十二話 移動中
いくら見張りがいるとしても、やっぱり安眠ができない。
そりゃ、こういう長期の調査、でいいのか?になると、こういうゆっくりと休める時に休んでおかないといけない。じゃないと後半に足手纏いになる。
だから出来る時にしっかりと休まないといけないのはわかってる。わかってるけど、やっぱりできない。別にあいつが信用できないって訳じゃない。誰が見張りにいたとしても、俺はこういう時は安眠できない。そういう体質なんだ。
「ん?なんか、物音が?」
一応だけど、寝れない訳じゃない。安眠できないだけで、一応は寝れてた。けど安眠できてないから、小っちゃい音とかにすら反応してしまう。昔にこれも才能とか言われたけど、どう考えても無駄だ。必要な時に戦えなくなるかもしれないのに。
「おや?起きてたので?」
「いや、物音がしたからな。ところで、なんで焚火を消してんだよ。真っ暗じゃねえかよ」
俺だって一応は夜目が利くけど。それでも見えてるって言えるか微妙なところだ。せいぜい、こう、キラキラ光る物とかがあればちゃんと分かるけど、って感じだ。何もなければ、特に見える訳でもない。
どっちかと言えば、たいまつの明かりが届かない、微妙なところを見るぐらいだ。やっぱり明かりが必要になってくる。
ここまで真っ暗だと、流石に厳しい。
「いえ、その方が色々と都合が良いので。まあ先ほど客人をもてなしたばかりですけど」
「あ?……ってうお!ヒトじゃねえかよ!なんでこうなってんだ?」
「そりゃ盗人だからですよ。まあこんな暗がりでまともな連携が取れるはずもなく、簡単に捕らえれましたよ。情報を吐かせたかったのでわざわざこんな目立つ場所に居たというのに。碌な情報が無いと来ましたよ。ええ、まったくこれだから盗人は。世間知らずなのは良いとして、僕の役に立たないのは頂けない。この辺りで土地勘がどうこう言えるはずも無いですが、それにしてもダメでしたね。田舎者の盗人なんて、都会に出てくるだけ無駄だと言うのに」
お、おうそうか。置いてけぼり喰らうのはいつもだとして、なんでこう恨みマシマシなんだよ。ちょっと怖えよ。
「盗人に期待するだけ馬鹿だったと言う事ですよ。まあ期待などなかったですけど、それにしても無能しかいなかったですよ」
「まああれだろ。盗賊とかに常識を聞こうとするなんて無理な話だろ。常識が足りねえ連中がここまで落ちぶれてる訳だしよ」
「まあ、そもそも本命の場所ですらないのでね」
てか結局のところ、今回のこの調査って、何のためのやつなんだ?国外調査とか、専門家に任せれば良いのに。
「でよ。結局この調査はなんのためにやってんだよ」
「言ってませんでしたか?」
「聞いてないな」
「まあ、明日話しますよ。別に重要って訳でも無いでしょうが、知っておかないと面倒になるかもしれませんし」
「じゃあさっさと教えてくれればよかったじゃねえか」
「僕は完璧とは程遠いのでね。そんな事言われても困りますよ」
それはこっちが言いてえよ。知っておかないと面倒になるなら、せめてあの歩いてる時に話してくれたら良かったのに。あの虚無感の塊のような数時間の歩いてる時間に説明とかしてくれても良かったじゃねえか。
「まだ時間的にも余裕がありますし、休んでおくべきですよ。窮地なんて起きないでしょうが、何が起こるのか未知ですしね」
「そっすか」
ただでさえ安眠なんてできる環境じゃないのに、こんな微妙なタイミングで起きたら、もう寝れないと思うけどな。
結局ほとんど寝れなかった。まだ初日の疲れしかないから、そこまで疲れた感じが残る訳じゃないけど。それでもやっぱ、寝れてないってのは大きい。
「では、とりあえず今回の調査の事について教えておきましょう」
「ニャ?」
「軽くではありましたが、君には教えたのですがね」
「??」
「まあ、どうせ聞き流してると思ってましたよ。まあ大した事ではないですよ」
「んーーーーーーー!んーーーーーーーー!」
大した事ないなら、あのタイミングで教えてくれても良かったじゃねえかよ。てかあっちには既に説明してると来た。まあ本人さんは知らないらしいけど。
「モンスターの調査ですね。地上のモンスター以外にも、新たに出てきてる可能性があるので、その辺りを調べる必要が出て来たので。地下から出てきてすぐのモンスターが本当にいるなら、まあ一か月ちょっともあれば調べれるはずですよ」
「んーーーーーー!」
「おいちょっと待て」
「なんです?何かおかしな事がありましたか?」
「ツッコミ始めたら色々言いたいけど、とにかく最後だ。あ?一か月近くもこんな事する必要があるのか?」
別に嫌って訳でも無いが。ダンジョンの遠征とかでも、このぐらいの期間が必要になるはずだけど。しかも俺だって経験がない訳じゃないから、そこは良いんだよ。
けどこんなのをやるなら、もっと前もって説明がいるだろ。こう、必要になる物が変わってくから、準備の仕方も変わるんだよ。こういう遠征だと食料は現地調達ってのが多いけど、代わりに回復アイテム等を多く持っていかないといけない。まあダンジョンだと食料も必要になるけど。流石にヒト型のモンスターを喰うのは、ちょっと常人には厳しい。
「まあいない可能性の方が高そうですし、二か月程度掛かる可能性もありますね」
「さらっと日にち増やすなよ」
「そうニャ!おこたが恋しいニャ!」
「んーーーーー!んーーーー!」
「てめえはちょっと黙ってろ」
「早く終わらせたいので、こういう風に盗人から情報を集めようとしてたのですがね。盗人ですと勝手にこちらにやってきてくれますからね。色々手間が省けるのですよ。まあこの辺りは目的地ではないですし、特に情報はなかったですが」
なんだろ、この本題から外れた感じ。俺が言いたかったのは長期間の調査になるなら、前もって宣言しておいてもらいたいって話でだな。いや早く終わらせる事には賛成だけど、そもそもの前提がなってないというかさ。違えだろ。
「とにかくそういう事ですので。必要な物は一定数持っていますが、まあ過信しすぎないでください。できるなら、現地調達を心掛けるように」
「いやだから、それならそれで前もって言っておけって」
「それでは出発しますよ」
無視なんだな。まあ今更どうこうできる話でもないから、無暗に責め立てる事でもねえか。
「それでだ。こいつらはどうすんだよ」
「んーーーーーー!」
「ここに置いていきますよ。当たり前でしょう。こんな穀潰し以下の存在を連れ歩く理由が存在しませんので」
酷え言いようだよ。いくら盗賊だと言っても、ちょっと可哀想に思えてくる。
ただでさえ手足を拘束されて猿轡を咥えさせられて助けを呼ぶどころか動く事さえできるような状態じゃないのに。更にここに置いて行かれるって。
そりゃ四人もこんな奴等を連れていく理由は無いだろうけど。でも放置ってのは、流石に酷いと思うけど。
てか穀潰しより下って、一体何になるんだ?
「まだ国壁の近くですし、いつか気づいてくれるでしょう。それに盗人だとかは、こういう事にされるものですしね」
「まあ、そういうなら」
「良いのかニャ?」
「そもそも僕達を獲物としてた相手に、情けをかける必要は無いですよ。こんな扱いをされたくないのなら、そもそも盗みなどするなと言う話ですよ」
そりゃまあその通りだけど。けどこいつらだって一応はヒトなんだし、ある程度は守られるべきだと思うんだけど。
「とにかく行きますよ。僕達だって時間が惜しいので。こんな輩に使える時間はないし、使うだけ無駄です」
穀潰し以下は穀潰し以下なんです。それ以外の表現が無いんです。
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