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Carry around Warriors  作者: あるす
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みにぶたとようせい!



 そこに居たのは一匹のピグピグであった。


 眼光は鋭くその片目はには大きな傷痕が走っている。

 足は短く胴は長い。

 ピンク色の体毛に体の中心にはハートマーク。

 ピンクピグピグのラヴであった。

 その瞳が家の前の畑へと注がれていた。


 そこは何もなく、ただ整備されているだけの畑。

 何もない。

 しかし神は言った。


 農作業をせよ、と



 ラヴはピグピグという種族である。

 その中でもドルイドにあたるピンクピグピグという種族。

 ピグピグは争いを好まずのんびりとした種族ではあるが、お肉が美味しいということもあり外敵は多い。

 その為、少数しかいないが外敵から部族を守る戦士は恐ろしく強い。

 ドルイドという職業であるがもちろん前線に出る。

 そのうえで幾度の戦場で生き残り長き時を生きる戦士がラヴであった。


 

 畑を睥睨するミニブタ。

 何もかも足りない畑をどうするか思案する。

 そう、まずは植える種から準備せねばならないだろう。


 幸いなことに神からは特にどの様にせよという注文はない。

 であるのならここにピグピグの楽園を築くのも良いのかもしれない。

 ラヴはそう考え、家の裏の山へと入っていくのであった。


  ■  ■  ■



 拠点となる家の裏手には少し離れたところから木々が生い茂り山林が形成されている。

 木々一本一本の背が高く、そのため木と木の間隔も広い。

 時折降り注ぐ日の光の中ラヴは歩く。


 そんなラヴを見ている魔物がいた。

 

 太い木の裏に音もなく張り付くのは周りの色と同化した体長4mはありそうな大きな蜥蜴。

 そのぎょろっとした瞳がピンク色のピグピグを見つめる。

 そっと音もなく蜥蜴は移動をすると、歩くラヴの上へとたどり着く。

 完全に死角をとった蜥蜴は飛びかかった。

 鋭い爪で切り裂こうと思った時、急に蜥蜴の方向を向いたラヴと目が合う。

 しかし今更認識されたところでどうなるというのか。

 蜥蜴は必勝を確信した。


〈 天上の息吹・ビルドアップ 〉

〈 暴虐の牙・ファングファング 〉


 ラヴの体から蜃気楼が立ち上がり、あるかどうかわからないほどのサイズであった牙が鋭く伸びる。

 蜥蜴の爪はその牙に体ごと弾かれた。


 弾かれた蜥蜴はまた木の幹へと張り付いて先ほどのピグピグへと視線を向ける。

 そこには今まさに怒り狂って突っ込んでくるピンク色の豚の姿があった。

 逃げるのも間に合わず、ラヴの突進によって木の幹へと挟まれる。


 どれ程の衝撃なのか、メキメキと音を立てて木が圧し折れる。

 間に挟まれた蜥蜴はその身が引きちぎれ短い断末魔を残して粒子となって消えた。


「ふん、やりすぎたか 」


 息を吐いて気を静め魔法を解除する。


「ここは良い。魔素も濃く木々も高い 」

 

 そう呟いて更に森の奥へと歩いて行った。


 地鳴りと木が倒れる音が定期的に森の中を木霊する。



  ■  ■  ■



 アインとニルナを見送った俺は一息つき何気なく窓の外を見た。

 

 そこには背中に苗木や草を生やしたピンク色の豚がいた。


 ああ、そういえば農作業をしろといったような気がしないでもない。

 明らかに怪しい豚をなんとなく眺める。


 どうやら背中の植物を植えているようであった。

 苗木を畑の外側に3つほど植え、その周りに無造作に草を散りばめていく。

 終わったかと思うと少し離れて鼻を地面につけて何かぴぐぴぐ言っているようである。

 終わったのか、頭を上げたときにそれは起こった。


 苗木が爆発的に伸びていく。

 まるで早送りにされているかのごとく新芽が育ち幹が太くなる。

 瑞々しい葉は見るからに力強く美味しそう。

 その周りに散りばめられていた草も木々の周りを隙間なく覆い尽くし青々しい絨毯を形成している。

 その姿に満足したのか草の上に寝転ぶとあくびをして寝転がった。

 どうやら休憩らしい。


 ………。

 何をしているんだろうあの豚は。

 家の前にあった左右の畑。

 その右半分の奥側が怪しい樹木と下草に占拠されてしまっている。

 畑の中は相変わらず手つかずで閑散としている。

 

 思っていたのと違うんだが。

 もっとこう、麦畑は言い過ぎかもしれないが野菜畑みたいなのを想像していた。

 しかしながら豚の形成した木々は果樹園的な存在に見える。

 普通に青い梅の実のような果実がついている。


 ふと手持ちのしもべの欄を見ると何故かラヴのレベルが上昇している。

 23レベル。

 能力値も上昇しており中々強い。

 しかし見た目がラブリーすぎて何とも言えない。

 ついでにいつの間にか自分のレベルも上がっていた。

 恐らくは総経験値量で上がるのだろう。

 今度はゲームシステム的に必要となると思われる召喚数を上げておく。

 アバターがついていくことはあんまりないだろう。

 

 

 まあ、放っておこう。

 なんというかペット枠なのだろう。

 そう結論を出す。


 それよりもだ。

 最近のゲームよろしくログインボーナスがあったらしい。

 毎日無料ガチャ券を一枚支給。

 初期の召喚可能数が3でボーナスで3増えて現在6体まで召喚できる。

 現在の召喚数が3なのでまだまだ可能である。

 今日のログインボーナスを受け取り早速ガチャをする。

 毎日ガチャができるとか神運営じゃないか。


《 別次元に祝福されたミニマムな焔魔女 ガルメム 》

 

 目の前の空間が燃え始め、焔が液体のように人の形をとる。

 そこには赤いドレスを着た少女がふよふよと浮かんでいた。

 足先よりも長いドレスの裾がひらひらとはためく。

 くるくるとした赤いボブカットに白い肌。

 黒っぽい瞳に吊り上がった眉尻。

 ただしそのサイズは15センチほど。

 ドレスも相まって妖精のようである。羽とかは特にないが。

 両手を腰に当てこちらを値踏みしているのかジト目で睨んでくる。


「うー。あなたが神様で私を呼んだのは分かってるけど、まだまだね。私に言うことを聞かせられるとは思わないでちょうだい!でも、しょうがないから気が向いたら手伝ってあげるんだから。感謝してよね!」

〈 う、うむ 〉

「私は私で勝手にさせてもらうわ!あら、プリュムの樹があるじゃない!しょうがないからこの場所ぐらいは守ってあげるわ。じゃあね!」

〈 ぅぉーぃ 〉


 あっという間に新しく生えた樹へと飛んでいった。

 文字通り空を飛んで窓から出ていった。


 それを横目に見ながら思う。

 またしてもマスコット枠っぽい妖精が来てしまった。

 もうガチャ券もないしどうするべきか。

 

 さすがに疲れたのでちょっと一服しようと思い一旦ログアウトする。

 

 ふーっと息を吐く。

 中々に面白いと言わざるを得ない。

 今のところキャラの死亡がないから良いが死んでしまうとログインボーナスが待てずに課金してしまってもおかしくない。

 どうにかしてガチャできないものか。

 

 あっ!


 アポカリプスモードがあるじゃないか!

 確か前の時は連続勝利数が5ごとにボーナスがもらえていた。

 ということはもうちょっと倒せばもう一回ぐらいいけるのではないだろうか。

 

 ログインしてアポカリプスモードを選ぶ。

 残念ながらニルナとアインは現在ミッション中で灰色になっており選べない。

 選べるのはラヴとガルメムの2体である。

 とりあえずステータスを見てみる。

 ラヴはそこそこ強そう。

 見た目は完ぺきに愛玩動物だがステータスだけは高い。

 ガルメムは、なんだこれ。

 魔法系技能がレベル1なのに高すぎるんだが。圧倒的すぎる。

 これならいけるのか?

 レベル1はさすがにきついと思うが。

 でも魔法系の数値は本当に天元突破しているとしか思えない。

 

 敵を知り味方を知ればなんとやら。

 よし、怖いからまずは偵察に行こう!


  ■  ■  ■



 俺は今、駅前の休憩スペースを見れる位置に居る。

 正確にいえば駅の二階を出た歩道から休憩スペースを見ている。

 アポカリプスモードを付けた状態でしもべを連れ歩くのはリスクが高いと判断した俺はアポカリプスモードの一つの機能を使ってみることにしたのだ。


 観戦モード


 しもべは出さないが、カメラでほかの人の戦いを見ることができるモードである。

 これで周りのレベルを見てからにしようと思ったのだ。 


 おもむろにスマホを取り出すとアポカリプスモードを観戦モードにする。

 するとスマホの画面に休憩スペースが写し出される。

 そこはまるで円形の闘技場のようになっており、戦うには絶好の場所のようであった。

 今も2体の戦士が構えあっている。

 

 スマホ画面上に表示される名前は右が

〈 上等な筋肉の勇士 ギャレル 〉

 左に表示されているのが

〈 素早い鎧甲冑蟲人 ウルルムー 〉

 

 右の勇士ギャレルは、目元から口元にかけて開いた兜にブレストプレート、恐らくは鋼と思われる剣と盾で身を守る戦士。レベルは28。

 見るからに強そう。

 左の鎧甲冑蟲人ウルルムーは、全身鎧と見間違う外骨格を着こんで長大な両手剣を持つスマートな感じのする重戦士。

 こちらも強そう。レベルは31。


 うん、うちのガルメムじゃ勝てないだろ。

 ピンクの豚なんてもってのほかだし。

 さーて、ニルナとアインの帰りでも待つかな。

 でもこの2体の戦いは普通に見てから帰ろう。

 そんなことを思っていた俺のスマホ画面に少女の背中がうつる。


 あれ、これってさっきガチャででたガルメムじゃね?

 呼び出した覚えがないんだが。

 そう思っているとガルメムが振り返ってこちらを腕を組みながら見てくる。


「外に行くんだったら呼びなさいよ!このガルメム様があんたのことちゃーんと護衛してあげるんだから。感謝しなさいよね!」


 ふふんっと顎を上げて上機嫌になる。

 そのまま後ろを振り向くと、ドレスの裾をはためかせて今まさに戦闘を始めようとしている2体のほうへと飛んでいく。

 そのまま2体の前に出ると大きな声を上げた。


「私は焔魔女のガルメム様よ!有象無象の雑魚たちはまとめてかかってくるといいわ!」


 ばばーんといった感じで腕を組んで口上を述べる。

 だが待ってほしい。

 ガルメムのレベルは1である。

 それを確認したのだろうか、ガルメムを警戒していた2体が興味をなくしたのかのように互いを警戒しだす。

 恐らくはコマンドモードで指示を出しているのであろう。

 まあ当然の判断であろう。


「ちょ、ちょっとなによ!なんで無視するのよ!あんたたち雑魚のぶんざいでそんな態度をとって許されると思ってんの!?こっち向きなさいよ!もーぉあったまきたー!」


〈 火柱・フレイムピラー 〉


 2体のちょうど真ん中に直径1mほどの火柱が立ち上がる。

 

「みたかしらっ!?かかってこないんだったらあんたたちみんなこうするんだからねっ!」


 火柱が上がったことで警戒したのか2体の戦士も距離をとる。

 まずは乱入者を倒すことに決めたのか、何やらブロックサインを送りあっている。

 なんだろうあれ、何か見たことがある。

 そう、掌を垂直にくっつけてTの字を作るポーズ。


 つまり、タイムだ!

 

 そんな密かな発見をしているうちに周りは動いていた。

 ぞろぞろと構えた2体の後ろから色々な種類の戦士が現れる。

 多分俺と同じく観戦モードで見ていた人たちなのだろう。

 2体の決闘を邪魔したガルメムを排除するためなのか2体を守るかのような布陣である。


 そりゃそうだよな。

 普通に考えたら横殴りはマナー違反だろう。

 そう考えたら最初の時もオートモードにしていたから………

 考えるのはよそう。


「あらあらたくさん出てきたじゃない。どんなに雑魚が集まろうとこのガルメム様には手も足も出ないのに!」


 現れた敵はもう10体を超えている。

 どうするんだろうこれ。

 そう思っていたら敵の後ろから矢が飛んできた。

 それがガルメムを完全に捉えて真ん中から切り裂く。


 えっ、やられたんだけど!


 茫然とする俺の前で矢に撃たれたはずのガルメムが燃え上がり元の姿に戻る。


「ちょーーーっとちょっと!いきなり撃ってくるなんてどういうことよー!びっくりするじゃない!何考えてるのよもう!」


 恐らく矢を撃った敵がいたところであろう場所から火柱が上がる。

 ついでにガルメムのレベルが一気に4まで上がる。

 どういうことも何もむしろなんで生きているんだ。

 

「あんたたち、ぜーいん逃がさないんだからねっ 」


 よし、考えるのはよそう。

 そっとスマホを閉じる。

 俺はもう無関係を装って帰路につくことに決めたのであった。




  ■  ■  ■



「ちょっともう、急にいなくならないでよ!全部倒せなかったじゃない。でもまあ、楽しかったから次はちゃんと呼びなさいよね。じゃあね!」


 家に帰ると勝手にアポカリプスモードは終わっていた。

 戦果報告が沢山聞こえてきたがそれでも全部を倒したわけじゃなかったようだ。

 思い付きでガチャ一回分ぐらいできないかなと軽い気持ちでアポカリプスモードを起動したのが悪かったのか。

 そんなことを思いながらもう一度アプリを開く。


【20連続キルボーナス】無料ガチャ券×1

【25連続キルボーナス】召喚数+1

称号【英雄・サウザンドキラー】を手に入れました。

【30連続キルボーナス】無料ガチャ券×1


 案の定キルボーナスをゲットしていた。

 俺の予定では後1体か2体倒せばゲットできる20体連続キルボーナスでガチャ券をあわよくば手に入れよう程度の考えだったのに。

 つまりはこれはあれだろう。

 アバターのレベルが足りないためプレイヤーのいうことを聞かない、というやつなのだろう。

 勝手に出てくるし。

 


 うん、考えないようにしよう。


 よし、ささっと飯を食べてログインしよう!



 ■  ■  ■



次の更新は週末になります。多分。

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