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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小さな嘘

作者: 雪見団子

残酷描写があるため苦手な人は«僕»視点に入る前までで読むのをやめてください。

3行空いている所から«僕»の視点です。


2018/4/9に編集しました。(内容に変更はありません)

 私は小さな嘘をついた。


 「ドナーの候補者が見つかりました」


 確かにドナーは見つかった。しかし、そのドナーはこの子では無く同じ病気を患ったある大臣の息子にまわされる様に圧力がかけられていた。

 日に日に衰弱し、元気がなくなっていく彼女を見ていられなかった。

 仕方がなかったんだ。

 とうとうそのドナーは大臣の息子に臓器を提供してしまった。

 手術は無事に成功した。

 とても喜ばしいことだ。

 彼女のドナーを横取りしていなければの話だが。


 私は医者である。


 数日後、奇跡的にドナーが見つかり彼女は手術を受け無事成功した。

 嘘は本当になった。


 彼女は退院の日に自殺した。




 そして、数カ月が経ち病気がもうほとんど治った大臣の息子は新人の看護師達の話を偶然聞いてしまい真実を知ってしまった。


 「実はね、息子さんのドナーになってくれた人ってお父様が息子さんに優先するようにしてくれたんだって」

 「へー、優しいお父さんなのね」

 「でもね、実ははね…」

 「えっ、他の人のドナーを圧力かけて息子さんの方にまわさせたの!?」

 「しっ!声が大きいわよ、誰かに聞かれたらどうするのよ…」


 真実を知った少年はショックを受けた。

 しかし、その患者さんはまだ生きているだろうと信じて自分の病室へとふらつく足で戻って行った。

 僕のせいでその人が死んでしまったらどうしよう…。そんな不安を胸にゆっくりと歩いていたその時、突然目の前の病室から悲鳴が聞こえた。

 僕は突然の出来事に不安な気持ちは吹き飛ばされ、声が聞こえた病室へ入った。

 するとそこには果物ナイフで自分の内蔵を取り出し血にまみれた女の子がいた。

 いや、女の子の死体がそこにあった。

 女の子は人ではなくもの言わぬただの肉塊としてベッドの上に座っていた。

 僕は立っていられなくなり、座り込んだ。そしてそのまま胃の中のものを床にぶちまけた。喉から鼻にかけて突き抜けるツンとした酸のにおいに混じって部屋中を満たしていた鉄臭いにおいが鼻をくすぐる。

 僕は堪えきれずに胃の中に残っていたものを全て吐き出した。

 看護師さんが僕を部屋から連れ出し吐瀉物に汚れた服や体を綺麗にしてくれもどこかにツンとしたにおいと鉄のにおいが感じられた。


 後から話を聞くと自殺していた女の子が僕のせいでドナー提供を受けれなかった子だと聞いた。

 僕は、女の子がもう長く生きれないから病気になった自分の内蔵を抉りとって自殺したのかと思った。

 しかしそうではなかったらしい。

 彼女は手術を受け無事に成功したのだと言う。それどころか、僕より遅く手術を受けたのにとても順調に快復し、あの日退院する予定だったという話だ。

 それなのになぜ、彼女は自殺したのか。

 僕は父の権威をかさに病院のいろんな人から話を聞いた。

 すると、彼女のドナーとなったのはこの病院の医者だということが分かった。

 しかしその医者はもう既に死んでいた。若い男で礼儀正しく誰にでも優しい先生だったとみんなが口を揃えて言った。

 そんな彼の死因は自殺だった。

 自宅で首を吊っていたそうだ。足元にはドナーカードが落ちていたと言う。

 この時僕は真実を知ってしまった。

 彼は彼女の為に自殺したのだ。


 そう、自分の臓器を提供するために。


 どうして彼が女の子をそこまでして生かそうとしたのかは分からない。もしかしたら女の子に恋をしていたのかもしれない。

 本当の理由は本人にしかわからない。

 彼の犠牲のおかげで女の子は無事に手術を受け、成功した。彼の願いはかなったのだ。

 しかし、ここでこの物語りは終わらなかった。

 順調に回復していった女の子はとうとう退院することになった。それなのに手術の後から1度もあの優しい担当医をしてくれた先生と会えなかった。

 女の子はその医師に感謝の気持ちを伝えたかったのだ。

 不思議に思った彼女は朝食を持ってきた看護師にそれとなく聞いてみた。

 すると、看護師から彼は死んだ。自殺したんだ。と聞かされた。

 女の子はショックを受けた。

 そして、女の子は、絶望した。せっかく運んできてくれた食事も喉を通らずほとんど残した。

 優しかった彼がもういない。絶対に元気にしてくれると約束した彼は、もうこの世にいないのだ。元気になったら一緒に買い物に言ってくれると言っていたのに。

 そして、女の子は生きることをやめようと決心した。

 女の子はお見舞いの果物のそばに置かれていたナイフに手を伸ばした。

 そして、自分の腹を切り裂き手術で提供してもらった臓器を自らの手で取り出した。

 当然血はたくさん出た。とても痛かった。でも、彼が治してくれると約束していた場所に違う人が入れた内蔵などいらないと思ったのだ。死んでも大丈夫。天国で、今度こそ彼に、手術をしてもらえるとそう信じていたから。

 こうして彼女は大切な彼の元へと旅立った。生きてほしいと願って提供された優しい医者の内蔵を握って。

 小さな嘘から始まったこの出来事はどこかですれ違い悲劇となってしまった。

 どんなに小さくても、どんなに優しくても嘘は嘘。許されないということなのだろうか。

 

 僕は明日、父の不正を世に示す。

 僕は彼女達の分まで生きると誓った。もうこんな思いをする人がいてはいけない、そう強く思った。

 僕に出来ることを精一杯してみせる。

 例えそれが僕のエゴだとしても。

ご愛読ありがとうございました。

正直言うと自分はバッドエンドとか好きじゃないんです。

みんな笑顔で終われる話が好きです。

Twitterやってます。ほとんどくだらない日常のことしか呟きませんがもし良ければフォローしてください。


« @ sousaku_dango»

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― 新着の感想 ―
[一言] ワンアイデアで短くまとまった良短編。 誰が悪いわけでもないのにこのようなことになってしまう、というボタンの掛け違いが凝縮されていて、痛みが読後に残る感じが素晴らしいと思います。 気になること…
[良い点] すれ違い系のストーリーは好物です。 [気になる点] 視点が切り替わるときに何かしら区切り(改行二個など)を入れたらもっと読みやすいかもしれません。最初に読んだとき少し混乱したので。
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