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きみのねむるまち(プロット)  作者: 大枝 岳
終章〜きみのねむるまち〜
141/183

28歳にして社長をしているという涼が岳に連れられ、彼らの集まりにやって来た。高級料亭に誘われた彼らが誘いに乗り、岳がその真意を確かめると…。

 その日、岳がアパートに連れてきた人物を見るなり翔は「あぁ!」と叫んだ。その人物は翔を指差して笑い出す。


「何なぁにー!ちょっとちょっと知ってる顔なんじゃないのー!?」

「毎度、どうも。バイトの高崎です」

「知ってるー!」


 翔が一方的に「ゼータガンダム」と渾名を付けていた男は「涼」と名乗った。スーツ姿が週末のアパートには不釣合いで違和感を覚えたが、顔見知りだった為に軽く安堵を覚える。


「今日、社長やってる28歳連れて行くから」


 集まりの前に岳にそう言われた翔は一瞬、息を呑んだ。


「社長?どんな繋がりだよ」

「まぁ会えば分かるよ。大丈夫」

「おめぇの「大丈夫」くらい信用ならないもんはないからな」

「ははは」


 翔はそう悪態をついたが、今回は岳の言う通りだった。涼は岳と翔のバイト先の常連客だったのだ。

 良和が興味ありげに話し掛けている。「社長」は良和的ヒエラルキーで言えば「強者」に当て嵌まる。


「あれですか、やっぱ社長だから女はべらせたり、イケイケだったりするんすか?」

「はべらす女はこの辺じゃいないねぇ。地元を愛する企業だから変な噂も立てられないじゃない?でも、イケイケはイケイケでーす!よろしくぅ!」

「ははは、こりゃいいや。よろしくお願いします」


 当時21歳だった彼らにとって涼は完全なる「大人」だった。細身のスーツ。鋭いフレームの眼鏡。話し方や仕草、声色などにもどこか余裕を感じる。

 茜が面白がって不躾な質問を次々に投げ掛ける。ここに居れば誰もが自由になれた。


「不動産って、ヤクザか何かなんじゃない?怪しいなぁ。ねぇ、詐欺師なんでしょ?」

「違う違うー!ノンノン!健全な会社だよぉ?知事の認可ももらってるしね」

「会社は存在するし大丈夫だよ。俺、バイトしたし」

「えぇ!?バイト?何の?」

「不動産案内の看板撤去」

「ふーん。純君もバイトしたら?」


 茜は隣に座る純に向く。すると純は咄嗟に目を逸らした。


「いや、俺はいいや」

「冗談だよ……」

「うん」


 いまいち噛み合わない会話に不満が募る。互いに、それは自身への不満だった。涼が純を真っ直ぐに見ながら言う。


「君、純君って言うんだ?」

「あ、はい」

「涼でっす!よろしくぅ!」

「あぁ……まぁ。はい」


 いつもは声高に何かと叫ぶ佑太が、どこか退屈そうに彼らのやり取りを眺めていた。千代が佑太に耳打ちする。


「どうしたの?うつ病?」

「ちげー。なぁ、なんかアイツ好きになれないんだけど」

「涼って人?」

「あぁ。なんかクセェわ……」


 千代は缶チューハイを両手で握り締め、こくん、と頷いてみせた。


「がっちゃんには悪いけど、私もなんだよね」

「俺らをハメようとしてる空気はねぇけど、何だかな」

「……社長だし、自信が漲ってるからかな?私達とは色が違うよ」

「俺だって自信はあるぜ?」

「それ、過信じゃないの?」

「うわっ……ひでぇ」


 楽しげに話し込む涼や岳達。普段ここには来ない人種だからか、佑太はその存在の違和感を拭えなかった。


 それから約一週間。彼らの間で「俺も」「私も」という声が囁かれ始めた。

 男女問わず末野アパートで集まる面々が涼に食事に誘われたというのだ。それも彼らが良く利用するファミレスや居酒屋の類ではなく、いかにも高級そうな料亭だった。

 良和と岳、暇を持て余していた稲村の三人が誘いに乗ることとなった。稲村はすっかりホストのような風貌へと進化を遂げていた。


 涼が運転するベンツの後部座席で金髪の稲村が良和の耳元で囁く。


「おい……ヤベーとこ連れて行かれないよな?」

「はは……でぇじょうぶだよ」


 バックミラーで稲村を見た涼が前を向きながら声を掛けた。


「稲村君、だっけ?」

「あ、はい」

「家、どこなの?」

「あの……天神山の方っす」

「あー!そうなんだ。あの辺りに持ってる家に俺住んでるんだよね。偶然会ったらよろしくね」

「そうなんすか?あの、よろしくお願いします」


 稲村が相好を崩したタイミングで涼が言う。


「イナムーは何か目指してんの?」

「えっ!?イナムー……俺っすか?何でですか?」


 突然渾名で呼ばれた稲村は目を丸くしながら答えた。


「イナムーは金髪だし、眉毛も無いし、イケイケそうじゃない」

「いや……まぁ、目指してんのはホストっすかね」

「あー……ホストね。俺はてっきりがっちゃんの真似かと思ってたけど、違うんだ?」


 がっちゃんの真似、という言葉に稲村は涼を睨みつけるように眉間に皺を寄せる。


「は?違いますよ。俺なんかと比べたら、がっちゃんに申し訳ねぇっすから」


 稲村がそう言うと、助手席に座る岳の肩が揺れた。


「へぇ。男衾ってのは地元の上下関係がしっかりしてるんだね」

「いや?地元とか学校は関係ねぇっす。同じ男として、尊敬してるんで」

「ふーん……男、ね……」

「いつか越えたいっすよ。自分、下克上ゴキブリなんで」

「ゴキブリ?」

「いや、まぁ、いいっす」


 稲村は口癖に「ゴキブリ」を良く使っていた。「血の滴るステーキ」が上手く言えず、「血のした、した、ステーキ」と言って良和と純を笑わせた事もあった。


 山間にある料亭につくと、涼は愛想良く女将と何か話し込み始めた。岳は会話のトーンにビジネス的な雰囲気を感じ取り、傍を離れた。

 良和と稲村は風情を感じさせる落ち着いた店内を物珍しそうに眺め回している。

 彼らの他に客の姿はなく、料理をゆっくりと堪能することが出来た。送迎するから、と涼は良和と岳に日本酒を振舞う。

 小皿に盛られた日本料理が次々と運ばれて来る。涼は今までして来た仕事の事や、かつて青春を過ごした秩父時代の事を楽しげに話していた。


「今日は男しか居ないから言えるんだけどさ、べっちょって何だか知ってる?」


 涼の質問に親が東北出身の岳は思わず噴出した。膝を立てながら稲村は楽しげに「知らないです」と答える。


「女のアソコだよ!俺の先輩でアホが居てさ、シンナーで歯もボロボロなのよ。原付で秩父市内走り回りながらいつも歌ってたんだよね」

「どんな歌っすか?」

「おまんこべっちょに毛が三本っ!」


 節をつけて勢い良く歌った涼に三人は笑い声を上げた。「毛が三本って」そう言って岳は腹を抱えている。

 良和も稲村も涼に気を許したのか、最初のような緊張感もなく打ち解け始めていた。

 数万円単位の会計を済まし、表に出ると岳は顔をあからめながら涼に耳打ちした。


「ごちそうさまでした。すいません、本当」

「いやいや、いいんだよ」

「あの……目的は何なんですか?」

「えっ?交流を深める為じゃなーい!」

「いやいや、俺らみたいなペーペーにこれだけの金使うなら何か意味あるんだろうなぁって……」


 岳がそう言うと料亭の前庭で涼は細巻の煙草に火を点け、腰を下ろした。玄関前でふざけ合う良和と稲村を眺めながらゆっくりと煙を吐き出す。


「がっちゃんは鋭いねぇ」

「俺だったらしないですからね」


 涼は指の関節を鳴らしながら言った。


「奢られる側の人間の反応を見てたんだよ。ヨッシーは素直で良いな。奢り甲斐があるよ。けど……イナムーの態度はちょっと、いけ好かないねぇ。奢られてるのに立膝ついたり、ね」

「それは……注意出来なくてすいませんでした」

「うん……まぁいいさ。こうやってちゃんと付き合える相手かどうか、俺は判断するんだよ」

「奢るのはその為ですか」

「あぁ。せこくて弱いでしょ?」

「いや……相手を判断するのは当たり前です。測るモノサシの種類は人それぞれかと思いますけど」

「いや、実際俺は弱いんだよ」

「全然そうは見えないですけどね」

「どう思ってもらっても構わないけど、余計なストレス感じたくないからね」

「それは……分かる気がします」

「まぁ……これからもよろしく頼むよ」

「はい」

「じゃ、行こうか」


 涼は煙草を揉み消し、慣れた手つきで吸殻ケースの中へと仕舞った。

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