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ゼロ:少女の異界戦譚―Zero:Savior of parallel wars―  作者: 本城ユイト
第一章 喚ばれた世界
8/8

No.08 チートを選べ

「今この世界にはね、怪物がいるんだ」


 そう、ゲーム機を慣れた手つきで操りながら、ネルタスは不意にそう言った。その言葉を聞きつつ、同じく操作する鈴音はゲーム画面から目を外さずに応える。


「へぇ、怪物ですか。それはもしかして、戦争と関係があります?……あ、エリア5で乱入モンスター発見です」


「あいよ、了解。……その通り、戦争と関係ある――というか、そいつこそが戦争の元凶だ。ああ、そのモンスター飛竜種みたいだぜ」


「じゃあ閃光玉あるんでわたし行きますね。……戦争の元凶ってことは、要するにその怪物を倒せば終戦ってことですか?それと神様ガンナー装備でしょ、援護お願いしますよ」


「OK、任せろ。……ところがそういう訳でもねぇんだわ。確かに元凶はその怪物なんだけど、あくまでそいつは元となった原因であるってだけ。あの戦争はそう簡単には止まらないぜ」


 ゲームの中で自キャラを操りミスのない戦闘を繰り広げながら、器用にも会話をするふたり。その姿は傍から見たらダメ人間かニートのようにしか見えないが、これでも立派な神様と高校生である。


 ダメ人間は否定出来ないものの、ニートでは無いのだ。ここ、重要。


「さて、そろそろ真面目に話をしようか」


「あーちょっと待ってください、今いい所なんで。コイツ討伐してからにしましょうよ」 


「……そうだな、そうすっか」


 シリアス顔で本題に入ろうとしたネルタスだが、しかし本来のキャラから程遠い作り顔は数秒すらもたない。


 すぐさま真面目の仮面を捨て去り、嬉々としてゲーム機へと向かうゲーマー駄女神の顔がそこにはあった。


「さてと、ノーコンティニューでクリアしてやります!」

 

「ああ、コンティニューしてでもクリアする!」


 蒼空を翔ける赤い飛竜の咆哮を合図に、ふたりの狩人は各々の武器を手にして、戦場へと飛び込んで行く。

 

********************


「――で、怪物ってなんです?」


 ゲームも一段落し、休憩タイム。


 世界の秩序を司る『善悪の天秤』の下で、罰当たりにも――いや、罰を与える側の神様がどこからか持ってきたスナック菓子や炭酸飲料を広げるだけ広げてそれをつまみながら、鈴音は思い出したように問いを口にした。


 それは”世界同士の戦争を引き起こした元凶の怪物”へと焦点を当てた質問――ことによっては世界の隠された真実を知りかねないにもかかわらず『今日の朝ごはん何食べた?』くらいの気軽さだった。


 なぜなら、自分が複製された人格であるということをなんとか受け止めた鈴音ではあるが、どこか他人事でもあったのだ。いや、他人事であって欲しいという現実逃避にも似た願望か。


「んー、そうさな。ソイツは”残虐を纏い災禍を撒き散らす絶対悪”と呼ばれた、四体の怪物のうちの一体だよ」


「へぇ。随分と厨二病じみた表現ですね。四体ってことは……四天王ですか」


「ま、その意見は間違っちゃいない。ちなみに、四天王を倒した後にチャンピオンもいるしな」


 ポリポリと棒状のスナック菓子を頬張りながら、ネルタスはそう答えた。やはりというか、その思考の根底にはサブカルチャー知識が絡んでいるようだ。


「この並行世界全体を指して『世界群』と呼んだ時、その説明には必ずと言っていいほど異物と称される四体の怪物の存在が含まれるんだ」


「要するに、世界の理に反する最強かつ最凶の怪物――みたいなやつですか。ありがちな設定ですね」


「ありがちな設定とか言うな。……その怪物の中において、最悪なのが『絶対悪』の怪物。コイツはな――世界を滅ぼすんだよ」


「……?何言ってるんです、世界を滅ぼすのなんて、悪の組織とか怪物の仕事みたいなものでしょう」


「フィクションならな。ただ現実問題、確立世界線を破壊したのはコイツだけなんだよ」


 平行世界には、二種類の世界線がある。


 ひとつは、大きな歴史的転換点によって分岐する世界。些細な可能性を切り捨て変革を追求した”確定世界線”。


 もうひとつは、世界に暮らす生物の一挙一動で分岐する世界。全てのあらゆる可能性を内包した”不確定世界線”。


「このふたつの何が違うかって言えば、その()()()()だ。たとえるなら、樹の葉や小枝は簡単に摘めても、幹や太い枝は難しいだろ?つまりはそういうことだ」


「なるほど。その強度が高い確定世界線を破壊した怪物が――『絶対悪』でしたっけ?とかいう怪物だけ、だということですか」

 

「まさにその通り」


 理解が早くて助かるよ、とネルタスはため息混じりに零した。その心底ほっとしたような安堵の表情を見るに、どうやら説明好きではないという以前の発言は本当らしい。


 それから食べていた棒状のスナック菓子を食べ終え袋を空にすると、パチンと指を鳴らす――その瞬間、今まで所狭しと広げられていたお菓子類や飲料のペットボトルが空気に溶けるように消えていった。


 その、ここに来て何度目かになる地球の常識では語ることの出来ない現象に、鈴音は大きく目を見開くと――


「ああーっ!わたしの食べかけポテチと飲みかけサイダーが!ちょっと何してくれるんですか、数多の戦場で隣に居てくれたわたしの戦友を!」

 

「お前、結構食い意地張ってるのな。というか、その戦友を食って飲んでしていいのかよ。……ちなみに、『格好良く言ってるけどその戦場ってゲームの中だろ』というツッコミはしないぜ?」


「口に出してるじゃないですか」


「……ハッ!しまった!」


 何故か愕然としているネルタスを、さすがはボケ担当だなぁと鈴音は感心した目で見つめる。その思考には、自分も同じ穴のムジナだという考えは一ミリも無い。


 そうこうしているうちに衝撃から立ち直ったらしいネルタスが、気を取り直すように咳払いをした。


「じゃ、そろそろ行くか、異世界」


「いや、そんな『コンビニ行くか』みたいな気軽さで言われても!」


「だって他人事だし。オレ、極論自分が楽しければそれでいい人種――もとい、神種(じんしゅ) だから」


「鬼ですか!……いや、神様だった!」


 突然告げられた異世界行きの言葉に、思わず動揺する鈴音。だがそれに構うことなく、ネルタスは日本人には――いや、たとえ地球のどの国の人だろうとわからない言語で何かを唱えていく。


 すると鈴音の足元へ神々しい白光を放つ複雑な魔法陣が広がっていき、それがゆっくりと回転を始める。


「よーし、んじゃ行くぞー!」


「ままま、待ってください!何か忘れていることとかありませんか!?具体的には”チ”から始まって”ト”で終わるあれとか!」


「……?ああ、そっかそっか」


 ぽんと手を打つと、ネルタスは鈴音愛用のゲーム機を取り出した時と同じようにポケットへ手を突っ込み――


「ほら、これが欲しかったんだろ?まったく食いしん坊め」


「違いますっ!チョコレートじゃないですよ!……まあ、貰えるなら頂きますが」


「うーん、違うか……。あ、もしかしてこっちか?仕方ないなあ、これはオレの秘蔵の品なんだが、旅の門出を祝って差し上げよう!快適な馬車の旅を楽しむといい」


「だからチケットでもないです!というか、そんなチケット持ってるってことは、神様なのにホイホイ地上に行けるんですか!?……それはそれとして、くれるなら貰いますけどね」


 何故か弄せず板チョコと馬車のチケットを手に入れた鈴音は、”貰える物は貰っとく”精神でありがたく板チョコを口に運びつつチケットを頂戴した。


 が、本題が一ミリたりとも進んでいないことに遅まきながら気づき、自ら答えを口にするしかないと嘆息した。もしかしたら、クイズ形式のようにしてしまったのが、ボケキャラ神の何かを刺激したのかもしれない。


「まったく……チートですよ、チート。何かあるでしょう、異世界行くんですから」


「ああ、そういうことね。つっても、前にも言った通り、今あんまり世界のリソースを割けないから、簡単なのになるぜ?」


「なんでもいいですよ。はずれスキルで異世界無双!みたいなのも、最近じゃよく見かけますし」


「ばーか、あんなに現実が上手くいくわけねーだろ。それに加えて戦時中だぜ?それはさておき、鈴音にあげられる異能だけど。”時間停止”か”幽体離脱”どっちがいい?」


 む、とその選択肢に鈴音は変な声を漏らした。なぜなら、予想していたものより数段使い勝手の良さそうな能力だったからだ。


 が、その他にも使えれば便利だろうなと考えていた候補は幾つかある。そこで、ダメ元覚悟で鈴音は訊ねた。


「あの、一応訊いておきますけど、それ以外の能力はダメなんですか?」


「ダメだな。このふたつは、お前の魔力に合わせて選んでるから。それ以外も与えられなくはないけど、一度使ったらボン!ってなるぜ?」


「ボン!ってなりますか」


「ボン!ってなるんだな」


 鈴音の問いに、ネルタスは至極真面目な表情でうんうんと頷いた。


 もし第三者がこの会話を聞いていれば、これほど要領を得ず頭の悪い会話も無いんじゃないかとさぞ驚いたことだろう。が、当の本人たちは至って真面目だ。


(時間停止と幽体離脱……どっちも魅力的だなぁ。結構戦闘とかにも活かせそうだし。さて、どうしたものか……)


 異世界での暮らしという点を考慮し、利便性が高く応用が利いて、なおかつ自分に合った能力はどちらかと考えていった鈴音は――


 不意に脳裏によぎったネルタスの顔に、いつの間にかその思考を止めていた。


(――あれ、そういえば)


 自分がここに来る元凶の神様。

 サブカルチャー好きの駄女神様。

 趣味が合って話すのが楽しい神様。


 ここに来て見た、様々なネルタスの顔が浮かんでは消えていく。それはまるで、走馬灯のようでもあった。

 

(もしここを出たら、異世界に降りちゃったら、神様とは二度と会えなくなるのかな)


 そんな考えが、思考を侵食して埋めつくしていく。と同時に、鈴音の胸の中で『感情』という名の想いが溢れ出す。


(それは。普通に。確実に。ものすごく)


 絶対に。 

 それだけは。


(――――嫌だな)


 自然と拳を握りしめた。

 気合を入れるように、鼓舞するように、その考えを振り払っていく。その”可能性という悪魔”を否定するために戦おうと、心が燃えていく。


(なんだ。こんなことで悩んで、ホント馬鹿だなぁ、わたし。()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう思えば、気が楽になる。

 無意識のうちに、自嘲の笑みが零れるほどには。いや、自嘲というよりは、自分の馬鹿さ加減を再確認しただけ。


 ――簡単だった。本当に馬鹿らしい。

 どれを選ぶかなんて、迷うまでもなく最初から決まっていたというのに。


「わたしは」


 だから鈴音は言う。


「わたしが、欲しいのは」


 自分の願いをそのままに。

 定まった願いを、言葉という形にして。


「あなたと友達になることよ、ネルタス」


 その神様の顔を真っ直ぐに指さして。


 チート能力なんていらないと笑い、”最高の神様との友情”という最大のチート(第三の選択肢) を、鈴音は迷いなくその手に掴み取った。

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