一話 剥奪者の不名誉
「ああくそ!俺が悪いのもわかるが、なんで約束を無視したあいつらが庇われる立場なんだよ!」
この世界には、地上と地下で世界が分かれている。地上はヒトの世界。地下はモンスターの世界。
ある時、地下のモンスターが地上に進出してきた。今まで完全に分けられていた境界が、その日を境になくなった。モンスターは地上を目指し、ヒトは地下を目指した。
それにより、冒険者ができた。ヒトが、モンスターの脅威に怯えなくていい世界にするために。
「しかもなんで剥奪まで!」
だが、モンスターも弱くはない。冒険者が地下に踏み入れば、モンスターの餌食となる。そのため、ヒトの中の、強者が冒険者になれる。
それはギルドと呼ばれる組織が判断する。地下への入り口の管理や、モンスタードロップ売却なども、すべてギルドの仕事。
ギルドは公式に、地下世界を『ダンジョン』と命名した。モンスター以外にも、その地下世界の探索でも死者が多数出たためだ。その土地が罠のように、ヒトをあっさりと殺したからだ。そのため、冒険者はモンスター以外の脅威もあるダンジョンの探索が主な仕事。
そのため、基本は冒険者同士は助け合いだ。モンスターの襲撃でピンチになれば、それを助けるべきだとされている。もちろん無視する輩も出てくる
そういう、冒険者にふさわしくないと判断した冒険者がいれば、ギルドによって冒険者の資格を剥奪される。
冒険者は暴力的なヒトも集まりやすい。強さを求めていると、そういったヒトが集まる。そこを弾かれた人物が、この剥奪者。よっぽどの事が無い限り、剥奪される事もない。そのため、侮辱の対象となる。
「くそっ。仕事を探すにしても、これが付いて回れば、どこも受け入れてくれねえしな」
いくらモンスターに対抗するための冒険者だったとしても、乱暴なヒトが集まるせいで、いい印象を持たれる事は少ない。そこを更に追放されたのだ。どの仕事でも、そんな人物を受け入れたくはない。
「ん?なんだ、これ?仕事がダンジョン研究って、なんだこれ?それに、どなたでも歓迎って、うってつけだな。そもそも受け入れてくれる場所がねえんだ。贅沢なんて言ってられないし。行ってみるか」
そのため、どなたでも歓迎などと言う謳い文句は珍しい。なにせ、そのような人物が来られても扱いに困る。それに、その会社にも悪い噂が流れてしまう。そのような事にしたくないので、厄介者は入れない。
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カランカラン
「おや?客ですか?すみませんね、しばらくは仕事を受ける予定はないのですが」
「いや、そうじゃねえ」
「これは面倒な客が来ましたね。なんです?王の差し金だったりするのですか?もう一度言いますけど、これから僕は仕事があるので、他の仕事を受けるつもりはないのですが」
「いやだから、依頼じゃねえ。あの張り紙を見て来たんだけどよ」
「おや?これはこれは。まさか本当にあれを見て来る人がいたとは。とんだもの好きもいたものです。それで、どのぐらい戦えるのですか?」
「あ?なんでそんな事聞くんだよ」
「仕事の内容を見たでしょう?簡単に死なれる人員なんて必要ないのでね。少なくとも、この国のダンジョンの三階は攻略できるぐらいはないと。いい歳した大人のお守なんて嫌なのでね」
なんだこの失礼な、爺?おっさんは。どう見ても戦えるなりをしてないのに。それどころか、ダンジョンに行けば、こっちが介護しないといけないような見た目してるくせに。
痩せこけていて、骨の形が目に見える状態になってる。肌も極端に白いから、余計に細く見える。骨じゃねえのってぐらいには細い。
髪の毛も、白髪の中に地毛の黒が少し混ざっている。ここまでくれば、白が地毛なのか?いや多分違うな。髪の毛も整えてる様子もなくて、ボサボサの髪が目のあたりまで伸びてる。ただでさえ細すぎるから不気味な感じなのに、更に不気味さを醸し出してる。
それに猫背のせいで、とてもじゃないが戦えるようには見えない。ざっくり言うと、めっちゃ弱そう。
「こんなんでも、俺だって五層まで」
カランカラン
「少し待っていてもらいたい。先客がいるのでね。一日に二人も来客なんて、今日は働きすぎですが」
「は?」
「それはできない。こちらは陛下からの命令で来ている。今すぐ一緒に来てもらおう」
「はぁ。聞いてなかったのですか?先客がいるのです。少し待っていてもらえればいいのですよ」
「そちらこそ聞いてなかったのか?陛下の命令で来ているのだ。貴様は陛下を待たせるつもりか!」
「はぁ。わかりましたよ。では準備するので、少々外で待っていてください」
「チィ。これだから剥奪者は」
なんなんだ、この店主。礼儀知らずだと思ったら、妙なところで礼儀があるというか。いや、王様の命令より俺の方を優先するのは礼儀と言えないだろうけど。まあでも、言ってる事はなんとなく、理解できないでもない。先に来た客、客?を優先するのはわかる。王様の命令を優先しないのはどうなんだ?
てか剥奪者って、冒険者資格を剥奪された奴につける侮辱のあれだろ?このおっさんが?どう見ても、そんな風に見えないけど。
「では、あなたも準備してください。今から城に行くので」
「は?ちょっと待てよ。あの依頼ってのは、あんたに宛てた奴だろ?俺が行かなくてもいいだろ」
「いえ。別に僕個人を特定しての命令じゃないですからね。会社の社員を連れて行ったとしても、問題ないですよ」
「いやだから、俺はまだ入ってないだろ」
「そうでしたか。では合格です。今日からあなたはうちの社員です。はい、では行きますよ。準備は、そうですね。大丈夫でしょう。どうせ依頼は受けるつもりはないので」
本当にこいつなんなの?ちょっと礼儀正しいと思ったら、一気に失礼な奴に早変わりするし。てか結局、俺何も言ってないのに。名前すら言ってないのに。それで入社して大丈夫なのかよ。てか向こうの名前すら聞いてないし。いやこれは俺が悪いか。
「ほら。早く案内してください。王様を待たせてはいけないのでしょう?」
「貴様が遅らせてる原因だろう」
「いいので早くしてください」
これ、本当に大丈夫か?冒険者追放された以上にヤバい事になってる気がするぞ。判断ミスったか?けど選択の余地なんて無かったし、しょうがねえ事だろうけど。
てか結局、この会社はどんな仕事をするの?王様が直々に依頼を出すって、どんな会社なの?そんな会社に俺みたいな剥奪者がいて良いのか?いや店の主がいいって言ってんだから良いんだろうけど。
いやぁ。なんか流れで一緒に来たけど、城ってのはすげえなぁ。冒険者やってたら、絶対に買えないような物がありふれてる。値段を考えると怖すぎて触る事すらできない。
なにより、王様が威厳に満ちてる。剥奪されたからと言って冒険者だから、これでビビったりはしねえけど。一般人だと、萎縮させるぐらいには威厳が凄い。
「おい、部外者を連れて来るとはどういう事だ?」
「部外者も何も、うちの社員ですよ。なら話を聞かせるべきでしょう。わざわざこちらから伝えてややこしくするよりもよっぽど効率がいいですし。それともあれですか?他の社員にすら聞かせれないような話でもするのですか?なら話はここで終わりです、さようなら」
「待て。部外者じゃないのなら、別に良い」
「なら最初から無駄な事は言わないでいただきたい」
「ちょ、は?」
なんでこいつ、王様相手にため口なんだ?猫背なくせに、この堂々たるや。凄い大物なのか、ただの礼儀知らずなのか。無駄に敬語を使ってるだけに、聞いた感じだと礼儀がなってるように聞こえるのが不思議だ。
「それで。何かあるのです?」
「そうだ。最近、国外でモンスターの出現報告がされている。その討伐を頼みたい」
「そうですか」
「マジで!?」
「少し黙っていてください。話がややこしくなるだけですので」
そんな事言っても、冒険者にとって、国からの、というか、王様直々の依頼は誉れだ。憧れだ。そりゃオーバーなリアクションだったのは自覚してるけど、これはしょうがない事だ。てか俺に喋らせるつもりが無いなら、最初から連れてくんな。まあいい体験にはなってるけど。
「それで、報酬はいくらですか?」
「は?」
こんな名誉な事なのに、金の事を気にするのか?そりゃ無償で働けってのは無理な話だけど、困ってる人を助けるのが冒険者ってのじゃねえのかよ。
「150000コルだ」
150000コルって、大金じゃねえか。なに、それだけ危険な仕事なの?それともやっぱり、王様からの依頼って夢があるって証拠か?
「そうですか。では他を当たってください。そもそも他の仕事があるので」
「なっ!貴様、陛下の命令だぞ!」
「ええ、それが何か?」
「なっ!」
いや、王様の命令を背くのはダメだろ。
「それともあれですか?自由の国の王様が、個人に強制させるなんて事するんですか?まあ自由に国の出入りできない時点で自由なんて嘘でしょうけどね。その他にも規制が多すぎる気もしますがね。それも、僕が国外に行こうとした時には許可が下りなかったのに、これはこれは。いくら仕事の関係だったとしても、それは都合が良すぎませんか?」
「貴様、いい加減に」
「良い」
「陛下、それでも」
「お前達は一旦退出しろ」
「ですが、それでは護衛がいなくなります」
「お前達がいれば、話が進まない。いいから退出しろ。…わかってるな?」
「……わかりました」
これ、俺も出て行ってもいいよな?てかもう帰りたい。こんなピリピリしてる空間に居たくない。いや、一緒に出ていけば、どうせ剥奪者どうこうで馬鹿にされるだけだな。そもそもその事知ってるのか?
「それでだ。どうして受けてくれぬ?」
「だから言ってるでしょう。仕事ですよ。どうして誰も聞いてくれないのか」
「それは、そんなに大事な事なのか?」
「そうですね。一刻を争うような事でしょう。では逆に聞きますが、そちらの依頼も大事なのですか?聞いた限りですと、そこまで重要に思えないですが」
「では何か不満があるのか?」
「まあ、そういう風に話を逸らすのが気に入らないのですがね。強いて言えば、依頼料が少ないですね。僕が本当に行かないといけない事案なら、もっと報酬は必要でしょうに。まあそもそもガセネタの確率が高い仕事なんてやるつもりないですけど。それか本当にモンスターが出てきてるのなら、僕じゃなくてギルドに言ってくださいよ。これはそちらの責任でしょうに」
「冒険者でもないくせに、何を偉そうな」
てかこいつ、そんな凄い人なの?そんな風には全く見えないけど。
「そもそもです。こういったモンスター討伐は冒険者の仕事です。僕のところでやる仕事内容じゃない」
「よく言う。貴様なんぞ、仕事なんて来ないだろうに」
それにしても、急に王様の口調が悪くなったな。ただのイメージでしかないけど、王様ってもっとこう、威厳ある話し方してるイメージなんだけど。こんな普通に悪口言う王様は嫌だな、おい。
「おや?知らないのですか?いえまあ、知ってる人は少なかったですね」
「何が言いたい?」
「仕事内容の通りですよ。ダンジョンの研究です。モンスターの詳細なんかを調べてるんですよ。まあ、王室籠りのお偉いさんには知りえないでしょうがね」
「……何が言いたい?」
「だから言ってるでしょう。仕事があるのだと。わかったらな、いい加減帰らせてください。情報は鮮度が大切なのですよ。時間が惜しいのでね。そこの入り口で待機させている護衛達の戦闘態勢を解いていただきたい」
「な!?」
「ん?」
そんな事してんの?てかこいつ、王様と何かあったの?どっちもさっきからなんで喧嘩口調なんだよ。そんな事してるから、護衛達に警戒されるんだろ。
「どうも。ほら君。行きますよ」
「お、おう」
折角の大金を得る機会だったのに。しかも王様直々の依頼。もったいねえ。それもガセネタなら、何もしないで大金を得られただろに。
「それにしてもよ。王様相手に、あんな乱暴な喋り方でよかったのかよ。不敬罪も良いところだろ」
「別に構いませんよ。どうせあれは、そんな事できないですからね」
「なんだそれ?」
王様って、一番権力がある人だろ?なんでこんな自信満々に言い切れるの?
「君は最近この国にやってきたのですか?」
「あ?そうだけど、それが?」
「この国は、自由の国と謳っています。実際は制限だらけの、自由とは程遠いものですけれど。まあ国民に不満が無いようですし、それは良いのですが。この国は一応は自由を謳っているのです。もちろん法に背くのはダメでしょうが、たかが王に礼儀を払う必要なんてありませんよ。あれは形だけの、親の権力を貪ってるだけの人ですから。実際に国民からも、信頼などされてませんから。あの周りにいた護衛達も、王の権力を貪るために仮面をつけてるんです」
うーん、確かに?言いたい事は理解できるけど、それでも王様相手に無礼を働くって、まずいんじゃねえの?俺が言えた事じゃないが。
「それに、あれは僕を都合の良い傭兵か何かと勘違いしているのでね。国に置いておきたいのでしょう。そのため度々ああいった事になるのですよ。下手に自由を謳っているせいで、留めさせる事もできないので。だから勝手にどこかに行かさない為にも、ああやって依頼と言う名の雑事を押し付けてくるのです。そもそも、国の外でモンスターが現れたなど、ギルドの不祥事です。しっかりとギルドがダンジョンとの出入口を管理できているのなら、外にモンスターなど出てくるはず無いのですから。あんなのギルドに任せておけばいいのですよ。まあギルドにそんな信頼はありませんがね」
「?」
ちょっと理解に苦しむ。
モンスターもいつからか、地上に住み着いている。もちろん町がある付近にはいないが、森の奥だとか、渓谷だとかに住み着いている。それは何が原因か判明できてない以上、これも冒険者の仕事の一部にされてる。まあ近くに入り口があって、階段を下りるだけでモンスターと遭遇出来るから、そんな遠くまで行く必要のある任務なんて受けないが。
まあギルドが入り口なんかを管理してるんだから、地上にモンスターがいるのはおかしいけど。けどダンジョンマップと照らし合わせても、地上のモンスターがいる場所の地下には、ダンジョンが無い。本当にどこから来てるのかわかってない。それをギルドのせいにするのはどうなんだ?
「そう言えば名前をまだ伝えていませんでしたね。イル・トランクリティです。確か店の名前も書いてなかっでしょうし、一応言っておきます。ウィ・リンク。一応覚えておいてください。それで、君の名前は?」
「あ、ああ。俺はマッド。マッド・フールだ」
「そうですか。では君、出発の準備は出来てますか?」
あ、名前で呼ぶわけじゃないのね。いやおっさんに呼ばれたいとか、そんな趣味はねえけど。なんで名前を聞いたんだよ。あれか?事務処理ってやつか?
「そんなの出来てるはずねえだろ。準備しなくていいって言ったのはあんただ。そもそもどこに行くって言うんだ?」
「先ほどまでの話を聞いてなかったのですか?ダンジョンですよ。そろそろ情報の更新が必要になってきますしね。……ああ、そうですね。まだ最初ですし、テストのようなものにしましょうか。そうですね、約三日。ダンジョンに潜る事になるでしょうから、そのつもりの準備で。準備ができたら、店に来てくれればいいです。こちらも相応の準備をしておきますので」
「は、はあ」
いきなりダンジョンに入るって、本当にどういう仕事してんだ?情報がなんとかって言ってた気がするけど。
てかこの人について行って大丈夫なのか?なんかこう、町往く人達から忌避されてるというか、あからさまな敵意を剥き出しにされていたというか。俺ですら、ここまでなってないのに。こいつ、一体なんなんだ?そういえば、こいつ、冒険者じゃないとか剥奪者とか言われてたし、何か関係してんのか?なんか信じれないけど。どう見ても冒険者をやってた奴の見た目ではない。どれだけ高く見積もっても、土木作業すら出来なさそうな見た目なのに。
どうも恐らく初めまして。数ある作品の中から読んでくれてありがとうございます。
まあ、いつも通りに。ヒロイン登場は、もうちょっと後になります。それと主人公の一人称視点なんですけど、基本はイルを基準に話が進むと思います。イルを見てる主人公を見る私達、と言うよくわからない感じになると思いますけど、興味がありましたら、次の話を読んでください。