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きみのねむるまち(プロット)  作者: 大枝 岳
終章〜きみのねむるまち〜
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騒がしい夜

純と共に洋間からは出ないよう岳に告げる茜。良和の作ったゲームをしながらやり過ごす純と岳。そして、彼らを待っていたもの。騒がしいいつもの夜。茜と純の間に訪れた静寂。

 部屋に入るとすぐに顔を少し赤らめた翔が二人を出迎えた。


「おー。やっと来たか。純君、交代」

「え?何?」


 茜と千代が「やっと来たー!」と声を上げる。矢所が「主役が来たよ!今日はあんたらの」と叫ぶと関口が「矢所さん、まだダメだよ!」と矢所を制した。

 純はその言葉の続きが気になったが洋間から良和の「純君!早く来て!」という声に呼ばれ、ダイニングには行かずに洋間に向かう。


「翔がさっきまでやってたんだけど次純君の番。座って」

「え?何だい?」

「RPGツクールでRPG作ったん!ほら、やってみて!」

「あぁ……ゲームね……」


 純は良和に言われるままコントローラを握る。今日呼ばれた理由はこれだったのだろうか?茜がわざわざ良和の作ったゲームをさせる為に指名する事はないだろう。

 疑問はいくつか浮かんだが純はそのままゲームをスタートさせた。


 ダイニングでは岳が佑太にスン・シンの事で小言を言われていた。


「あんな山奥の家に普通友達置いていく!?」

「だってさぁ……気持ち悪かったんだもん。スン・シンやべーじゃん」

「だったら尚更だよ!マジ怖かったんだぜ?」


 茜が「スン・シンって何?」と訊ねると顔を顰めた岳が「中国人」と答える。茜と千代が笑いながら「アルヨ、アルヨって言ってもらおうよ!」とはしゃぎ始めた。

 スン・シンとの事の顛末を聞かされた茜はポッキーを食べながら岳に「付き合っちゃえばいいじゃん」と平然と言った。


「俺は男は嫌だよ。仮に大丈夫だったとしても、もっと綺麗な男にするわ」

「新しい世界行けるかもよ?そっちに行ったらモテモテなんじゃない?」

「つーか……何で彼女いるのにわざわざホモになんなきゃいけないの?」

「え?面白いから」


 そう言って微笑んだ茜は千代に目配せすると岳を洋間に行くように促した。


「ちょっとゲームして遊んでてよ。純君もこっち来させないで」

「何で?脱ぐの?」

「馬鹿。大事な話しするの!いいから行っててよ。絶対こっち来ないでね?」

「……分かったよ」


 岳が洋間を開けると純に向かって「面白いでしょ?面白いんねぇ。ほら、このシーン!」と良和が語り掛けていた。


「何してんの?」

「RPGツクール!ほら、がっちゃんも少し作ったじゃん!あれ出てくるで。「愛のない一人舞台」と青柳」

「あぁ、そういえば作ったな」


 数日前、アパートに遊びに来た際に良和に言われるがまま岳はRPGツクールで数人のキャラクターを作っていた事を思い出した。話し掛けると脈略なく「愛のない一人舞台」と呟く村人と、働く事に疲れ果てた青柳を登場させていた。青柳に話し掛けると「せや!こうすればもう働かなくてええんです!」と突然屋上から飛び降りるイベントを用意していたのだ。

 両方ともゲームの進行には何の関係も無かったが、そのイベントがいつ登場するのだろうと心待ちにしながら岳は画面に目を向け始めた。


 それから十分程経った頃だった。洋間のドアが静かにノックされたかと思うと、関口と矢所が「ハッピーバースデー!」と叫びながら部屋に入って来た。

 それに続き、茜と千代が火花を散らすタイプの花火が刺さったホールケーキを持って現れる。


 純と岳は一瞬誰の誕生日なのか分からないでいたがケーキの上のプレートを見ると


「岳&純 誕生日おめでとう」


 と書かれていた。


 佑太と翔、良和も事情を知っていたようで「おめでとー!」と声を掛けた。

 岳と純は誕生日が約一ヶ月違いだった為、先日誕生日を迎えた純と先月に誕生日を迎えた岳に向けたサプライズだったのだ。

 純は彼らの計らいに照れ臭さを隠さないまま「ありがとう」と微笑んだ。

 いつか中学の頃に純の為の誕生日祝いをした時には良和の母が良和を呼び戻しに来てしまった為に、中途半端な状態で終わってしまったのだった。

 今は目の前にその良和が居て、自分の為に「おめでとう」と声を掛けてくれている。

 家族以外の誰かに誕生日を祝ってもらった事など皆無だった為、純の喜びは笑みとなって次から次へと零れ始めた。

 岳はプレートを眺めながら額に手を当て涙ぐんでいた。自然と幼少期に誰も居ない誕生日を迎えた事を思い出す。

 例えそこにケーキがあったとしても、それを食べる人間が家には居なかった。

 誕生日が近づく度に家族や親にお祝いを意識させてしまう事もプレッシャーになっていた。

 岳はいつしか自然と誕生日が近づいても言葉にする事は無く、何もないまま終わる事を祈るようになっていた。

 友利とは共に毎年祝うが、これだけ盛大に祝ってもらえる事自体が初めての経験だった。

 彼らの思いやりと優しさに、自然と泣き出しそうになってしまう。


「俺さぁ……こういうの慣れてないからさ……なんつーか……うん。ありがとう」


 岳がそう言うと、千代が静かに微笑んだ。良和が笑いながら岳を指差す。


「あー!がっちゃん泣きそうになってんじゃん!」

「良和君、いいの!がっちゃんは喜んでくれてるんだから!皆で乾杯しよ!」


 関口がそう言うと彼らは「おめでとー!」と声を上げて純と岳の誕生日を祝った。

 良和がケーキを一口で頬張るのを眺めながら岳と純は「すげぇ」と声を漏らす。ケーキの上に飾られていた花火は本物の手持ち花火だった。その為に純は火薬の残り香で咽そうになったがそれさえも楽しく感じられた。

 岳が洋間の窓を開けて換気しながら外を眺める。山のすぐ下の暗闇を、短い編成の秩父鉄道が通り過ぎて行く。

 そのまま何気なく外を眺めていると千代が同じように外を眺め始める。

 背中には佑太と良和の笑い声が響く。翔が「女が居ても関係ねぇ関係ねぇ」と笑う。

 どうやら良和がアダルトビデオを鑑賞し始めたようだった。

 千代が「うわっ」と小さく顔を顰め、岳に言った。


「皆、笑ってるねぇ。いいねぇ、こういうのって」

「そうだね。今日は本当ありがとね」

「ううん。ねぇ、こういう時間って自由になれたって思うから笑えるのかな?それともいつか終わるって分かってるから笑えるのかな?」

「なんか哲学的だな」

「私、実は暗いからね」


 そう言って千代は一息で残りの缶チューハイを飲み干した。岳が首を傾げながら答える。


「俺は……後者かな」

「自分に自信がないんでしょ?」

「ははは、そうね」

「私もそうだもん。多分、皆そうなのかな」

「そうかもしれない」


 後ろを振り向くと良和が関口に「これと同じ台詞言って!」とせがんでいる。関口は「いや、それ以前に……このビデオ、あら!あー!凄いね!これは凄いわ!」と驚嘆の声を上げている。

 岳は腹の底から笑いそうになる。そして、やはり答えは後者だなと感じて窓を閉じた。


 佑太が「俺とジュース買いに行く人ー!」と叫ぶが誰もその言葉に反応しない。それぞれ好き勝手に酒を飲みながら話し込んだり漫画を読んだりしていて「誰か答えるだろう」とまともに取り合おうとはしなかった。

 痺れを切らした佑太が地団駄を踏みながら再び叫ぶ。


「オメーらたまには外に出ようぜ!?なぁ!?」

「馬鹿野郎。夜中に外出て何するんだよ」

「えー……だってさぁ……外の空気吸いたくならね?」

「仕方ねぇなぁ……」


 翔が漫画を放り出して立ち上がると茜が「どこ行くの?」と訊ねる。本気で佑太の言葉を聞いていなかった様子だ。


「駐車場の自販機まで散歩」

「散歩って……何十秒じゃん」

「皆行かない?」

「あ、私喉渇いたし何か欲しいな。行こうかな」

「たまには皆で外出ようぜー!行こうぜ!」


 佑太に促され彼らはゆっくり立ち上がった。そして徒歩数十秒の散歩へと繰り出す。

 階段を降りて茜が何気なく空を見上げると、いつもより星が多く見える事に気が付く。

 隣を歩く純の少し高い肩を軽く叩く。


「純君、ほら。星凄くない?」

「あれ……本当だ。全然星座とか知らないけどさ、綺麗だね」

「私も知らないけどね。綺麗」


 そう言って二人は空を見上げたまま立ち止まった。

 佑太が「おーい」と二人を呼ぶ。突然、夜の星空の中へ落ちていきそうな感覚から覚める。

 その感覚がおかしく、純と茜は顔を合わせて笑い合う。


 純と茜が自販機に向かって歩いている間、佑太が声を潜めてこう告げた。


「いいか……?俺がせーのって言ったらダッシュして部屋戻るんだかんな?」

「オッケー」


 岳と翔が笑みを浮かべると二人が近づいてくる足音が聞こえてくる。

 その瞬間、佑太が「せーの!」と言い茜と純の間を彼らは駆け抜けていった。

 嬌声と階段を駆け上がる音が夜に鳴り響き、ドアが閉まる音がすると一瞬にして二人の間に静寂が訪れた。

 何が起きたのか一瞬分からなかったが置いてけぼりにされた事に気が付き、茜は不満げに「ちょっとぉ!」とアパートに向かって声を上げた。

 当然何の声も返っては来なかった。


 自販機の灯りの前で取り残された二人は自然と目を合わせた。

 純が何か言いたげに唇を動かした。


 遠くを走る車の音が聞こえてきて、あとは草の匂いがあるだけだった。

 二人は見つめ合ったまま、時間が動き出す。

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