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町と田舎と日常と

作者: 豚は翔る

 今日はとても天気がいい。

 大海原のような、どこか暗く深みがあり、その向こう側にある何かを覆い隠して探求心くすぐるダークブルーでもない。小学生が美術の先生に「濃い色を使うな、薄い色を何度も塗り重ねて描きなさい」といわれながら描く水彩画の空のような、画用紙の色が透けて見える淡く瑞々しい色でもない。

 どこまでも透き通っていて、それでいて大海原にも負けない深みのある青。私の背中に羽が生えているのならば、その奥深く、天高く、どこまでも飛んでいきたいと思える空が広がっていた。


 視線を下げれば、どこか白みがかっている青い空は、山々に縁どられている。まさに新緑という言葉がふさわしい明るく生き生きとした葉をつける木々と、長い年月を生きてきた重みを感じさせる深い緑をした葉をもつ木々。

 そんな木々に覆いつくされた山々のふもとでは、赤いトラクターがブォーッンという音とともに、草が生えて緑色になった地面を湿り気のある重そうな土の色に変えていく。


 そよ風が肌を撫でれば、どこか懐かしい土のにおいが鼻をつく。近くの竹やぶでは、竹たちが枝葉をこすり合わせ、カサカサと乾いた音を立てる。


「チュン、チュンッ」

「ホーホッケキョ」

「ピーピーピー」

「ピリピリピリ」


 鳥のさえずりがどこからともなく聞こえてくる。


 このまま新緑の草の上に行って寝転んでお昼寝でもしてしまおうか。それとも自転車に乗ってあてもなく風の吹くままにどこかへ行ってしまおうか。


 電車が1時間に1本しか来ない駅からさらに車で1時間。周りを山に囲まれた田舎の集落にある、都市の郊外にあれば豪邸、田舎なら一般的な大きさの木造2階建ての私の実家。その2階の南東にある自分の部屋の窓から外を眺めた私はそんなことを考えた。




「コロナ、コロナ、コロナ。自粛、自粛、自粛。」


 私は、耳に胼胝ができるほど聞いたそんな言葉を繰り返すテレビを消した。

 世間では外国からやってきたウイルスが猛威を振るい、人々がいつ終わるかわからないウイルスの脅威と自粛ムードに辟易している。

 いつもはにぎわっている観光地も閑散とし、イベント事は町内会のお祭りからオリンピックにいたるまでことごとく中止や延期。町中のお店もスーパーやコンビニ、病院以外はほとんどが閉まっている。そしてテレビもSNSも連日コロナの話題で持ち切り。

 はたして、ここまで世界中を引っ掻き回し注目を集めた生き物が今まで存在しただろうか?


 そういう私だってコロナ騒動がなければ今頃、学校で弁をふるう教授の言葉を聞きもらすまいと耳を傾け、必死にノートをとっていたはずだ。そして寮で学友と春休みはどうだったなどとたわいもない話をしていただろう。


「お昼ご飯できたわよ~」


 思いにふけっていると母が私を呼んだ。


 私は数年前に、この村には働く場所も遊ぶ場所も何もないと思い、都会の学校に進学した。

 しかし、世界中がコロナウイルスに右往左往し、人々の日常というものが私たちの手が届かないどこか遠くへ吹き飛んでいった今、山に囲まれたこの片田舎の村には、数年前と変わらぬ日常があった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] どんなに日常が崩れても変わらないもの、拠りどころって必要だと思います
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