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きみのねむるまち(プロット)  作者: 大枝 岳
高校編
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 岳はその夜、良和の意外な程の逞しさに感心していた。


「今夜はガソリンスタンドの空き地にテント張らせてもらってるんよ。これから西に向かおうと思ってる」

「へぇ。凄いな。どこまで行くつもりなん?」

「金が続く限り。ヒッチハイクでも何でも方法あるからさ」

「えー。ずるいな。俺もやりてぇな。ロードムービーみたいじゃん」


 高校を辞めた良和はヒッチハイクの旅を始めていた。

 一人で誰にも邪魔される事無く行ける所まで行くという行動力に岳は憧れを抱いた。


「俺、変わりたいん。実は自分に自信が持てないんよ。それが良く分かった」

「だから行動するんか。それは凄いよ。俺なんかずっと埼玉に引きこもってるからな。あ、この前長野行ったんだ。景色凄かったよ」

「おぉ、長野か。そっち方面も良いかも」

「だって何処に行こうが自由だもんな」

「そうなんだよ」


 そう言って良和は笑った。校則の厳しい学校へ通っていた時よりも幾分声に元気があるように思えた。

 何よりも無計画な旅を思いつきでしてしまう良和の行動力に岳は良和らしさを感じ、良和と話す事に久しぶりに安堵を覚えていた。


 翌日、岳は純を誘って高校の合宿所に来ていた。

 ドラムを叩く岳の横で、純が慣れない手付きでエフェクターを操作している。


「がっちゃん!この「フランゲー」って何?」

「フランジャーだよ!ジェット機みたいな音になるヤツだよ」

「おぉ、なるほど。あ、マジだ。これ好きだなぁ」

「そういえば昨日ヨッシーから電話あったよ。アイツ全国をヒッチハイクして回ってるんだって」

「マジで!それは凄いな。ヨッシーらしいっちゃらしいね。そのうち仙人とか目指しそうだし」

「それは言えてるわ。エロ仙人」

「それ亀仙人じゃないんかい。ははは。あ、電話かな」


 そう言うと純は買ったばかりの携帯電話を手にし、廊下へ出て行った。

 岳がドラムを叩いていると純が浮かない表情をしながら戻って来た。


「どうしたん?」

「いやぁ……。あのさ……。帰らなきゃいけないっぽいんだけど」

「さっきの電話、親?」

「いや、佑太」

「どういう事?」

「セーブオンの裏の空き地にすぐに来いってさ」

「何それ。野球でもすんのかよ。放っとけば?」

「そうね。良い話じゃなさそうだし」


 昼時を過ぎたので鍵を返し、学校を出て男衾へ帰る途中のセブンイレブンで立ち読みをしていると、純の携帯の着信音が鳴る。今度はメールのようだった。


 純が無言で岳に携帯の画面を差し出した。画面を覗くと佑太からのメールのようだった。


「早くこい!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ビックリマークがこれでもかと並んだメールだった。


「行った方がいいんかな?」

「何なの、このメール」


 と言ってる内にまた同じ内容のメールが送られて来る。


「呪いのメールかよ」

「はぁ……。まぁ……面倒臭いから行って来るよ」

「セーブオンまでついて行くよ。ヤンマガまだ読んでる途中だし。続きみたいから」

「サンクス。じゃあ行こうかい。あー、面倒くせぇな」


 純は苛立ちを隠さないまま岳と男衾のセーブオンへ向かう。


「俺ここで待ってるからさ」

「うん。とりあえず行ってくるわ。何なんだろ、マジで」

「さぁ……。何考えてんだかな」


 純は苛立ちを感じながらセーブオン横の小道を下る。ほどなくすると左手に空き地が見える。

 腕組をしたままの佑太の他、そこには数名が待ち受けていた。


「おせぇぞ。純」

「何だい?」

「おまえが純?」

「あぁ、はい」


 純の名前を呼ぶ年上と思われる涼しげでどこか鋭い目つきの男には見覚えがあった。素行が悪く、不良の代表格として有名な水木と言う先輩だった。


「おまえさ、最近バイク乗ってんだろ?」

「まぁ、あぁ。はい。乗ってます」

「おまえがコール切った所な、ヤクザの先輩の家の近くなんだわ。俺、そいつ探して連れて来いって言われてんだよ」

「え……」


 あの日、コールを切ったのは間違いなく純ではなく佑太だった。純は思わず固まり、佑太を眺める。

 佑太は怒りの表情を浮かべながら純を睨んでいる。


「佑太、ちょっと……」

「あ?バイク乗ってんの純だよな?」

「そうだけど……」

「ていうかさ、俺が呼んでんのに遅れて来るってどういう事なん?何か言う事あんべ?」

「え?何なんさ。用事があったから遅れて来ただけだけど……」

「佑太。いいよ。別にこの件で俺が怒ってる訳じゃねーんだし。そういうのはおまえら二人だけでやってくれ」

「すいませんっす。こいつ、いつも優柔不断なんで……」

「てめ……」


 純は歯の隙間から溜息を漏らす。腹立たしくて仕方が無かった。

 先輩は涼しげな眼を上に向けると、しばらくそのままの状態で居た。

 何か思いついたように顔を下げると諭すような口調で純に語り掛けた。


「おまえな、上にはシメたとか何とか上手く言っておくから、しばらくバイク乗るな。シートが家にあれば覆っとけ。いいな?」

「え……あの、はい」

「別におまえ、いきがってる風には見えないしよ。ハンパくれてる奴だったらボコッて事務所連れて行こうと思ったけどさ。要領良さそうな顔してるし」

「おい、純。水木さんがこう言ってくれてんだ。意味分かってんだろうな?」

「待て。佑太は俺の言った意味分かってる?」

「きちんと礼儀叩き込んで、頭下げて歩けって事っすよね」


 佑太は真剣な表情で答えたが水木は呆れたような表情で言う。


「俺達はヤクザじゃねーんだから。純の事は俺あんまり知らないけど、同じ男衾の後輩だからさ。そういう事だよ」

「すいませんっす」

「純は多分、これからも俺とは関わらないだろうけどさ。面倒は無いほうが良いだろ。な?」

「あぁ、はい」

「上手くやっとくからしばらくは大人しくしててくれよ。もういいよ」

「はい。失礼します」

「おい!分かったか?純」

「分かってるよ!」


 純は佑太への怒りを隠さずに踵を返す。

 まんまと佑太に濡衣を着せられ、身体の底から溢れ出る怒りに震え出しそうになる。

 セーブオンに入ると岳は呑気にヤンマガを座り読みしている。

 無関係だが、八つ当たりに一瞬殴ろうかと拳を握るがすぐに解いた。


「おぉ。純君。何だった?野球にしちゃ早いね」

「一回表のコールドゲームかな。佑太にハメられたわ」

「どういう事?」


 純は先程の経緯を岳に伝えた。岳は絶句していたが佑太の行動に理解はしなかったが妙に納得出来る部分もあった。


「先輩の前だったからカッコつけたかったんだろな」

「そうだと思うけどさ、何か嫌な所見た気がするわ。マジムカくわ」

「全くふざけてんな」


 そう言いながら岳が無言でヤンマガのグラビアページを純に差し出す。純が思わず笑う。


「本当、ふざけた身体してるわ」

「これだけ胸デカイと怖いよな。レーザーディスクみてぇ」

「ははは!それは気持ち悪いわ」

「しっかしさぁ、コールくれぇでヤクザがガタガタ言うなよなぁ。ドラマーなんか住んでたらソッコーぶっ殺されちまうよ」

「言えてるわ。あー、地元も面倒臭いもんだね。ヨッシーが羨ましいや」

「俺らもする?ヒッチハイク」

「学校始まっちゃうんじゃん?今は男衾居るより学校居た方がいいわ」

「とんだ夏休みになっちまったね」

「全く……。バイクどうすっかな……。あー!むしゃくしゃする!」


 高校に入り、それぞれの視野が広がった分、面倒も増えるのだという事を純は実感していた。

 昔のままの佑太とは違う、狡賢い面を見てしまった事も、少なからずショックだった。


 夏休みが終わり、それからの日々は何事もなく過ぎて行った。

 純はバイクを水木に言われた通り、シートを覆い駐車場の隅に隠した。

 良和は鳥取からの連絡の後、脇をムカデに刺されてヒッチハイクを断念していた。

 佑太は高校を辞めるかもしれないと漏らしていた。


 文化祭の季節になり、バンドでの発表が特に無かった岳は初めての文化祭のステージで有志で歌を歌う事になっていた。


 そして、高校に入って初めて「恋」と呼べる経験をする。

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