ーHRI対策室ー
ヒューマロイド依存対策室、略してHRI対策室だが、その歴史はまだ新しくヒューマロイドと人間のより良い形を模索しつつ、依存が度を超えているユーザーへの対処を主に行なっている部署だ。
特に今回は僕が配属となったリセット科では、主にヒューマロイドへの日常生活にまで影響を及ぼし、生活に支障をきたしている国民の対応するのが仕事となっている。
もちろんそうなる前の対処も日々行なっている。
それでも人はヒューマロイド、特に俺の嫁に溺れ、自分の人生を放棄してしまう人が多いのだ。
そもそも現代社会では、人間のヒューマロイドへの感じ方は人それぞれで、まさしく理想の『俺の嫁』として溺愛しすぎるあまり、リアルな人間社会を否定するネオニートの存在やヒューマロイドから仕事を奪われたとして今日のロボット社会を恨む人間までそれぞれだ。
ー僕はこの部署でやっていけるのだろうかー
ふと弱気になる自分を客観的に感じつつも、自分のより小さな幼馴染が自分を強く引っ張るかのように、その後をついていくのだった。
「ここが今日から働くHRI対策室リセット科だね!もしや、緊張してる?」
彼女はいつも通り変わらない笑顔でそう僕に問いかける。
「美咲はいいよ。だって上司っていっても家族みたいなものだし」
僕がそう言い切るか言い切らないかで、不意打ちを突かれたかのように、女性の声が後ろから響くのだった。
「どうしたの、そんな所に突っ立って?もしかして緊張?」
振り返るとそこには年齢にするとおおよそ40歳前後、いや見た目だけで言えば30歳前半といってもいいくらいの美貌を誇る、出るとこは出て引っ込むとこはしっかり引っ込んでいる、まさに魔女のような女性が立っていた。
「お母さん真白を茶化さないでよー」
美咲がどことなく恥ずかしそうにそう言う。
この女性の名前は加藤楓。HRI対策室リセット科の係長であり、今日から僕と美咲の上司にあたる女性で、美咲のお母さんだ。
「仕事場なんだからお母さんはよしなさい」
歯切れよく、美咲に注意をする掛け合いを見つつも、僕はこの親あってこの子ありなんだと毎回ながら感心する。
「ようこそ、HRI対策室リセット科へ」
そう楓は言うと、ガラスの扉を自ら開き僕と美咲を部屋の中へと案内し始めた。
「君達も知っての通りこのリセット科ではヒューマロイドによる依存レベルが3〜4になった人たちの最終対処を主に行う部署よ」
こう言うと一番奥のデスクに楓は腰掛け、半分もないかぐらいになったコーヒーを口へ運ぶ。
「それだけが仕事ではないけれど、それだけは避けられない仕事」
そう言う彼女の顔は、どこか悲しく、感情をどこかに置き忘れてしまったかのように、どこか遠くを見ながら僕たちに語りかけるのだった。
「まあ立ち話もなんだからとりあえずそこへ座りなさいよ」
そう誘導された美咲の隣の席には、『ようこそリセット科へ!』と書かれた、先ほどの楓の顔からは想像できないほどに、仰々しく作られた冊子が置かれている。
読んでも読まなくてもどうせ覚えるけどね、と言う楓の声がするものの、美咲はその冊子を読むことに夢中となっているようだ。
「おはようございます」
美咲につられて資料に集中していた僕、いや僕たちに朝の美咲と正反対の髪の長い、どことなく物静かそうな女性がそう呟く。
「やっときたよー」
そう言うと楓は飲みかけのコーヒーと資料の山を机の上に戻し、その髪の長い女性のところへと急ぐ。
「紹介するよ、彼女はエリカ」
「今日から真白のパートナーをしてもらうヒューマロイドだ」
自慢げに楓は僕にそう言うと、エリカにあとはよろしくと言わんばかりに手を振り、また部屋の外へと去っていくのだった。
「はぁっじめまして!」
初めて対面する仕事のパートナーに動転したのか、僕はなんといっているのかわからないほど、不思議な日本語?とともに高い声が室内へ響く。
「そんな慌てないで大丈夫ですよ」
少し笑みを浮かべながらエリカが言うと、僕の方へ手を伸ばすのだった。
「私はHRI対策室NO.17エリカです。真白さんこれからよろしくお願いしますね」
綺麗とか可憐と言う日本語は多分この人を形容するための言葉なんだと脳裏で考えつつ、裏返った心を落ち着けて僕も手を伸ばし握手をする。
「HRI対策室についてはどのくらいご存知ですか?」
彼女は伸ばした手を収めると同時に僕にこう切り出した。
「大体のことはあらかじめ予習してきたけど、、、」
不安げに僕がこう答えるとエリカはそれでは、この仕事やヒューマロイドについての概要を話し始めるのだった。