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怖くて悲しいお話たち  作者: 天野秀作
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実(げ)に恐ろしきは ②

  に恐ろしきは② 

 

 しかしここでよく考えてみれば、亡くなったのは、H絵の方だけ。その奥さんも確かに大病はしたが、亡くなりはしなかった。そして今も生きておられる。もちろん、旦那は不倫がバレて左遷はされたが、こちらも夫婦の形は健在である。と、言うことは、仕掛けたH絵だけが、自らの命を削ってしまったと言うことになる。

 

 後に、この話には恐るべき裏があったことを知る。

 なんと、実は、先に仕掛けたのは、H絵ではなく、上司の奥さんの方だと言うのだ。

 奥さん、遅ればせながらK子さんと呼ぶことにする。K子さんは、実はこの会社の創設メンバーの孫娘だった。つまり男は逆玉の輿に乗ったわけだ。

 K子さんは、生まれも育ちも一流の、いわゆるお嬢様育ちで、恋愛に関してもまったくの世間知らずの生娘だった。偶然、何かの折に、家にやって来た、ある若手社員に一目惚れして、強引に結婚したらしい。

 この若手社員こそH絵の不倫相手である上司Tだ。K子さんにとって、もちろんTがその無垢な心も純潔も捧げた相手であり、Tとの生涯に渡る愛は永遠であると夢見て、いや、考えていたわけだ。

 男は本能的に多くのDNAを残したい生き物であるが、箱入りのK子さんにはそれが理解できない。時間と共に、加齢と共に、Tの興味が自分から薄れて行くことがK子には耐えられなかった。

 Tから何気ない社内での女性の噂話を聞くたびに、K子さんは、Tを送り出した後、一人家で悶々とする毎日の繰り返しだった。その内にTに対する猜疑心は大きくなるばかり。やがてありとあらゆる手段を使って、旦那、Tの身辺を徹底的に調べるようになった。

 そこで発覚したのが、若いH絵の存在だった。

 その事実を知った時、怒りの矛先は、旦那Tではなく、H絵に向かった。

 本当は会社に出向いて行って、H絵をオフィスで張り飛ばしてやりたい衝動に駆られていたが、地位も名誉もある創業者の孫娘である自分がそんなことをすれば、大きな社会問題に発展することぐらいは、いくら世間知らずのK子さんにもわかった。

 そうすると、人知れず、H絵に制裁を加えるには、やはり「呪術」しかなかった。

 では具体的に何をやったか。K子さんは古都京都の出身で、男女間のことに関しては温室育ちだったが、神社や寺に関しては非常に造詣が深かった。

 そこで思いついたのは、家からそう遠くもないところにある、貴船神社だった。

 貴船神社は、縁結びの神としても有名であったが、もう一つの面では、縁断ちとして、丑の刻参り発祥の地とされている。

 つまり、K子は、これをやったわけだ。

 真っ暗な丑の刻に、境内に入って、こーんこーんと恨みを込めてH絵の写真を貼った藁人形に釘を打ち付けた。

 ちなみに貴船神社は私有地であり、夜間は入り口が閉鎖されるので入れば不法侵入となる。そのため丑の刻参りは禁止行為とされているが、今でもこれをやる人が後を絶たないと聞く。


「先生、奥さんを呪い殺す方法を教えてください」とやって来たH絵にはすでに、長い五寸釘が打ち込まれていたのだ。

 そのせいでK子の方は、子宮がんに罹り、長い間苦しむことになったが、H絵はとうとう最後には狂い死んでしまった。占い師の先生が最後にH絵を見た時、その様子はまるでゾンビのようだったとおっしゃっていたので、おそらくその頃には、もうかなり呪いの毒が回っていたのだろうと推測される。

 この話の顛末を聞いた時、私は心底怖くなった。安珍・清姫伝説ではないが、女性の情念とはに恐ろしきものだと思った。

 

                                了

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