十四話 ステータス
「うん、しっくりくるな」
「それはなによりですね。まあ時間は有り余ってるでしょうし、練習時間はいくらでもありますよ」
なんだ、この嬉しくない宣言は。練習してても有り余る時間があるって、それはもう一大事なんじゃねえの?
いやまあ聞かされたばっかりだから、そこまで衝撃的ではないけど。武器の練習とかって、初めてだと大体二週間以上かかる。それでようやく使い方を覚えるぐらいで、戦いに使えるぐらいに昇華させるには、もう二週間ぐらい必要になる。これはかなり早いペースで習得できた場合だから、実際はもっとかかる。
「それでいつ休めるニャ?」
「君は常に休んでいるようなものでしょうに。そもそも僕は君に留守番を頼んだのですが、君がどうしてもと言うので連れて来た訳ですが」
「ニャ!?」
「しかもこの調査な話もしたはずなのですがね。それでもついてきたのは君ですよ?」
「うニャ~」
「まあ君はそこのを練習相手にでもしてください。冒険者なのですから、強さを身に着けてくださいよ。足手纏いはいらないので」
別にいいけど、なんで練習相手が俺になるんだ?てめえがやれば良いだろうに。
「それに君にはやるべき事があるのでしょう?まあないかもしれませんが、獣人が訳なくヒトが住まう場所まで下りてこないでしょう。別に聞くつもりは無いですが、力が無ければ何もできませんよ?」
「うニャ」
「まあ僕は調べ事があるので君たちに構ってる時間は無いので。……そうそう、君のステータスを見せてもらえます?」
「あ?俺の?」
「そうです。君のはまだ確認していませんでしたので」
ステータスを見せる事は結構あるけど、なんで今なんだ?もっと最初に聞かないのか?
「ほらよ」
「どうも」
「そんニャのを見て何かあるの?」
「まあ、具体的に何があるとかは無いですがね。レベルはダンジョンでの物差しの役割を果たしていますが、ステータスの方が詳しく語ってますからね」
てかステータスを他と比べる事がねえから、そんなどれがどうって判断できないけどな。それこそ見比べる例をめちゃ多く持ってないと。
「……これは、まさか、ですよね。僕の考えすぎですよね?」
「おい、どうしたんだよ」
「いえまあ、少々珍しい物を見たので」
「あ?」
人のステータスを見て珍しいって、失礼じゃねえの?いやおかしな事じゃないのか?
「ステータスだけで言えば、君は君のレベルより上の階層に行けますよ。まあ自分の体を思い通りに動かせれるのならですが」
それは、どうなんだ?別に悪い事じゃねえよな?ダンジョンの行ける階層が、レベル以上のところに行ける、って事だよな。
「それと、練習する時は手加減してあげてくださいよ。レベルもそうですけど、ステータスの差が大きいですので」
「いやなんで俺が練習相手する前提になってんだよ」
「それでは僕は調べ事がありますので。しばらく戻ってこないかもしれませんが、まあ大丈夫でしょう。既に盗人から情報も得てますし、無駄に時間が掛かる事もないでしょうし。下手に刺激してくるような愚か者もいないでしょうし」
いやそうじゃないだろ。なんで俺があいつの練習相手をする事になってんだよ。そこからどうにかしろよ。
「ニャ。もう寝るニャ」
「お前はもう少し危機感とか抱けよ」
何て言うか、どこまで行ってもこいつは楽観的だよな。羨ましいというかなんというか。冒険者に向いてるとはとても思えないけどな。
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「さて、こちらに戻ってきたのは良いですが、ここで調べれる事と言えば、モンスターが来たのかどうか足跡を探すぐらいですよね」
そもそも、モンスターが出て来た証拠が何一つない。それを探すための調査ではあるのだが、手掛かりが何一つない状態でやる事ではないだろう。
勿論何も手掛かりが無い訳ではないのだが、盗賊の言う事なんてのは大半が嘘だ。モンスターを見たかどうかなんてのはほとんど嘘だ。本当の事も混ざっているだろうが、モンスターに気を取られている時に襲い掛かろうとする輩が多いのだ。そこまでするのか、と聞かれれば、常識人は考えられないだろう。その常識が欠如したヒトが集まるのが盗賊であり盗人であり山賊。一般人に理解できるはずもなければ、理解できればそれは犯罪者の資格アリと言う事だろう。
「まあ現状、手掛かりがあの盗人だけですし、騙されたとしても文句も無いですかね。盗人に頼らざるを得ない時点で、騙される前提ですし」
別に盗賊達に常識が無い訳ではない。ただちょっと、一般の人との差があるため、理解されないのだ。
だから、盗賊を全く信じれないという事でもない。そもそもギルド職員だろうが盗人だろうが同じく他人なのだ。完全に信じ込むのが馬鹿なのだ。
「確か、この辺りには渓谷があったはずですよね。洞窟でしたかね?まあどちらでも良いですが、そんな薄暗い場所があったはずですが」
身を隠すなら、やはりヒトが寄り付かない場所が良いだろう。ヒトが来るにしても、暗い場所や逃げる場所があれば、そこに身を隠すだろう。バレたとしてもすぐに逃げれるのなら、それは特に問題にならない。勿論前提に逃げ込む場所が複数あるというのが必要になるが。
「まあ確認してみるしか無いですよね。足跡を確認する必要もありますが、この環境では些か厳しいですしね。あれを確認してから日にちを結構経ちましたし、そんな無謀な事より、可能性がありそうな方の確認ですかね。時間を無駄にできるほど有り余っている訳でも無いですし」
そしてモンスターが住処としてる場所であれば、本気で攻略しに来ないヒトであれば、逆に壊滅させられるだろう。地の利がモンスター側にあるのだから。
だからこそ、自らの住処にやってきたヒトに対しては、モンスターは好戦的になってしまう。これが本来の生き方と言えばその通りだが、地上で生き抜くという慎重な生き方からは程遠い。やはりいざとなれば本能が勝ってしまうのだろう。
だがそれでも問題ない。本来モンスターはヒトより身体能力が高く、ちょっとの差は差にならない。特にヒューマンは身体機能が全種族の中で一番低い。成長の伸びしろはあるが、成長しなければ一番ステータスが低いのだ。そんな相手に、モンスターは苦戦しない。
それに、向こうがわざわざ出向いてくれるのだ。だからこそ、こう言おう。鴨が葱を背負って来た。だから、二人三人のヒトが攻めて来た時は恐れずに攻撃しに来るのだ。食料確保にもなれば、口封じにもなる。
そう。弱そうで貧弱な見た目をしたヒトなんてのは最もたる相手だ。食料としては中途半端なのかもしれないが、わざわざ危険を冒してまで食料を獲りに行く手間が省けるので文句などないはずだ。
「別にモンスターを討伐するのは構わないですが、これでは元からいるモンスターか最近地上に出て来たモンスターなのか判断できないじゃないですか。少々考えが固まりすぎてましたか?」
だが、ヒューマンは、伸びしろがある。どの種族も伸びしろがあるのは変わらないが、レベルが上がれば上がるほどステータスの伸びが減ってくる。だがヒューマンだけは、その減少する分は少ないのだ。ほとんど減少する事なく、ステータスが上がる。
だから、ヒューマンはレベルがすべてだ。レベルが高ければ高いほど、ステータスも高くなる。だからレベルでダンジョンのおすすめ階層も決まってくる。
だから、レベルさえあげれば、並のモンスターでは太刀打ちできなくなる。そのレベルをあげるの大変だが、そこはすべての種族に等しく大変なのだ。
「さて。この奥に進めば更にモンスターと遭遇できそうですが、今無暗に殺し尽くすのは、後々大変な事態になりそうですし。引き返しますか」
この辺りは、イル独特の考えだろう。
モンスターは殺すべきだ。そこに情けをかける必要はなく、モンスターは生きてるだけで害になる。冒険者は皆同じ事を言うだろう。なにせギルドがそう言っているのだから。
別にイルもその考え自体は否定してないが、それより優先する事があるのだろう。この辺りを知ってるヒトは、本人ぐらいだろうが。噂程度で聞いたとある冒険者曰く、『大を殺し尽くすために、小は見逃す』だとか。
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