十話 準備
国の外での移動方法は、二種類ある。定期的に運行している馬車に乗るか、その便利なのをすべて投げ捨てての徒歩だ。
そしてもちろんだが、国の周辺の調査になれば、徒歩になる。
馬車は他の国に行くための足だ。途中下車もできなくはないが、途中で降りたところで返金される事はない。そもそもモンスターがいると言われてる平原とかに、わざわざ降りるもの好きはいないだろうが。
つまりだ。馬車なんか乗る理由がないんだ。無駄遣いも良いところ。歩いていける場所なのに、なんで無駄に馬車に乗るんだって話だ。
だから、別に歩きで移動する事に不満はない。そういった仕事はほとんどやってこなかったとは言え、そういう感じの話は聞いた事があったし。
てか一般人も乗るようなゆっくりと走ってる馬車なら、ステータス任せの全力疾走の方が早いまである。そりゃ体力なんかは持たないけど、別に遠くまで行く訳じゃないし、やっぱり馬車の必要性はない。
「疲れたニャー」
「はぁ。僕は前から言ってましたよね?それでも尚付いてくると言ったのは君なのですがね」
「それとこれとは別ニャ!こんなに疲れるとは思ってなかったニャ!」
「だから、それ込みで説明したはずなんですがね」
さっきからこれだ。もう飽きたレベルで、この会話しかしてない。いや俺は参加してないけど、それでももう飽きたぞ。
てかあっちの獣人も冒険者なんだろ?なんでこの程度でばててるんだよ。まだ猛獣とかにであったとかでもないのに。
「まだ目的地に付いてないのに、もう夕刻ですか。はぁ。ここで野宿するしかなさそうですね」
「やったニャー!」
「そんな喜ぶ事か?」
「少なくとも、予定の日数から一日追加ですね。まあ地上のモンスター相手に、こちらが用意した予定など完璧に機能しないでしょうがね」
そう言えばだ。国の外のモンスター退治を依頼されてなかったか?しかも王様から。
「なあ、なんで王様の依頼の時は拒否したのに、今になってモンスター退治なんか」
「別にモンスターを討伐する予定はないですよ。ただでさえ危機察知能力が優れているのがモンスターですのに、そこにヒトに見つからまいと異常なまでの警戒心を抱いているモンスターを、討伐するのは面倒極まりないですから。それに今回はあくまで調査であり、余計な事をしている余裕はありません」
「あ?でもこの前確かに、目撃報告とかなんとか言ってただろ」
「だから、それが信用できないと言っているのですよ。別に見たか見てないかを議論するつもりはないですけど、僕は信じないというだけの話ですよ。冒険者なんかでもそうでしょう?依頼があっても、嘘っぽいのがあれば無視するでしょう」
「そりゃまあ、金にならねえし」
「結局のところそれに尽きるでしょう。報酬を得られるかどうか。そして無駄に時間が掛かるかどうか」
そりゃまあ、その通りか。大抵国の外の依頼ってのは高めの報酬だけど、結局誰も受けないし。無駄に時間が掛かるのに、依頼に失敗する可能性の方が高いんだ。いくら報酬が高くても、そんな厄介なのを受けるのはいないか。
「ニャ!準備終わったニャ。もう休んでいいの?」
「明日からの方が大変になるのは確実ですからね。休める時に休んでおいてください。まあ食事を取らないで良いのなら、まあ今から寝てくれても良いですけど」
「それで、ご飯は何ニャ?」
「一瞬で心変わりしたな、おい」
こいつ、こう、極端だよな。さっきまで疲れてたって散々言ってたのに、急に元気が増して飯の話。なんなの?こいつってこう、同時に複数の悩みとかないの?それは羨ましい。
「ではまず、焚火をつけておいてください。こちらは食材の準備をしておきますので」
「了解ニャ!」
「俺は?」
「君も焚火の方をお願いしますね。この辺りに枯れ枝なんかも見つけにくいと思うので」
まあ、そうだな。この辺りはどっちかと言えば平原で、木とかもほとんどない。ちょっと遠くには森らしき場所も見えてるけど、やっぱり遠い。こう、丁度面倒な遠さをしてる。
それにまあ、焚火を使うって事は、夜の間もここでいるからだろう。ってなると、結構多めに必要になると思うし。まあ人手が必要なのは理解できるけど。
けど、食材の用意って、そんな大変か?焚火の方の準備が終わったからでもよくない?
「ああそうでした。多少は準備していますので、枝なんかも多少持ってくれば大丈夫です。勿論何往復もしてもらっても良いですが、どうせその気はなさそうですし」
「ニャ!」
まあ、やる事が減るなら、まあ、良いけど。
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「さて。目的地はここでは無いですが、ここもダンジョンの範囲の中ですよね」
イルが国外の調査に来たのは他でもない。あの階段を見てしまったからだ。
勿論見間違いの可能性もあるだろう。もちろんだが見たままの可能性もある。それを確認するための、今回のこの調査。
同じ場所に短期間で階段ができるのは、まず起きない。大抵は一通り階段ができる場所にできてから、リセットされ階段が生成される。そのリセット前に出た最後の階段と、リセット後に出た最初の階段が同じ場所になる事だってある。だがその確率はゼロに限りなく近いだろう。何せ階段ができる場所は未だに確定されておらず、しかもあの広大なマップのどこにでも出来る可能性があるのだから。
「まあ、その痕跡は一切残って無いですよね」
そしてあのダンジョンが作った階段で、ほとんどのヒトが謎としてきた場所だ。普通ではありえない事が起きるのが、ダンジョンなのだ。
そのため、何が起きても驚けないのだ。地形が一気に変わろうと、まああるかの一言で終わらせれるぐらいには、異常な事が起きるのだ。
「しかも、この辺りにはモンスターが拠点にできそうな洞穴なんかもなさそうですしね。やはりこの辺りにはいなさそうですね」
だがやはり、モンスターが外に出て来たという話になれば、驚きもするだろう。
ダンジョン内の事だと、常に驚きの種で溢れかえってるのだが、地上になれば変わってくる。地上にモンスターがいるには居るのだが、ダンジョンから新たに出て来たという事に衝撃を受けるだろう。
「端の方まで行って確認しないといけないですかね」
だからこそ、慎重にならざるを得ないだろう。確証もない情報を流して町中を混乱に陥れるなんて、三流の情報屋のする事だろう。一流ではないかもしれないが、イルは三流ではない。そのような馬鹿のすることは、イルはしない。
「やはりここのダンジョンは謎しか無いですね」
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