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怖くて悲しいお話たち  作者: 天野秀作
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 みずはのめのかみ 

 みずはのめのかみ            

 

昔、私は大学を卒業後、九州のとある水族館に就職しました。今は事情により退職しましたが、これは当時、そこで働いていた時に体験した不思議な話です。

 さて、水族館と言うものは、外観の美しさとは相反して裏方は大体がガテンな仕事です。大学を出てすぐに就職した若い私も例外なく、と言うより、若い男子であったので、度々、「おまえ、若いんじゃから」と、上司から相当にこき使われたことを覚えています。働き方改革など異次元の世界の言葉であった頃のことです。食べて寝て着てが、かろうじてできる程度の安月給でありましたが、まあ自分の好きなことをしてお金がもらえるのですから、誰もが多少の不満はありましたが、そのことについて面と向かって上に文句を言うような強者はいませんでした。

 

勤めて2年が過ぎようとしたころ、私の周りで私も含めて、どうも良くないことが連続して起こりました。例えば身内に不幸が続けざまにあったり、誰かが病気になったり、事故を起こしたり、私自身もバイクの事故で手の骨を折ったり、食中毒で入院したりと、何かと不測の事態にしばしば直面いたしました。

 あまりにそれが続くものですから、これはちょっとおかしい、何かあると、当時お付き合いしていた女性の祖母に「知り合いに良い八卦見がいるので行きなさい」と勧められ、私自身も昔から何かとそういった類のものに影響を受けやすいことがわかっておりましたので、素直に従うことにいたしました。

 今思えば私を一目見るなり「おかしい」と言った彼女の祖母もかなりの力を持つ女性であったと思います。

 さてその八卦見の方と言いますのが、大分県の人里離れた山奥で一人隠遁生活されている修験者の方でした。

その方はじっと私の顔を見られて、一言。

「ようけじゃ、ようけくっついちょんよ、あんたこげえようけどこじ拾うたか」

 と、耳にやさしい大分弁でおっしゃられたのですが、私には皆目見当が付きませんでしたので「わかりません、何がそんなに付いておりますか?」とお尋ねしたところ、

「ああ、水神様じゃ。弥都波能売神みづはのめのかみ様が何かしちょんごたる」とおっしゃいました。

 水神様と言えば、人間の生活と密接にかかわる水の神様ですから、それが何か人に悪意をもたらすとは思えません。私が考えあぐねておりますと、私の目をじっと見て、「あんたは何か水にさわることぅしよんのやろう。最近井戸ぅ掘るやら埋むるやらせんやったか?」と低く唸るような声でおっしゃいました。

 背筋に悪寒が走りました。3カ月ほど前に、水族館で使うきれいな濾過海水を汲み出すために海岸線の浅瀬に井戸を掘る作業をしていたことを思い出したのです。その井戸と言うのは、私を含めた数人の男が、機械に頼ることなく、人力で約10mぐらい掘り、ヒューム管というコンクリートの土管を埋めて崩れないようにすると言う至って原始的な井戸でした。

「はい、海岸に井戸を掘りましたが、何か」

「何え? 何もせず、ただ掘っただけか お祓いも清めもせず、ただ掘っただけちか!」とえらい叱られてしまいました。

 生活で必要な水だけでなく、こんな簡易な井戸でさえきちんと鎮めると言うことさえ私は知らなかった。ただでさえ憑依体質なのに。

 それでしっかりお清めしてもらい、一カ月の間、酒と塩を欠かさずお供えして、ようやく厄から解放され、平穏が戻りました。

 その後お礼にその修験者様を訪ねました。

 そこで言われたことです。

「ほう、まだおらるるけんどなあ、、まあ大丈夫じゃけんの」

 その水神様はどこへ行かれたのかと言えば、どうも、居心地が良いのか、まだ私のところにおられるのだそうです。それで各地の水神様をお祀りする神社へ行くと、相性があるらしく、40年近く経った今でも、その影響ですっきりしたり、逆に酷く体調を崩したりするようなのです。神様同士でもそんなことがあるのだと不思議に思った次第です。  

                            了



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