十七話 帰宅準備
結局、一か月ちょっと、このキャンプみたいな何かをしてるんだけど。
調査してるらしいあいつと違って、俺達は目的も何もなく、ただただ湖を眺めながら過ごす日々だよ。しかもあいつ、いつからか忘れたけど、帰ってくる事はなかったし。マジ意味わからん。盗賊相手に殺される事態なんてほとんどないってのに。死んでる事はないんだろうけど、マジで意味わからん。
「ニャ!余所見厳禁ニャ!」
「ならもちっと静かに攻撃しろや、あ?」
「うニャ!?」
まあ、生憎と時間を潰すのだけは簡単だったけど。
最初は慣れない武器を、自分の武器にするために、仮でも冒険者のケモ耳と練習しようとしたんだが。手合わせしてみると、まあびっくり。弱くはないけど、強くもない。
こうな。想像以上に弱いんだよ。獣人って、ヒューマンより身体機能がほとんど上なんだよ。獣人は魔法が苦手な代わり、基本的な身体能力が上がってる。パワーも上ならスピードも何もかも。
その辺りの、種族の差があるはずなんだけど、それが一切なかった。うん、苦手な武器なはずなんだけど、そんな差も一切なかった。
「お前なぁ。戦い方なんていちいち指図しないが、せめて不意打ちぐらいは黙ってやれよ」
「そんなのカッコ悪いニャ」
「ならもっと武器の扱いに慣れるか、もっと強くなるか。お前の場合、そもそもレベルが足りてないだろうが。俺とお前の差はかなりでかいぞ?」
基本的に、一対一なら、レベルが同じぐらいの相手とするもんだ。レベルが一緒ってのは、あれだ。ステータスが近い者同士が戦うためで、ステータスが同じぐらいならばレベルの差があろうが関係ない。もちろんレベルが上がらないと魔法を覚えれないのだが。
だから基本的には、レベルが近い相手でないと対人戦として成り立たない。
てかそもそも、ステータスとか以前に、武器での相性ってのもある。俺だって別に達人じゃねえから、何が有利で不利とか知らんけどよ。それでも、身長ほどある両手剣と、ほぼ素手だったら、まあ素手が有利じゃねえの?俺の間合いで戦えるなら、素手相手は完封させれそうだけどさ。でも両手剣って溜めってか、一振りが遅いってか。そうなると、素早く動ける相手は不利だと思ってたんだが。
そう言った条件諸々無視して、結局あのケモ耳は弱いんだよ。いや、弱い訳でも無いんだけど、練習には不十分。無駄に素早いのに、動きが直線的すぎて追い付けるんだよな。
「てかお前、なんでこう、勿体ない事してんの?俺が言えた義理じゃねえけど、体をうまく使いこなせてない。こう、なんての?無駄が多いってか、やっぱ勿体ないんだよ」
「君はボキャブラリーが足りてないのニャ」
「うっせ。教育をまともに受けずに冒険者をやってたんだ。これでもまだマシな方だ、俺は」
そもそも教育を受けてるヒトなんてほぼいないだろうけど。
「冒険者ニャんて、皆変なのばっかり」
てめえが何言ってんだ、とは言わない。どうせ変な事を自覚できる奴なんているはずない。俺には俺の変な場所を知る事はできないし。
「次ニャ!」
「お前はもっと戦略を練れよ。数うちゃどうにかなる問題じゃねえだろ、これ」
「それを知るためにも、もっと相手するニャ!」
「まあ一応は練習になるし良いけど。にしても何回これを繰り返すつもりなんだ?」
両手剣って、俺にはしっくりくるんだけど、やっぱ扱いがムズイ。両手がふさがるのは良いとして、やっぱ重たいから、振り回すのが難しすぎんだよ。咄嗟に動かす事が、今の俺には無理。剣に振り回される。
_________________
「ちょ、マジでいつあいつは来るの?流石に待たせすぎだろ」
「そうは言っても、まだ一か月ぐらいしか経ってニャいニャ」
「そうかもしれねえけど。こんなやる事がねえなら、連れて来るなよ。マジで暇を持て余してるじゃねえかよ」
まあ、一か月ちょっと待つのはまだ良いけど。せめて目的とかが無いと、意味が分からん事になってる。
だって、改めて言葉にしてみると、やっぱ酷い事になってるからな?
最初に帰ってこないかもとか言ってたけど、それで約一か月音沙汰無し。しかもよっぽどでもない限り、盗賊達は人殺しはしないし、快楽殺人なんて言っても、冒険者相手を余裕で殺す腕がある訳ではない。こういうのはやだが、あいつはそう簡単に殺される奴ではない。
だからまあ、死んでるとは思えない。にも拘わらず音沙汰無し。しかも最後に会った時に何かしらの命令を残す訳じゃない。
一か月だぞ、一か月。最後にどこぞに行ったあとから、一か月。合計で言えば、約二か月だよ。意味わからんだろふざけんなよ。暇になるのも命令が届かないのも良いけど、なんで俺達が置いて行かれてるの?いやまあ時間が掛かってるだけかもしれないけど、それでも何かしら一言添えてくれてもいいだろ。
「おら、帰るぞ」
「ニャ?良いのかニャ?」
「別に良いだろ。そもそも俺達がいたところでやる事はないらしいし。ついでに言えば、剣の練習も存分にできたし。お前だって、その、なに?おこたが待ってるんだろ」
「よし、早く帰るニャ!」
扱いやすくて助かるよね。まああいつも帰りたかったらしいし、扱いやすいとかではないか。
_______________________
「少々、いつものモンスターパレードより長くないですかね」
どれだけの時間が経ったか。まあ階段が消えた程度の時間しか経っていない。約1時間。たったそれだけ、と言えば良いのか、そんな時間も!?なのか。
結論だけ言えば、そんな時間も!?の方だ。
モンスターパレードは、モンスターが地上を目指し侵攻を開始すた事を指す。だが完全な連携は取れていない。これは、階層が別れているおかげで、時間差で何度も侵攻がやってくる事になる。ある意味連携の取れた、だが一気に攻めればほぼ確実に堕とせる数のモンスターが来る。
そして、何故なのか最後になればなるほど、モンスターの数が増えるのだ。より地下に住んでいるモンスターは、地上に近いモンスターと比べ、すべてのステータスが上だ。速度もなにもかも上だから、侵攻速度は上になる訳だが。
だからと言って、どうすれば最後の侵攻と判断するのか。そんなのモンスターが来なくなったら、としか言えない。だが、最後の目安となるのは、自分より強いモンスターを相手にした時だ。まあ並の冒険者だと、強いモンスターを相手して、そこから更に三回モンスターが来る事にはなるのだが。
そして強さだけで言えば、イルはモンスターパレードを無傷で突破できるぐらいの実力がある。勿論仲間が居てこその強さだろうが、一人でもほぼ同じ事が可能だ。
だが最後は、自分も戦った事のないような、実力がほぼ同じモンスターを相手にしないといけない。イルは慎重派なので、自分より格下のモンスターとしか戦わない。戦わないが、この程度ならばイルは苦戦しない。元からある情報を活用できる相手に限るが。
「このレベルのモンスターが地上に出たとなると、少々不味い事になるでしょうね。王都の冒険者を呼んだとしても、取り返すには3年程度かかりますかね?いや、ここは国の下にある訳ではないですし、王都方面にモンスターが行く可能性まであるのですか。となれば、やはり自らやってきてくれるここで仕留める他ないですか。はぁ。報酬が出るのならやる気にもなると言うものを、どうせ僕の言う事はすべて無視でしょうしね。全く、面倒ですよ」
だがまあ、イルはレベルもそうだがステータスも高い方なので、多少の強敵ならば死なないが。……死ねないが。
イルがどんどん情報屋からもなんでも屋からも離れていくんですけど。
ブックマーク、評価をしてくれると嬉しいです。