十一話 地上モンスター
「もう疲れたニャ」
「聞き飽きたから、もう喋んな」
「酷いニャよ」
「いちいち言葉にされると、こっちまでそういう風に思っちまうんだよ」
丁度、キャンプ地点とこの枯れ枝とかが落ちてそうな場所は、面倒な距離がある。決して近いとは言えないけど、行きたくなくなるほど遠い距離でもない。丁度面倒な距離だ。
なんでこっちの、木とか生えてる場所にキャンプを立てなかったんだ?こっちの方が色々便利だと思うんだが。
「ニャー!何か話題がないのかニャ?ずっと無言で歩くなんて暇ニャ!」
「お前はなんなの?何か喋ってないと死ぬ病気にでも罹ってんの?」
「酷いニャ!」
って言われても。だってそうとしか思えねえし。さっきまでもそうだったし、今もだ。こいつが常に喋ってる。
しかもこう、女特有のって言うか、無駄に高めの声のせいで、耳がキーンと来るし。
「うニャー!」
「マジで禁断症状でてきてるけど」
こいつは本格的にヤバいんじゃねえの?まあ何かするわけでもないけど。
「ほら、持ってきたぞ」
「ありがとうございます」
あの後も、結局あれは独り言をぶつぶつと言ってた。俺に話しかけてたかもしれないけど、もう完全に無視してたから知らない。
「うぅ、酷いニャ。結局一言も返してくれなかったの」
「では食事にしますか」
「早くするニャ!」
やっぱりこいつには、悩みとかなさそうだ。
「所詮は腹を満たすためだけの物しかないので。さっさと食べて、さっさと見張りをしてください」
「そりゃ構わねえけど、お前が一番見張りの時間長いだろ。あれでよかったのかよ」
「あなた方のような初心者に任せられないのでね」
なんだろこの、絶妙に腹が立つ感じ。ここは嘘でも綺麗事を並べればいいじゃねえか。
「それにまあ、ここだと無理でしょうが、モンスターを発見できれば御の字ですので」
「んな事言っても、そもそも見つけれないだろ。こんな場所に光なんてねえだろ」
「そうニャ。焚火の明かりも限度があるニャよ」
「心配されるような事はありませんよ。僕には色々と便利なのがあるので」
って言ってもな。暗闇を見通すって、夜目が利いても、なかなかできねえだろ。
「とにかく、僕は後で見張りをするので、お先に失礼しますよ。無駄に体力を使いたくありませんので」
まあ、こんな訳アリ人物が、今更何かヘンテコな事しても、今更か。
……ちなみに、出て来た飯は、旅と言う条件を考えれば豪華すぎるものだった。
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「さて。交代の時間です」
「ようやくニャ。おやすみニャ~」
「はい、おやすみなさい」
時刻は既に、12時を回った。
この時間になれば、馬車や通行人などは通らない。なにせ暗すぎる。たいまつの明かりだけでは、限度がある。その明かりだけでは、道を確かめる事すら危うい。
そのため、明かりは一つもない。いや、遠くを見れば、国を守る壁での見張りの任を任されている人達の明かりも見えなくはないが、星と見分けがつかない。
「この時間になれば、モンスターも姿を現しやすいはずなんですがね」
モンスターは、元々地下の生き物だ。明かりのない、真っ暗な洞窟で生活していいたのだ。そのため、暗闇だったとしても、ある程度は見えているとされている。
地上に出て、地上の暮らしに適用せざるを得ないとは言え、元々の能力を失った訳ではない。ずっと地下で暮らし、地上に恋焦がれるモンスターと比べれば性能は劣るかもしれないが、ヒトと比べれば全然マシだ。
「まあそう簡単に見つけれるはずないですか」
そのため、食料を得るにしても、夜に行動するしかない。別に昼に行動しても良いが、リスクを避けるにはやはり夜の、それも誰もが寝静まった時が狙い目だろう。
夜ならば、ヒトは明かりが無ければ何も見る事ができない。星明りはあるが、それだと不十分。その僅かな明かりでは、足元の確認すらままならない。そのため、用を足すとかのちょっとした事じゃない限り、必ずたいまつを使う。
それは自分の視界を確保するのと同じく、相手に自分の居場所を教える事にもなる。ヒトには必需品なのだ。
だがそれはモンスターには必要ない。どのように見えているのかヒトには判断できないが、それでも確実に暗闇の中で正確に判断できているのだ。モンスターはたいまつを持つ必要はなく、暗闇の中でも正確にヒトを見つける事ができるのだ。
しかもヒトは、たいまつと言うとても分かりやすい目印を持っているのだ。襲うには厳しいかもしれないが、危険から逃げる事は簡単に出来るだろう。なにせ、その明かりに近づかないだけでいいのだから。
「問題は、相手の方が危機察知能力が上と言う事ですかね。どういう原理かは知りませんが、恐らく視線なんかを感じ取る力がある個体までいる。そうなってくると、ただ見えるだけでは、相手の土俵に上がった事にはなりませんよね」
そしてイルもまた、夜なんかの暗闇の中、はっきりと認識できる目を持っている。正確に言えばこれはステータスの、スキルの効果のおかげだが。解除のできないスキルは、当たりはずれが大きく別れる物になってくる。
そしてイルのスキルは、当たりは当たりなのだが、パッとしない物だった。実際は有効な物だったのだが、やはり言葉のインパクトが絶妙なのだ。それのせいで、仲間に笑われたほどだ。
スキル名『夜目』。効果はそのまま、夜のような暗闇でも、通常通りに見る事ができる。
スキルには、攻撃用のものだとか、自分の強化をするものなどもある。その中で、この夜目は、やはりパッとしないだろう。なにせ夜目なんかは、鍛えれば身につけられる技術だ。
それをスキルで覚えるのは、どうも無駄な気もする。
だが実際のところ、効果の通りだ。暗闇でも、通常通りに見る事ができる。ここに何の偽りもなく、どんな暗い場所だったとしても、昼間同然に見る事ができるのだ。
「さて。モンスター相手にどうやって気配を悟らせないか」
魔法やスキルでも、気配を消すものもある。あるにはあるが、そんなのは普通は欲しいと思うヒトは少なく、また冒険者の中だとハズレと言う認識だ。
そのため、それを狙うヒトなんかはいない。そんなのを狙うぐらいなら、攻撃系のものが来いと願うだろう。
だがそれはあくまでも冒険者の話だ。情報屋や、冒険者ではあるがサポート専門にしているヒトからすれば、気配を消すのだったりだとか、自分にあえて狙いを集中させるのだとかを重宝されたりもする。
そしてイルもまた、その当たりかハズレか絶妙に判断ができない魔法を持っている。本人としては望んだ魔法ではないが、こうして今役立っている。
役立ってはいるが、これだって万能ではない。一層や二層などの弱いモンスター相手には通用するが、ボスモンスターや低階層にいるモンスターなどには通用しなくなる。
ボスに関しては完全に効かないが、普通のモンスター相手であれば確率で効くのかどうか変わる。この確率は自身のレベルと相手のレベルに作用される。
そして、地上に住んでいるモンスターは完全に未知なのだ。どのぐらい強いのか、弱いのか。どのぐらいヒトの見た目に近いのかどうか。その辺りすら知られていない。
「いくら暗闇でも見えるにしても、遠くにいるモンスターまでハッキリと見える訳でも無いですしね。中途半端に気配を消したら、モンスターと一切遭遇できないまでありますし」
気配を消さないなら、モンスターに先に察知されて逃げられるのだが、それでも物音ぐらいは聞き取れる。
今は誰しもが寝静まっている真夜中なのだ。ちょっとした物音だったとしても、かなり大きな手掛かりになるはずだ。
「どうにかできれば良いんですがね。知恵担当がいれば早いんですが。まあそのような思考は、あの客人をお相手してからですかね」
イルは知恵担当ではなかった?
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