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きみのねむるまち(プロット)  作者: 大枝 岳
終章〜きみのねむるまち〜
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恩義

お調子者として時に厄介がられる佑太は常に集まりには顔を出していた。良和との過去があったのにも関わらず、自分を迎え入れた彼らに恩義を感じながら佑太は佑太の役割を演じ続けていた。

 桜の木々も葉桜に変わった頃、一台のマーチが山道を疾走していた。新しく入った学校へ向かう為、良和は毎日長い時間を掛けて飯能まで向かっていた。

 校内ではいつも一人で過ごし、学校が終わればすぐに家に帰る生活が続いていた。


「新しい学校入ったけど友達まだ出来ないんよ。暗いから」

「そんな事ないっしょ。自然と出来るんじゃない?俺はもう学校とかゴメンだけど」

「なんかなぁ……慣れないんだよなぁ。人が嫌い!嫌い!嫌い!」

「そんなん言っている割に、のんのんとはよろしくやってんじゃん」

「そりゃヤリたいから!付き合ってる訳じゃねーしさ」


 紀子とは会いたい時に都合が会えば会う、という関係が続いていた。恋人のように振舞う事もあれば、離れた途端に他人になるような事もあった。それは良和に自信をもたらす場合と、そうでない場合の両者を与え続けていた。

 翔はゲームの中での次のショットをどうしようか迷いながら、頭の大きなキャラクターがスイングしたと同時に言った。


「ハッキリした方がいいんじゃねーの?」

「いや、いいんよ。こういう関係の方が楽なん」

「傷付くのが怖い、ってか?」

「まぁ、それもある」


 翔のボールがバンカーにボールが落ちたのを確認すると、純が何処か楽しげに呟いた。


「案外、向こうもそうなんじゃない?」


 良和に同意を求めたがる紀子が目に浮んでいた。


「いや……そりゃないっしょ。俺と違ってイケてるグループの人だぜ?のんのんは色々声が掛かって忙しいんだよ」

「そうかな?分からんもんよ、人間なんてさ」

「そうであっても、俺はアンチェインでいたい。オリバみてぇにステーキをさ、モニュモニュって食う人間でありたい」

「それはちょっと分からんわ」


 佑太が玄関から部屋に入って来るなり、突然大声で叫んだ。


「ちゃーっす!発表しまーす!」


 そこにいた三人が目を向ける。


「俺とミチ!昨日で無事、4ヶ月記念を迎えましたぁ!パチパチパチ!」


 一瞬の静寂の後、翔が佑太から目を離して純に言う。


「純君、そのクラブじゃない方が多分良いと思うで」

「あ、向こうに池あるんか。サンクス」

「おーい!おまえらちっとは反応しろよ!!」

「だって……別に。なぁ?」

「あぁ、まぁ……おめでとう」

「何!?何なんだよ!俺とミチは祝福されないって訳!?」

「4ヶ月とか言われても……出産じゃねーんだから……」

「そうね。まぁよろしくやってよって感じかな」

「ひでぇ!おまえらはひでぇ!」


 良和がソファの横を手で叩きながら笑う。


「佑太、それより「みんゴル」やろうぜ」

「しゃーねー!怒りのスイングかましてやるよ!やるかー!」


 そう叫んだが、純が「これ終わったらね」と淡々と言う。


「こいつをフルスイングしたい!」


 そう言うと佑太は立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。

 常日頃から「お調子者」「スケベ」「野猿」など言われたい放題の佑太ではあったが、集まる時には必ずと言っていい程そこには佑太の姿があった。

 人よりも寂しがりな部分もあり、アパートでは誰よりも率先して新しい仲間を迎え入れる姿勢を見せていた。

 後先をあまり考えない性格が祟り、人から軽く見られてしまう事は全て承知の上だった。

 いつかの良和の、怒りと悲しさに満ちた目が今でも時折頭を掠める。


「俺は……許さないよ」


 長い年月を掛けた良和との諍いの果て、再び仲間として自分を迎え入れた彼らに対して佑太は恩義を感じていた。

 恩返し、と称して岳に女性を宛がおうとして激怒させたり、知り合いの車を純に破格で売りつけようとしてうんざりさせる事なども多々あった。

 一度だけ、純が佑太の事を「テレビのような人」だと例えた。時折やかましく感じる事もあるが、同時に新しい情報や遊びも提供してくれる存在だと。

 その例え話の通り、佑太は常に能動的に動いていた。


 バーベキューや花見、週末の集まりの事を「企画」と呼んで岳を苛立たせていたがその企画をするのが佑太、男のまとめ役は岳、女のまとめ役は茜。という図式が自然と成り立つようになっていた。


「次の「企画」は、かわせみ荘でバーベキューしやーっす!」

「その「企画」って言い方何なん?本当気持ち悪いわ。バーベキュー!でいいだろ」

「呼び方なんてなんだっていいじゃん。それよりがっちゃん、まだ道具持ってるんでしょ?」

「あぁ、あるよ。あ、網とトング新しくしたんだわ。ちょうど良かった」


 そこからは先は岳が皆に暇な日を聞いて回る。人数が一番多く参加出来る日が分かると、残りのメンバーや普段は顔を出さない同級生達に茜が声を掛ける。当日の買出しは翔や純が担当する事が多かった。

 先日の花見の買出しは佑太の提案で茜と純が行う事になった。


「え?純君と私なの?別にいいけど、女子メンツの誘導どうすんの?」

「せやねぇよ!夕方までにパパッと帰ってくりゃ間に合うって!」

「間に合わなかったら誘導頼みたいけど、女の子達多分あんたの電話出ないよ?」

「何でだよ!」

「えー……?何か怪しい……から?あ、でもがっちゃんいるもんね。なら、いっか」


 佑太の提案によって二人きりにされる事の多い茜と純だったが、最初のうちこそ敢えて抵抗はしていたものの、いつの間にかそれが定例にもなりつつあった。

 周りがどんな関係を想像しているのかは分からなかったが、ただ心地の良い距離を保ち続ける二人にとっては楽な組み合わせではあった。

 買出しの車中で茜は屈託無く笑いながら言う。


「佑太は何かと二人きりにさせようとするよねぇ」

「まぁ、元々そういうの好きな奴だから仕方ないけどさ」

「あ、純君!今日さ、奈々来るんだよ」

「えっ?マジで?」

「ねぇ、憧れのマドンナと再会するのってどんな気分なの?」

「いや……ズルイな。だって、森下は本当の事、知ってるじゃん」

「あはは。でもさ、いつもみたいに「いや」とか「まぁ」とか口篭って嘘がバレたらそれこそ悲惨でしょ。あの人達って意外と敏感だし」

「まぁね。バレたらがっちゃんに本気で殴られるかもね」

「だから、好きだった事にしとく練習に付き合うよ」

「どんな顔すればいいんかさ?」

「うーん……エヘヘって感じ?」

「エヘッ……へへへーっどう?」


 そう言って純はにやけると、茜は僅かに眉間に皺を寄せた。


「それ、下着泥棒の顔だよ」


 未だ残る夏の上澄みを掬いながら、肝心な部分に目を下ろせない春に二人は笑い合った。


 それから数日後、佑太は純を連れ出してカラオケ屋で奇声を発していた。後から来たミチの後輩でもあるドミリーズの面々に純は苦笑いを浮かべていたが、彼女達の高校の同級生でもある矢所がその中でリーダーシップを発揮している姿を見て思わず笑い出しそうになる。

 岳に「点字ブロック」と渾名を付けられていた四角い顔の女が矢所に対してひたすら頭を下げていた。


「ヤドッピ!この前は本当にごめんね……」

「いいのいいの!もうすっかり忘れたぁ!って感じ!?私全然気にしてないから、うん!」

「だって……私達の友情にヒビが入ったりしたらさ……壊れちゃうよ」


 純が笑いながら「それってガラスより脆いんじゃん?」と笑いながら言う。佑太が「何があったん!?」と楽しげに訊ねると矢所を押し退けるようにして点字ブロックが口を開いた。


「あのね!私の彼氏がヤドッピの財布盗んだの。最低だよね……いけないよね……」


 その話を聞くと佑太と純は揃って握り拳を作り、テーブルに打ち付けて何とか笑わないように堪えた。

 しかし、無理があった。


「あーはははは!おもしれぇ!はははは!友達の彼氏に、こいつ財布盗まれてやんの!!あーはははは!」

「はーはははは!あー!ダメだ!笑いが止まらない!あー!いけない!いけない!」


 純はひとしきり笑うと、思い出し笑いを何とか耐えながら点字ブロックに訊ねた。


「で、その彼氏とは別れたんでしょ?」

「ううん。反省してるし、本当は優しい人だもん」


 すると純は笑いを収め、最近吸い方を覚えたメンソールの煙草に火を点けた。そして、煙と共に言葉を吐き出した。


「ヒビ入る前に元々無いんじゃない?そこの友情」


 点字ブロックの目が点になっていたが、純はかまう事無く再び笑い出した。

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