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約束はいらない  作者: 冬泉
第一章「伝説の軌跡を追って」
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約束はいらない-08◆「孤高の砦」

■ステリック公国/首府イストヴィン→ラダックの砦


 ステリック公国の首府イストヴィンから南西に約200マイル。“水晶の霧”山脈から東に長く延びた山脈の支流がジョオテンズ(Jotens)山脈だ。南のヨーマンリー自治領との分水嶺となっているこの山脈を通る唯一の峠である『不帰かえらずの峠』の入り口に築かれた堅固な要塞がラダック砦だった。


 カーシャは、不用意な緊張を避ける為に、砦の手前でエル・ファイアーを着陸させた。


「ラダノワ伯爵、砦の手前に降りるということは、なにか理由があるのですね?」

「ん? そうだ。ここらは邪龍が多いからな。砦の守備隊も、敏感になっている。」


 不必要に守備兵を緊張させる事はないと言ったカーシャは、己が騎龍のエル・ファイアーに優しく諭した。


「エル・ファイアー。お前は“七つの塔の城”へ帰っているのだ。分かっている。今度ゆっくりお前の狩りに付き合うとしよう。」


 カーシャの忠実な火龍は、主人に自分が置いて行かれるのが不満の様だった。だが、最後には説得され、カーシャが開いたジャンプ・ドアを通って“七つの塔の城”に戻って行った。


「ありがとう。エル・ファイアー。おかげで早く着いたよ。」


 エル・ファイアーを見送ると、ローランはカーシャに向き直った。


「ラダノワ伯爵、エル・ファイアーは着いてきたいようでした。暗黒神がいなくなったので、探索に同行させてもよかったのではと思うのですが?」

「確かに、暗黒神はいなくなった。だが、あの峠の向こう側は未踏差の地域ばかりだ。無用な刺激を与えたくは無い。」

「暗黒神と関わりのあるものはなくなったけれども、それ以外の脅威はいまだにあの山脈にはあるということですね。暗黒神は去れども、すべては解決したわけではないと同様に。」

「そうだ。“水晶の霧”山脈のみならず、昔からジョオテンズにも得体の知れぬ物が眠っているとの話が多い。」

「その話のいくつかは聞いたことがあります。」

「信ずべき、幾つかの示唆があるからな。その全てを叩き起こして戦っていては、切りがない。」

「そうですね。」


 話しながら歩いていると、ラダックの砦から騎馬の一隊が出てきた。空の馬を二頭引いている。遠目にも、精悍な、それで居て実直そうな戦士が騎馬の一隊を率いていた。


「出迎えだな。流石に手回しが良い。先頭の戦士がリュラックだ。」

「ラダノワ伯爵閣下ぁ!」


 リュラックの呼びかけに、カーシャは軽く手を挙げて応えた。

 ほどなく、騎馬隊はカーシャ達と合流した。馬から下りたリュラックは、カーシャとローランに丁寧に挨拶をする。


「歓迎申し上げます、閣下。」

「手間を掛けるな、リュラック。又、厄介になる。」

「無論、何時でも歓迎です。」

「リュラック、こちらが戦役の英雄、槍聖ローラン殿だ。」

「お初にお目に掛かります。ラダック砦の守備隊長、ギュスターヴ・リュラックです。」

「槍使いのローランです。よろしくお願いします。」

「まずは、砦へどうぞ。ゆっくりお話を致しましょう。」


 リュラックの連れてきた馬に跨り、カーシャとローランはラダック砦に入った。

 砦は、ジョオテンズ山系の斜面から張り出した険しい岩山の上にあった。


「大きい・・・」

「自然の要害だな。」


 大手門は、切り立った岩の裂け目を利用しており、両側が天然の高い崖になっていた。大手門の切り立った岩から上を見上げたローランの独り言にカーシャが頷いて言った。


「この砦があるおかげで、ダーヴィッシュ河流域の住民は安心して眠れるのだ。ジョオテンズを抜ける峠道は、この不帰の峠しかないからな。その出口を、この砦が押さえているという構図になっている。」

「ステリックの平和の要ですね。」

「うむ。だが、今の砦は三代目だ。前の二つは、二回の巨人戦役の時に破壊されたと聞く。」

「なるほど。それは、ステリックの愛国心の証でもありますね。」


 城門を抜けると、正面が主城塞だったが、カーシャ達が進む回廊は、主城塞の裾を時計回りに回って行く。半分回った辺りに、二番目の城門があった。


「ここに辿り着く前に、侵入者はあの回廊を抜けるのに手こずるだろうな。」

「空中から攻められるのが弱点ですが・・・」

「それはどの城も同じだ、リュラック。その為に、飛翔部隊がいる。」

「はい。その点もユゥア十三世陛下のご配慮で、ここにも飛翔騎士が一個大隊駐屯しておりますので、戦力的にも十分です。」

「何が重要か、陛下は十分お判りだ。」

「そうですね。」


 話している内に、一行は二番目の城門を通りすぎた。その向こうが城の中庭になっていた。


「本館にどうぞ。そこで、お聞きになりたい事をお話致します。」

「はい。」


 ローランはリュラックに頷くと、馬を下りた。


「リュラック殿、後程、ギャルド騎士団のルーラム・レスコー殿、キーファ殿とエルクラート殿がこちらに参上します。彼らも彼の地の探索・調査の任を負っています。彼らにも必要な話になりますので、到着したら彼らもよろしくお願いします。」

「了解しました。その旨、手配致しましょう。」


 リュラックは、承りましたと頷いた。



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