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駅まで蘭ちゃんと歩く。 「しかし只野さんも、すげぇもの作るよな!」

 駅まで蘭ちゃんと歩く。

「しかし只野さんも、すげぇもの作るよな!」

「彩音ちゃんは?」

「あぁ、ライブ。すぐそこのAREA。またビジュアル系」

「好きだねぇ!」

「同じアルバムあちこちの店で買わされて5枚おんなじのあるよ、プレゼント応募券ゲットするっつって!」

「ぶっ! 嵌ってるね!」

「あいつにに何とか言ってくれよ、蘭ちゃん」

電話が鳴った。

「ほら! 彩音ちゃんじゃない! 夫婦の事は、あいだ入んない方が無難だからね。じゃっまたね」

スマホの画面に番号が表示されている、誰だろうか? 緑色の受話器ボタンを押して耳にあてがう。

「はい、もしもし」

「堂島だぁ」

「あっ! 先輩さっきはどうも!」

知らない番号にうっかり出てしまった事を後悔する。

「知り合いのおっパブが女の子欲しいんだ。誰かいないか?」

耳から一メートル離しても聞こえるような、デカい声だ。

「ちょうどいい感じの娘がいるんですよ! 聞いてみます」

「そりゃ良かった。頼むぜ!」

「折り返しますんで、一旦切りますね」

ちょうどいい子なんて今すぐ思いつかないが、いないと言った所で、探せと怒鳴られるだけだ。適当に言っておけばいい。

 蘭ちゃんは、彩音の友達で看護学校に通ってる。学費稼ぎの為にきわどい水着の撮影会モデルをしたりDVDモデルをしている。

金が必要なだけで、芸能には全く興味がない。割り切っているからアイドルかぶれした乙女より、よっぽど扱いやすい。

だが彼氏もいるし、おさわり系はまずやるはずない。彩音も蘭ちゃんぐらいしっかり者なら、おれももう少し楽に暮らせるのに。

 おっパブには手っ取り早く彩音でも連れていくか。愛想はないが身体は平均点以上だろう。ただしリスカが問題だ。まぁおっパブなら暗いし平気だろう。

すぐに堂島に電話する。

「澤村です。業界未経験の初心な女がいるんで、連れて行きますょ」

「おぅそうか! 助かる助かる。ダテに歌舞伎町うろついてる訳じゃぁねぇな」

「いえいえ! ありがとうございます」

「今夜いけるか? 池袋の店だ」

「これからっすか? いえ! はい! 任せてください」

「店には俺から連絡いれとく、西口のロサの近くで『プリキュア』って店な。1階がファミマのビルの5階だ」

「わかりました。ありがとうござぃ」

途中で電話が切れた。おれは長い溜息をひとつついた。

 駅前のロータリーでW大学の学生達が賑やかに騒いでいるのを横目に、雑踏のなか緩い坂道を上がり彩音のいるライブ会場に戻る。


 まだライブはお開きになっていないらしい。ガードレールに凭れて、ぼんやりと道行く学生達を見た。

 若い時分、サラリーマンは性に合わないおれは、起業してツライながらも忙しい充実した毎日をおくるんだなんて考えてた。

現実は家賃も払えず、明日の食事にも汲々とするざまだ。

昔の偉い人が確かこう書いてた『四十にして惑わず』これって諦めがつくって意味だろう・・・・・・。

 こんなに待たされるなら只野のスタジオに飲みかけの缶ビールを置いてくるんじゃなかった。生ぬるくても酒は酒だ。そんな馬鹿げた事を考えていたら彩音が出てきた。

薔薇柄のカーディガン、ピンク色のふりふりミニスカート、黒いガーターベルト、赤毛の混じった金髪、首に巻いたネックチョーカーからは髑髏が十字架を咥えている。

ここ数年で彩音の着る服が様変わりしている。

今日着ている服は先月宅配着払いで届いたもの。

宅配の兄ちゃんの「20480円代引きのお荷物でぇ~す」っていう涼しい声が聞こえて、おれは「頼んだ覚えないから帰ってくれ」と口にだそうとしたのだが、兄ちゃんの突き出した配達伝票に彩音の名前があった。

気絶するかと思った。取り敢えず「そういうものは居りません」と言って追い返した。

翌日また来やがった。当たり前だ。

急にそんな大金が手元にあるはずもなく、宅配の兄ちゃんには金がないからまた明日出直して来てくれと伝えた。

 彩音が言うには、ディアマンテっていう人気のゴスロリブランドで期間限定バーゲンのちょぉー掘り出し物だそうだが。

どう見てもお遊戯会で着る幼稚な仮装衣装にしか、おれには見えなかった。

「楽しかったか?」

「うん」

「そっか、良かったなぁ」

おれの腕に彩音が絡みつく。

「じゃ帰るとするか!」

一緒に歩きだすと、すれ違う奴らが宇宙人を見るような目で見る。

帰るといっても家があるわけでなし、手頃な満喫に落ち着くだけだ。

「彩音! 腹減ってるだろ。なんか喰うか?」

「それほどでもないけど・・・・・・」

「蘭ちゃんの上がりあるしな! 喰おうぜ」

「どっちでもいいよ」

おれ達はちょい飲み酒場に並んで座った。

食い物を簡単に注文して、さっそくおれは口説きにかかる。

「彩音! バイトしないか?」

「なんの?」

「飲み屋だけど、しゃべる必要ないし暗いから愛想笑いもいらない。時給五千円! いいだろ!」

「怪しいキャバクラ?」

「セクキャバ! セクキャバ! 一緒に酒のんで、ちょっと触らせてやりゃいいんだよ。二時間で二万だぜ! ヘンテコな洋服もう一着買えるじゃん」

「ヘンテコじゃないよ! やだ! やんない。そもそも澤村さんが働いて私にお金返さなきゃじゃん」

「あぁ・・・・・・そ・そ・そでした」

「でしょ」

雲行きがさっそく妖しい。

「実はな、知り合いに頼まれてて、池袋のおっパブ、女足りないらしいんだ。これから顔出すって言っちゃったから、彩音ちゃん一緒に行ってくんない?」

「なんでよ。澤村さんが勝手に決めた事でしょ」

ダメだこりゃ・・・・・・

「彩音ちゃん、そんな事言わないでさぁ」

「無理です。おっパブって、おっぱい丸出しで揉み揉みでしょ! バツです」

箸でばってんを作る。

「服は着たままで大丈夫のとこだから・・・・・・」

「や~だ」

彩音は目玉焼きをつつきながら言う。

「じゃぁ仕方ない。究極の作戦でいきますか?」

「何が作戦よ。行かないものは行かないわ」

「取りあえず面接だけでも行くぞ!」

「それじゃお金貰えないじゃん・・・・・・」

彩音は黄身だけ丸く取り除くと、小皿に取り分けておれの前に置いた。彩音は白身しか喰わない。

「仕方ねぇだろ。あいだに入ってる知り合いは世話になった奴だから、顔繋いどきたいんだよ」

おれは究極の作戦を彩音に耳打ちした。

次回のジュライのライブを一緒に付き合い、物販で売られているボーカルのイニシャル付リングをプレゼントするという交換条件で落着した。

彩音は偏食だ。その後おれは彩音に3つ丸い黄身を喰わされた。

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