霊道 その1――ナナちゃん奇譚⑩
最近「霊道」と言う言葉をけっこう耳にします。
つまり様々な霊たちの通り道だと言われる場所ですが、やはりこれも霊媒体質の人の住む家の方がそうなる可能性は高いようです。
また霊道にもいくつかルールみたいなものがあって、そこを「通らなければならない」と言う意志のみで通過するだけの霊もあれば、ぐるぐる彷徨う不浄霊もいるそうで、何も障りがなければ、特に「気にしない」もしくは「慣れる」と問題はほぼないらしいですが、それを家の中に留めてしまうような、例えば出口に鏡を置くとか、そういったことをするとどんどん家の中に溜まって行くのだそうです。そうなると徐々に障りが出だすのだそうです。
ナナちゃんは神戸震災の被災者です。元々から住んでいた中央区の賃貸マンションは、地震で大きな被害を受け、一時的に大阪に避難した後、復興と共に再び神戸に戻りました。
しかし元居たマンションは取り壊しになり、それを機に、灘区に新しく建った分譲マンションを夫婦で購入しました。
マンションを購入して6年後に旦那さんとは離婚。下のお子さんが生まれてまだ半年だったそうです。二人の小さな子と、住宅ローンを抱え、ナナちゃんはそれでも安易な道を選ばず、夜の職業に身をやつしながらも懸命に生きていました。私がナナちゃんと知り合ったのは、それから1年後のことです。
前置きが長くなりました。本題に入りたいと思います。
霊道 その1――ナナちゃん奇譚⑩
ある時、ナナちゃんから連絡があった。
「アマさん、またちょっと相談があるんやけど」
「うん、どうしたん?」
「今住んでる家のことで……」
「住んでるって、今のマンション?」
「うん」
「何か不都合でも?」
「オバケが出るのよ」
「ええ? まだ新築やろ?」
「うん、なあ、ちょっと悪いけど、来てもらわれへんかな」
と言うわけで、私はナナちゃんに呼ばれて、震災後に購入したと言う、そのマンションにお邪魔することになった。しかし、オバケと言う言い方がいかにもナナちゃんらしい。小さい頃から事あるごとに、いろいろなやつをくっつけたり拾ったりしている人が、今更、オバケと言うのか。まあそこが彼女の可愛いところでもあるのだが。
敏感なナナちゃんは住み始めた時から、このマンションには何かあると感じていたようだった。なぜそれがわかっていて買ったのかと言えば、見学したのはこの現地ではなく、ここから少し離れた場所にあったマンションギャラリーだった。そしてお洒落な内装には勝てずに購入を決めたらしい。
現地が完成して、初めて部屋に入った瞬間、ナナちゃんはすぐにアンテナが反応した。「しまった!」と思ったが、その時はすでに購入した後だったので、もうどうすることもできなかった。
そして住み始めて、ラップ音やら足音やらはけっこうあったらしいけれど、今までが今までだけに、ナナちゃん、それぐらいでは驚かない。常人ならきっと怖くて住めないかもしれないが、「あ、また何か音してるわ」ぐらいで、契約した何千万ものローンの前では揺るがない。
遺伝なのか、娘もその音を頻繁に聞いていた。「ママぁ、また壁から音鳴ってる」「気にせんとき、すぐ止むわ」と言うような会話が晩ご飯の食卓で普通にあったらしい。
ナナちゃんが音のする方に向かって「もう、ちょっと煩い、ご飯食べてるやろ!」と怒鳴ると音は止んだのだそうだ。恐ろしい霊感一家だ。
ところが、最近になって音だけではなくなった。ナナちゃんは夜のご商売なので娘を送り出した後、昼寝をする習慣があった。そしてお昼寝中、ほぼいつも決まった時間に酷い金縛りに合うようになった。それだけならまだしも、やがて昼寝している自分の上を、人がすーっと通り過ぎるようになったらしい。それもほぼ毎日。ナナちゃん、さすがにこれには困った。「昼間やで、昼間!」とナナちゃんは怒る。そこで私に応援を求めて来たわけだ。
詳しく聞いてみると、金縛りに合った時、通り過ぎる人はいつも同じだそうで、年の頃なら30才ぐらいの女性だと言う。壁から入って来て自分の寝ているベッドの上を踏みつけるように抜けて行くのだそうだ。
私はナナちゃんの家に行って初めて気付いたが、ナナちゃんの部屋は2階(1階は駐車場)の東の端の部屋で、玄関は北側、つまり鬼門にあり、南西の裏鬼門にはベランダがある。風水にあまり詳しくない私でもこれは良くないだろうと思った。
そこで……。
「ナナちゃん、ここ、霊道やな。玄関から入って来てベランダへ抜けてるで」
「やっぱりそうなんや。寝てたらいつも玄関から入って来る人の気配があるわ。ほんまに誰か来たんかなと思うぐらいにはっきりと音とか聞こえるし」
そこで私は、玄関に盛り塩、盛り塩は3日置きに換え、観葉植物を置く。反対のベランダにも観葉植物、それと常に玄関とベランダは掃除すること、そう伝えた。
はたして、その通りにすると、ぴったりと不法侵入? は止まったらしい。
しかし私はそのいつも来ると言う30代の女性の霊のことが気になった。しかもここが古い建物ならまだわかるが、築の浅い物件だ。
続く




