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ゼロ:少女の異界戦譚―Zero:Savior of parallel wars―  作者: 本城ユイト
第一章 喚ばれた世界
3/8

No.03 世界の観測者

 鈴音が目を覚ましてみれば、視界に映る光景は我が家の自室から一変していた。


 ひんやりとした空調の風が制服から覗いた素肌を撫で、背後ではたった今気づいたとばかりに自動ドアが閉じていく。二階建ての空間――その一階部分、吹き抜けになった場所で立ち尽くしながら鈴音は呆然と呟いた。


「げ……ゲーム、センター?」

 

 オタク系少女を自称する――というよりは自他ともに認めている鈴音は、嗜みとしてアーケードゲームにも手を出している。そのジャンルは一貫せずに様々だが、それらをプレイするために放課後に足繁く通った家の近所にあるゲームセンターに、その場所はよく似ていた。


 入口に立ち尽くす鈴音は、何があったのかとしばし思考を回してみて、


「うん、わかんないや☆」

 

 いっそ清々しいまでの笑顔で、理解をぶん投げた。

 

 まあ可能性としてなら誘拐だとか拉致監禁――いや監禁はされていないが、大体のその手の犯罪関係が上がる。だがしかし、それでは気を失う直前に見た魔法陣と聴こえた声の説明がつかない。

 

 かといって知恵を絞ったところで理解できないのだから、これはもう諦めるしかないだろう。


「というか、異世界転生――死んでないから転移?まあどっちでもいいけど、喚ばれた先がゲーセンって聞いたことないし。え、もしかしてわたしを喚んだの遊戯の神様とかなの?盤上の世界行くの?」


 喚ばれる前に聴いた声が説明するとか言ってたっけな、と思い出し、とりあえずはその声の主を探すことを目標に据える。


「すいませーん!誰かいませんかー!?」


 その声はゲームセンターの壁に反射して消え、しぃんとした静寂が返ってきた。呼び掛けに応じるのは無し、と判断した鈴音は、自分の足でゲームセンター内を見て回る。


 入口を入ってすぐのクレーンゲーム、二階にはレースゲームやアーケードゲーム、そして再び一階へ降りてパチンコ台の間を探して。そして最後にと、鈴音が最も好きなリズムゲームの筐体が並ぶエリアへと足を踏み入れ――


 そこで。

 今や全国のデパートなんかでも見かける太鼓のリズムゲームの前で、それはそれは見事な土下座を決めている金髪の少女を見つけてしまった。


「はぁ、え……!?」


 よく、ドラマなんかで土下座して許しを乞う人を見て『あんなので許されるわけないじゃん』とか思っていた鈴音だが、実際自分がナマ土下座を見て認識を即座に改めた。


 許すとか許さないの次元じゃない。

 なんていうか、その、『自分ここまでしてるんだから許してくれますよね?』的無言の圧力のなんという強さか。まるでぶ厚い壁のようなものが発せられていた。


(くっ、これがジャパニーズ文化”伝家の宝刀DOGEZA”の真の威力だというの!?日本……おそろしい国ッ!)


 鈴音がなにやら衝撃を受けていると、その声に反応したのか不意に目の前で土下座を決める少女が顔を上げた。


 その少女は宝石のような紫紺の瞳をした、まるで作り物の人形じみた、人外の美しさと可憐を掛け合わせたようだった。つまり、言葉にするならば――


(う、うわぁ〜っ!すっごい美少女!)


 ――である。

 ”二次元ならば男女平等に愛せる”と豪語する鈴音にとっては、まさしく愛でる対象ど真ん中。ストライクゾーンまっしぐらだ。


 二度目の衝撃に鈴音がわなわなしていると、その少女は流れるように自然な動作で頭を下げた。その頭が床にぶつかってゴツンと音を立てるまで、深々と。


「ごめんなさいでしたっ!」


「…………は、はい?」


 二度あることは三度ある。

 そんな慣用句を意外なところで身をもって体験した鈴音は、三度目の衝撃に襲われていた。


「あ、あのー?頭を上げt」


「そう?じゃあお言葉に甘えて」


「いや早いっ!もう少し一悶着くらいあるかと思ったらまさかの速攻!」

 

 別に鈴音としても一悶着あった方が良いはずはない――ないのだが、言葉を言い切る前に上げられると、なんだか形だけの謝罪をされていた風にも感じてしまうのも事実なのだ。


 なんだか釈然としないモヤモヤとしたものを抱えて身悶える鈴音とは対象的に、あっけからんとした調子で金髪の少女は口を開いた。


「えーと、まずは自己紹介しとくな。オレはネルタス、職業は”世界の観測者”。まあ要するに、異世界の神様みたいなもんだ」


「むぅ、まさかのオレっ娘神様とは。嫌いじゃないわ!」


「ああ、なんか”ふたりでひとり”の探偵が主人公やってる特撮ヒーローの劇場版で、そんな台詞言ってた黄色い怪人いたよな」


「……このネタ、通じるんですね」


 どうやら異世界の神様は、地球の、それも日本のサブカルチャーに精通しているらしかった。それを踏まえれば、ここがゲームセンターだということにも納得がいく。さすがに、奇妙な違和感は拭えないが。


「えと、いくつか訊きたいんですけど」


「ああいいぜ。なんでも答えてやるよ」


 だぼっとしたパーカーにジーパンという室内で着るようなラフな格好をしたネルタスは、ポンポンと膝を払って立ち上がりながらそう言う。


 その言葉に鈴音はしばし考え込み、そしてその灰色かは分からない脳細胞が弾き出した答えを、至極真面目くさった表情で一字一句違えずに問いかけた。


「……じゃあ、スリーサイズは?」


「上から92・63・89だな」


「言うんだ!」


「だから何でも答えるって言ってんじゃん」


 『冗談のつもりだった、反省はしているが後悔はしていない』と、そんなお決まりの文言が脳内を駆け巡る。


 たとえるなら試しにジャブを放ったらストレートが飛んできたような、虚をつかれた感じだ。ただし、そのジャブはかなり本気の質問だった。美少女のスリーサイズ、気になるじゃん?と心中で言い訳も付け加えておく。


(くっくっく……チャンスさえあれば存分に愛でてあげるわ!なんならもう脳内でひん剥いてやりますかねぇ神様を!見える、見えますよォ、あのスリーサイズを元にした艶姿が!嗚呼、燃えて萌えるっ!ほれほれ、可愛がってあげるからねぇ子猫ちゃん!)


 うへへへへ、と学生服を身にまとった少女の口から不気味な笑いが漏れる。


 もはや思春期男子を通り越して犯罪者の域に到達しつつある鈴音の心中を知る由もなく、ネルタスは神妙な面持ちで言葉を選ぶように躊躇う動作を見せて、


「とにかく、オレの本意じゃなかったとはいえ、仮にもこっち側に巻き込んじまったんだ。それなりの説明は必要だよな」


 と前置きをして、本題を切り出した。

 その口から語られるのは、世界の真理。未だかつて誰も到達したことの無い高みの事実が、今ここに開陳される――


「うへへへへ、ほぉら恥ずかしがり屋の子猫ちゃんめ。もう逃げられないぞぉ、大人しくわたしに愛でられるのだぁ……!」


「おい、聞けよ。さっきから妄想だだ漏れじゃねぇか。……ったく、そんなにオレが気に入ったんなら後でいつでもどこでも相手してやるから、まずは話を聞け、な?」


「…………はぇっ?相手?」


 ――開陳される、はずだ。

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