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きみのねむるまち(プロット)  作者: 大枝 岳
中学時代
15/183

近くて、遠い。

 週明け、岳は肩を落としながら早い時間から学校へ向かった。

 告白失敗のダメージは想像以上で、翌朝は休日にも関わらず歯が痛み出し歯医者で半日を潰した。

 何も言わないのが一番の悪、というのを嫌と言うほど痛感し、矢所を逆恨みしながら休日を寝て過ごした。


 少し早く学校へ着くと理由はなく、手持ち無沙汰で校庭を散歩した。部活の朝練習で佑太がまだ涼しいグラウンドを走っている姿が目に映った。


 岳は重い足取りで教室へ入った。茜に何か聞かれるのではないかと気に病んでいたが、茜は岳を見るなりいつものように「おはよう」と微笑んだ。

 岳は「昨日はごめん」と謝ったが「いいよ」とだけ茜は言った。

 佑太と玲奈が楽しげに話し、純は相変わらず眠たそうにしていた。千代は魁皇の魅力を話半分にしか聞いていない純に力説するという、いつもと変わらない、いつもと同じ朝だった。


「それ、もうバレてるね」


 掃除の時間に玲奈は「佑太から聞いたよ。告白失敗したんでしょ?」と岳に尋ねた。岳は観念したように全てを認めた。

 玲奈のバレてるね。という言葉を岳は何度も何度も頭の中で反芻した。当然だよな、と思いながらも中途半端な事をしてしまった自分を悔やんでいた。

 高梨が「ビデオ屋でレオン借りたら妹が「ドラえもんスペシャル」上から録画しちゃって、マジでヤベーんだよ」と嘆いていたので束の間その反芻を忘れ、大いに笑った。


 そしてその日、1学期最後の席替えが行われた。

 岳達の班はくじ引きの悪戯なのか、見事に皆がバラバラの班に分けられた。

「やだよー!移りたくないよー!」と佑太は駄々をこねたが、玲奈は「清々する」と真顔で言い切った。

 純の後方の席になった千代は「純君勉強してるかどうか、しっかり監視してるからね」と警告を与えた。

「いじめんでくれる?」と純は笑っている。


 茜は岳にありがとね、と伝えた。

 半端に想いを伝えてしまった事を後悔こそしていたが、茜の隣の席になれた事を岳は素直に感謝した。


「俺もありがと。本当、楽しかった」

「ね。こんな共通点ある人、絶対他にいないもん」

「なぁ。義理の親父の話なんか気軽に出来ねぇしな。説明すんの面倒だし」

「本当それ!はぁ、席替えかぁ」

「まぁ同じクラスだし。また話そう」

「うん」


 担任の飯田が「はい!移動開始!」と勢い良く叫んだ。

 机や椅子を運ぶ音が共鳴し合うように、教室内を騒がしく埋め尽くしていく。

 千代がまごつく猿渡に「邪魔なんだけど!サルみたいに動きなよ!」と怒声をぶつけている。

 茜の言葉が、その音の隙間を潜り抜けた。


「また、同じ席になれたらいいね」


 岳は茜の言葉に安堵と喜びを感じたが、どう返していいのか分からず岳は聞こえないフリをした。

 感情にすぐに溺れてしまい、決して「そうだね」と、余裕を持って返せない中学生だった。


 岳は茜に照れ隠しのように「え?」と尋ねると「なんでもない!」と笑顔と共に言葉が返って来た。


 こうして笑い声の絶えない班は解散し、岳は「ヤギくん」と呼ばれている大きな眼鏡を掛けた大人しい男子生徒と同じ班になった。窓際の席だった。

 佑太と純と居た班を思い起こし、思わず比べてしまい岳は肩を落とした。

 そして、廊下側の席になった茜を「遠くにいってしまった」と感じていた。

 授業中に教師を小馬鹿にしながら笑い合う事もないのか、と思うと途端に寂しい気持ちになった。


 それから数日後、新しい班の話や花火をするついでに純と岳と佑太はベイシアに集まっていた。

 佑太は口を尖らせた。

「なーんで俺が宿敵の矢所と同じ班になんなきゃいけねーの?飯田の罠だよ。ぜってー!」

 純も参った、という表情で額に手を置きながら不満を漏らした。

「なんかうちは女子が強いっていうか、えらい真面目なんさ。寝てたら勉強遅れるよ、とか言われたりさ。肩凝る」

 何も言わない岳に佑太は「がっちゃん所はどうなん?」と聞いた。岳が薄笑いを浮かべて答える。

「皆静かで、鬱病になる」


 三者三様に不満はあったが、班とか関係なく集まろうぜ。という話をして買い食いに向かった。

 岳がお気に入りのチョコレートを探していると純が「ちょっといいかな?」とコーナーの裏手に岳を呼び込んだ。


「どうしたん?」

「がっちゃん。この前の事なんだけど。いいかな?」

「この前?いつ?」

「告白失敗した時」

「あぁ」


 岳は胸に冷たく重たいものがのしかかるのを感じた。

 純がマーブルチョコを回しながら何かを言いあぐねている。


「純君、それで……何かあった?」

「いや……。俺、協力出来ないかなぁと思って」

「どういう事?」

「がっちゃんの代わりに、俺が告白しよっか?部活一緒だし、いくらでもタイミングあるし」

「……そうだねぇ」


 千代理論で言えば手段は選べなかった。しかし、岳は自分なりの答えを出したかった。

 中途半端な場所で引っ掛かったままの想いは、他人の手には到底届かないように感じていたのだ。


「自分で言うよ。改めて」

「でも、言えるかい?」

「言え……るかなぁ……」

「がっちゃんと俺だけの秘密にしようよ。俺、誰にも言わんからさ」


 珍しく頑なな純の態度に岳は「こいつ、本気なんだな」と感じていた。

 その想いに託そうかどうか、迷い始めると純の持つマーブルチョコレートは回転の速度を速めた。


 純は間違いなく、本気だった。


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