約束はいらない-02◆「宝玉の都」
■マウール城→グレイホーク→銀龍亭
相変わらずの喧噪が支配する街、グレイホーク。“フラネースの宝玉”「と呼ばれるこの街は、いつもの通りに活気と熱気に溢れていた。暗黒戦争前と比べて一層繁栄しているのは、ここ一帯が『連合騎士団』の庇護化に入った影響が大きいのだろう。
余談だが、『連合騎士団』とは、中原に位置するヴェロンディ連合王国、シールドランド騎士同盟、ウルンスト公国、ウルンスト共和国に東の雄エルディ連邦(ニロンド王国)、西の雄シェリドマール同盟(コーランド王国)が騎士を出し合って、秩序と法を守る騎士団を共同で創設したものだ。
連合騎士団は、“深淵なる湖”ニル・ダイヴ湖畔に位置する『七つの塔の城』を拠点に、四方にその目を光らしていた。
「久しぶりだな。ここに来るのも。」
空の上からグレイホークを見下ろすと、ローランは言った。
「そうなんですか、ローランさん?」
気さくに答える青年は、マウール城に配置されている警備のグリフォン騎士の一人、マイク・ランダーだった。
ローランを載せたマイクのグリフォンは、“龍の背骨”と呼ばれる、ケルン丘陵の最高部を飛び越え、東側からグレイホークに近づいた。
グレイホークの尖塔群が見えてくると、マイクはグリフォンを降下させ、城門の前に着陸した。
「ローランさん、持ち物を忘れずに。」
「マイク、ありがとう。城まで気をつけて戻ってくれ。」
「どういたしまして。ローランさんこそ、気を付けてくださいね。」
ローランに荷物を渡すと、マイクは再びグリフォンに跨った。
ゆっくりと離陸すると上空を一回旋回し、手を振って再び東に消えていった。
東の空にマイクが消えるまで見送った後、ローランはグレイホーク市でももっとも繁盛している酒場である銀龍亭に向かった。
『ガラッ』
久し振りに訪れた銀龍亭は、昔と同じく冒険者や、冒険志願者で一杯だった。
奥のカウンターで寡黙なマスターが冒険者達に旨いエールを出している光景も変わりない。
「・・・懐かしいな。」
ラダノワ伯を目で探しながら、酒場の冒険志願者、冒険者を見ていると、自分もあの集まりの中にいた時のことをローランは思い出していた。
「お客さん。武器は預からせて貰いやすぜ。」
扉を潜ると、不意にマッチョな兄ちゃん二人に声を掛けられた。
にたにた笑う歯が白いこの二人は、この酒場の用心棒だった。
銀龍亭では無用な騒動を未然に防ぐために、大物の武器を入り口で預かっているのだ。
「ああ、気をつけて扱ってくれ。」
無造作に、暗黒戦争最終戦後に新たに作った長鉄槍を渡す。最終戦以前に使っていた槍は、既に返還と封印が為されていたので、これが今の相棒だった。
「へぇ。勿論ですぜ。」
見かけに因らず、マッチョの一人が丁寧に槍を取ると入り口の右側の武器庫に納めに行った。
キラーンと白い歯を光らせてローランは聞いた。
「兄ちゃん達。ここにラダノワ伯爵が滞在していると聞いているが、どちらにいらっしゃる?」
「“紅い龍騎士”ですね。三階の一番奥の部屋ですぜ。」
マッチョ達の口振りに、尊敬――いや畏敬の念が感じられる。
「わかった。ありがとう。後で一杯やってくれ。」
心付けに金貨を一枚渡すと、部屋に向かった。階段を上がり、扉の前に立つと一つ深呼吸をする。
『コンコン』
「ラダノワ伯爵。槍使いのローランです。お話をお伺いに参りました」
ややもすると説明部分が多いので、多少退屈に思われるかも知れませんが、これから物語も展開していきますので、ご期待下さい。