては話せませんね。色々とあったもので、僕も面倒事を避けたいですし」
それで結局何があったんだよ。意味わからんだろ。
「そもそも今回の調査の目的は覚えてますか?」
「あ?なんだったか、あー、あれだろ?ギルドの管理されてる場所以外にも階段ができた、とか」
「ええ、その通りです。そして結論を言えば、それはすべて真実になりました」
「は!?」
「うニャ!?」
「ギルドはどうするのか知りえませんが、恐らく隠蔽でしょうね。何かしら起きてからの発表になるでしょう。ですので、この事は口外禁止です。どうせ話しても信じる者なんていないでしょうが、無暗やたらと情報をばら撒くメリットがないですし、協力お願いしますね」
ちょっと、想像してた以上の事が返ってきたんだけど。え?マジな話で、階段ができてたの?
「ついでに言えば、モンスターパレードも終わりましたし、ダンジョンに行くのも問題ないでしょう。これからは適度にダンジョンに潜る事になると思います。それで君、ちゃんと戦えるようになったのですよね?」
「うニャ」
「別にここに住まわせる事態は全然良いですが、仕事はしっかりとしてもらわないと困るのですが。僕の仕事の関係上、無能は必要ないので」
「うニャニャ」
こういう時ってこいつ、容赦ないな。まあ一つのミスで命を失うって考えたら、これぐらいは必要かもしれんけど。もうちょっと包み隠して言うとかあるじゃん。……こいつ相手には、隠してたら伝わらんか。
「まあ、基本は留守を頼む予定ですし、問題ないと言えばないですが」
「ニャ~~」
「では、一通り伝えましたかね。報酬も一応はありますし、問題ないですか」
「そうニャ!この絵の事について詳しくニャ!」
「はい?僕が絵なんて持ってないと思いますが」
「これニャ!」
ああ、あの色が沢山ある、あの絵な。忘れやすいあいつがよく覚えてたな。
「そういえば、そんなのもありましたね。そちらの袋に入っていたのですか?それは申し訳ない事をしました」
「もっと紙とか入ってたけどな」
「そうでしたか、それは申し訳ない。情報の紙なんかを入れたままにしていたのですね」
「それより、これニャ!この獣人とは知り合いなのニャ!?」
いや、そっちじゃなくね?この色鮮やかな絵の方を聞くんじゃねえの?いやまあ、絵の内容ではありそうだけど。
「まあ、そうですね」
「本当ニャ!?本当の本当なの!?」
「地が出てるぞ、地が」
「そうですね、本当ですよ。それは僕達のリーダーでしたし」
マッドって、イルの事もケモ耳さんの事も、ずっとあいつとかこいつとしか言えてないですけど、ちゃんと覚えているのでしょうかね。そもそもケモ耳さんの名前が出てない事に異常を覚えるべきですね、すみません。
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