表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怖くて悲しいお話たち  作者: 天野秀作
4/122

亡き父に呼ばれて

  亡き父に呼ばれて

 

 もう50年近く遠い昔の話です。私の父が癌のため長期入院した時、ある介護ヘルパーを雇っていました。当時、父は出身地である小倉市(現北九州市)を離れ、単身、大阪で会社を経営していました。まあ会社と言っても、父と母、それに数人の親戚で経営する小さな同族会社でした。

 父が病で倒れた時、父に代わって母が社長代理となり、なんとか会社運営を継続することができましたが、まだ小さかった私の育児と会社運営を一人でこなさなければならず、入院している父の付き添い介護までする余裕はありませんでした。

 そこで民間の入院付き添い人派遣会社に頼んで、父の入院期間中、母の代わりに、今で言うところの介護ヘルパー、いわゆる「付き添いのおばちゃん」に来てもらっていました。

 私も何度か会ったことがありますが、おばちゃんと言うには失礼な、当時30才半ばぐらいのやさしそうな女性だったように覚えています。

 しかしながら、治療の甲斐なく、約1年の闘病生活の後、父は59才の若さで亡くなってしまいました。 

 そして20年後のこと。母のもとに亡くなった父の小倉の実家より、父の弟さん(私の叔父)が癌で入院したと連絡がありました。母と父の実家とはまだ親交があったので、母と私は小倉まで遠路はるばる見舞いに行くことになりました。

 病室に入った時のことです。

「あら? あなた、○○さんと違いますか?」

 母は驚いてその部屋にいた女性に声を掛けました。私はすぐにわかりませんでしたが、なんと20年前に父の付き添いをしていた女性がそこで同じように叔父の介護をしていたのです。その女性も大変に驚かれましたが、母の驚きはそれどころではありません。

「ああ。きっとお父ちゃんが呼んだに違いない」

 母は、すっかり年を取った「付き添いのおばちゃん」の手を取り、涙ながらにお礼を述べていました。

 確かに、大阪と小倉で、もちろん働いているヘルパー派遣会社も違うし、何より20年もの歳月の隔たりがあるにもかかわらず、兄と結局亡くなられた弟のその死に際まで、傍で介護をすることになるなんて、偶然で片付けられる話ではありません。不思議な縁で結ばれているものです。私も天国の父の導きだと心から思いました。

                                          

                           

                               了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ