オーク編第1話 オークの生活
「ブヒヒ(なぜこうなった……)」
俺は目の前に置かれた成人ゴブリンの亡骸の前でこう呟いた。オークとして生まれてから一ヶ月くらいたったある日のことだ。
オークの文化水準はゴブリンとほぼ同じ。違いはゴブリンは雑草や虫は食べるがオークはその代わりゴブリンを食べる。もう一回言おう。ゴブリンを食べる。つまり、この目の前に置かれているゴブリンの亡骸は、さっきゴブリンの村を襲ったときに仕留めたゴブリンである。
「ブヒ?(ん、食べないのか兄弟?)」
「ブヒ~(あ、ああ)」
「ブヒヒ(じゃあ、俺がもらうぞ)」
オークは食欲旺盛だ。今も俺がゴブリンを食べないでいると、横に居たオークが聴いてくる。人間の記憶を持って、さらにゴブリンとしての記憶を持っている俺が、知能の持った生物を食す行為はできない。俺の許諾を得た隣のオークは頬張るようにゴブリンにかぶりつくが、見ていて気分のいいものではない。
ゴブリンも食えない軟弱者として他のオーク達からはあまり好まれていない。ただ不当な扱いは受けていないので、群れの中で生活はできているそんなある日。
「ブヒィ~ブヒィ~(オークナイト様ご一行がいらっしゃったぞ。皆、表に出ろ)」
群れのボスオークの雄叫びが村中に響きわたった。ボスオークからの命令は絶対だ。オーク達はすぐさまボスオークの元へと集う。もちろんその中に俺も含まれている。
「ブヒヒ(全員一列に並びました)」
「ブヒ(よろしい)」
ボスオークを指示している一匹のオーク。そのオークの後ろには数匹のオーク達が直立不動の姿勢でいる。村のオーク達と違い、鍛え抜かれた身体に身に纏った鎧や背中に背負っている剣が、彼らが並のオーク達とは一線を隠す存在と証明している。
「ブヒヒヒ(今日集まってもらったのは……)」
先ほどボスオークを指示していたオークが口を開いて話し始めた。話は非常に長く、俺は内心ずっとイライラしていた。
話を要約するとコボルトという種族がオークの拠点となる一つに襲撃をかけてきた。オークも応戦したが数が多すぎて防戦一方。ゆえに援軍としてこの村のオークたちに召集をかけたそうだ。
「ブヒヒヒヒヒィ(戦だ、戦だぁぁ)」
「ブヒヒ、ブヒヒヒヒ(コボルトどもめ、目にものをみせてやる)」
「ブビビビー(血祭りにあげてやる)」
周りのオークたちは雄叫びをあげて喜んでいる。オークは好戦的な性格で他種族との戦いでは、いの一番に駆けだしていく勇敢な戦士なのだそう。
ただし、それはオークたちの自称であり、他種族からすれば野蛮かつ横柄で強欲な存在として語られている。
実際、ゴブリンだったときに戦ったオークたちは典型的な小悪党の印象しかない。散々いたぶりやがって。思い出すだけでも腹が立ってきた。
「ブヒ、ブヒィ~(以上だ。解散)」
そんなことを考えているうちに、ボスオークたちは話を終え、足早に帰ってしまった。残ったのは熱狂冷めやらぬままに立ち尽くしたオークたちだ。
ここにずっといても興奮したオークたちに絡まれると思い、ボスオークたちのように足早に家の方角に進んでいく。
翌日、再びボスオークたちの召集によって俺たち村のオークは集められ、コボルトたちに攻めこまれている拠点に向けて出発するのであった。
種族説明②
オーク
成人すると二メートル前後にまで成長し、豚顔と肥満体型が特徴的な魔族。魔族の中では下位の強さである。性格は野蛮的であり他種族に対し、横柄かつ強欲である。
生活様式はゴブリンに毛が生えた程度である。しかし、キングを筆頭に上位種の大半を失い技術を衰退させたゴブリンたちと違い、キングこそ失ったものの上位種はある程度残ったため、ゴブリンほど悲惨ではない。