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約束はいらない  作者: 冬泉
第二章「見知らぬ土地で」
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約束はいらない-20◆「心を感じて」

■月代町/神明神社


 和やかな食事が終わると、ハナと冬琉が手早くお膳を片づけた。

 カーシャは一旦部屋に戻り、車屋の手配を待つことになった。


 一旦自分に宛がわれた部屋に戻ったローランは、普段着に着替えると、カーシャの部屋に向かった。


「ラダノワ伯爵よろしいですか?」

「構わない」

「失礼します」


 ローランは衾を開けると部屋の中に入り、カーシャの前に座った。


「ラダノワ伯爵。“扉”に入って、私はすぐ気を失ってしまいました。あの後は、どうなっていたのでしょうか?」

「光の柱に向かった所までは覚えているな?」

「えぇ。天空に摩天楼を擁する大都市が見えて、その都市と湖が光の柱で結ばれていた・・・」

「そうだ。光の柱には、何ら魔導反応は無かった。だが、強い吸引力を我々は感じた。己のSEAの反発シールドを最大限に張り、我らはその光の柱に飛び込んだ」


 思えば、無謀な事をしたものだ、とカーシャは薄く笑った。


「柱の中は、光の海になっていた。我々は、嵐の海を凪がされる木の葉の如く揺さぶられた。我々は、その海をどんどん落ちていき――その途中で幾つもの星の河を突き抜けた。

 私は、何とか貴殿を捕まえると、諸共ソロモンの反発シールドで刳るんだ。その後は、私も記憶がない。気が付いてみれば、冬流殿と天禅殿に助けられていた」

「そうでしたか・・・」


 たった今聞いた事を噛み締める様に言うと、ローランは丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございました」

「礼を言うことは無い。逆の立場で有れば、貴殿も同じ行動をとったであろう?」


 カーシャは微笑みを浮かべて言うと、一転静かな声で言う。


「時に──あの娘御がそうなのか?」

「ええ。彼女です。ただ、私が彼女に出会った時より若くて、前の時代に着いてしまったのかもしれません」

「・・・時間軸の流れの違いかもしらんな」

「時の違いか、別世界なのか・・・。しばらくは、目的と真実を隠し、注意深く観察している必要がありますね」

「それが良いだろう。今迄の経緯から判断するに、ここは世界として安定している様だ。暫くやっかいになって様子を見るしかないな」

「そうですね。なぜ、ここに来たのか。いろいろな要素が考えられますが、何か我々が為さねばならない必要性があるのかもしれませんね」

「うむ。このことに必然があるならば、何れ明らかになるだろう」

「はい」


  ローランは、労りを込めたカーシャの言葉にこっくりと頷いた。


               ☆  ☆  ☆


「失礼します」


 暫くすると、廊下から声が掛かった。カーシャがどうぞ、と応えると、冬琉が障子を開けた。


「お邪魔してしまってごめんなさい。ローランさん、良かったら手伝って貰えますか?」

「あ、はい。冬琉さん」


 意識している為か、ローランは少しギクシャクしながら首を縦に振る。


「カーシャ殿、では。」

「うむ、後程」


               ☆  ☆  ☆


 廊下を歩きながら、ローランは冬流に話し掛けた。


「薪割りでしたよね」

「えぇ、そうです。結構、重労働ですよ」


 冬琉は少し悪戯っぽく笑った。

 それに笑顔で答えながら、ローランは力瘤を作って見せる。


「どれだけ上手くできるかわかりませんが、力仕事は得意ですから」

「そうですね、ローランさん、武道家みたいに鍛え上げている身体つきですもの」

「はい、槍術を少しやっているんですが・・・」


 語尾を濁すと、一転悪戯っぽい笑みを浮かべて力瘤をパンパンたたく。


「実は、体を鍛えるのが趣味なんですよ。鍛えれば、鍛えただけ目に見えてますから。太くなればなるほど、頑張ったんだなぁと思えるので」

「まぁ・・・」


 頼もしいですね、と冬流は屈託無い笑顔を浮かべた。


                ☆  ☆  ☆


 裏に廻ると、納屋に薪が積み上がっていた。冬琉は、まだ割っていない薪を一つ取ると、納屋の前の大きな切り株に歩いて言った。


「ここで割るんですね」

「えぇ。この手斧を使って、こうやって・・・」


『カッコーン』


 いい音がすると、薪は綺麗に二つに割れた。


「見事な手並みですね」

「何度もやっていますからね」


 はにかむ様に笑うと、冬流は申し訳なさそうに言った。


「一時間くらいすれば車がきますから、それまで出来るだけ薪を割って貰えますか?」

「一時間か・・・。できるだけ多くできるよう、頑張ります」

「ありがとうございます。じゃ、わたしは別の支度があるので、失礼しますね」

「はい、ここは任せて下さい」


 ローランに頭を下げると、冬琉は母屋の方に立ち去った。


                ☆  ☆  ☆


「よっ」


 ローランは薪を両手に抱えられるだけ多く掴み、切り株に向かう。


「さてと・・・」


 手斧を握って具合を確かめると、おもむろに薪を割始める。


『カッコーン!!』


「よし。ここでスナップを効かせて・・・」


 程なく、ローランは木目をうまく利用して、割った薪を飛ばさないよう、最小限の力で最大効率で割って行くコツを掴んだ。


『カコン! ・・・カコン、カコン、カコ』


 次第に、道具と木の質になれたのか、音は小さくなり、間隔が短くなっていった。


               ☆  ☆  ☆


 小一時間後。冬琉が戻ってくる。

 


「ローランさん、まぁ・・・」


『カコ』


 ローランが手斧を振るうと、最小限の力で、薪が面白い様に自然に割れて両方に倒れていく。


「あっ、冬琉さん。割った薪はどこに積んでおけばいいですか?」


 ローランは薪割りの手を止めると、驚いた表情を浮かべて立っている冬琉に向かって振り返った。


「もっと、割っておいたほうがよいですか?」


 まだまだ、足りないかな? と心配そうに割った薪を見ているローランに、慌てて冬流が言う。


「まぁ──ローランさん、薪を全部割って仕舞われて・・・凄いわ。どうも、ありがとうございます。とっても助かります」

「いえいえ。そんな」

 

 最後に割った薪も、紐で結わいてまとめる。


「あと、これ。火つけように、少し細かく割っておきました」


 薪で20本ぐらいだろうか、箸の太さで割ってあった。


「なにからなにまで──本当にありがとうございます」


 両手を胸の前に組んで、冬琉は素敵な笑顔をローランに向けた。

 ローランには、その冬琉の笑顔に、テラの最高の笑顔がダブって見えた。まるで、テラの最高に笑顔のデジャビュの様に、ローランは目の前の冬琉の笑顔に一瞬心を奪われた。


『冬琉・・・』


 スッと無意識に手を伸ばしそうになるところで、ローランははっとなった。


「・・・」


 僅かに、冬流は怪訝そうな表情を浮かべる。

 それを払拭する様に、努めて明るくローランが言う。


「少しでもお役にたてて、よかった。力仕事があったら、なんでも言ってくださいね」

「え、はい。ありがとうございます」

「割った薪はどちらに持って行きましょう?」

「あちらの納屋に入れて貰えれば助かります」

「判りました。じゃぁ、冬琉さん。そちらの細かい方をお願いできます?」

「はい」


 冬琉は、細かい破片を集めて手早く一束にした。


「行きましょう」


 冬流が束ね終わるのを待って、二人は納屋の中に入った。

 薪を積み上げながら、ローランが聞く。


「冬琉さんがこちらにいられるときは、冬琉さんが薪割り当番?」

「えぇ、そうなんです。この神社は男手がおじいちゃんだけなので、私達で仕事を分担してるのです」

「ということは、冬琉さんは主に薪割りと食事当番をしているのですね」

「えぇ。こんな時分ですから・・・」


 冬琉の表情が微かに曇った。しかし、すぐに笑顔に戻るとローランに言った。


「そろそろ、車屋さんが来る頃です。表に行きましょう」

「はい」


 ローランは頷くと、先に納屋を出た冬琉の後を付いていった。




 放浪の勇者、ローランの物語の続きです。「約束」もこの回で二十話となりました。超低速の更新スピードですが、今後とも宜しくお願い申し上げます。

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