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約束はいらない  作者: 冬泉
第二章「見知らぬ土地で」
20/23

約束はいらない-19◆「目覚めの朝」

■月代町/神明神社


「ん・・・」


 気が付くと、部屋が明るくなっていた。障子に日が当たっている。野営続きだった為、久し振りにきちんとした寝床で寝たローランは、疲労もあってぐっすり眠ってしまっていた。

 布団から起き上がると、浴衣の乱れを直して障子を開けた。爽やかな朝の空気が気持ちよい。


「んっ・・・」


 ローランが大きく息を吸い込んで、伸びをしていると、廊下を冬流が歩いてきた。


「あ、ローランさん。おはようございます」

「ん? えっ?」


 まだ頭がはっきりしていない状態で声を掛けられたローランは、ちょっと驚いた後、相手が冬流と判ると、笑みを浮かべた。


「あ、おはようございます。冬琉さん」

「良くお休みになれましたか?」

「ええ。本当に、こんなにすっきりした朝は久しぶりです」


 “冬流”(テラ)とわかれてから、ローランには一刻の安息も無かった。あれから、冒険と浅い眠りの夜がずっと続いていた。だが、何処か判らぬ土地ではあるものの、“冬琉”と呼ばれる少女に出会えたことが、ローランに少し安心感を与えたのか、彼の眠りを深くしたようだった。


「よかった」


 冬流は、明らかに休息できた、という表情のローランに優しく笑い掛けた。


「カーシャさんも先程お目覚めになってます。朝御飯を用意しましたので、宜しかったらこちらへどうぞ」

「ええ。ありがとうございます」


                ☆  ☆  ☆


 長い廊下を渡った突き当たりの障子を開けると、そこは広い座敷の部屋だった。折しも、天禅とカーシャが話している所だった。カーシャは、ふと顔を上げると廊下の法を見て言った。


「おはよう、ローラン殿。よく寝られたか?」

「はい。おはようございます」


 少し驚いた表情で、ローランは部屋に入った。天禅も、おや、と言う表情を浮かべて聞く。


「おや、カーシャさん。どうしてローランさんと判ったのですかな?」

「歩き方でな──判る」

「わかりすぎるような足音は立てなかったのですが、さすがですね」

「そうですか、それは大したものですなぁ」


 天禅は感心した様に言うと、ローランに視線を振った。


「昨晩は良く休めましたかな、ローランさん?」

「はい」

「それは良ござんした」

「改めて、ご好意に感謝いたします」

「いやいや、それはもう言わんで下され」

「皆さん、どうぞ」


 障子を開けると、冬琉と年輩の女性がお膳を運んできた。いわゆる“旅館の朝食”が載っている。冬流は、まずお膳をローランの前に置いた。


「どうぞ、ローランさん」

「ありがとうございます」

「お口に合うか判りませんが、召し上がってみて下さい」

「はい。いただきます」


 昔、神明天神で神主の修行をしたときに慣れた箸を持ち、ローランは味噌汁をまず一口飲んだ。朝の味噌汁の染み入る感じを味わい、自然と笑みが浮かぶ。


「冬琉さん。美味しいです」

「よかった」


 ローランの言葉に、冬流は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 カーシャには年輩の女性がお膳を運んでいた。たみと名乗った女性は、大分訛のある方言でカーシャに言った。


「どうぞぉ。おや? 娘さん、目が悪いんかえ?」

「うむ。目を痛めており今は見えぬが、何が何処にあるか教えて貰えれば自分でやれる」

「そうですかぁ? では、ちょっと失礼してぇ・・・」


 たみは丁寧にカーシャの手を取ってご飯、みそ汁、焼き魚などの場所を教えて行く。


「でも、魚はぁとれなぃんじゃ?」

「・・・確かに」

「とってぇ差し上げましょ」

「忝ない」


 味噌汁を置くと、ローランはカーシャに言った。


「カーシャ殿、目の具合はどうですか?」

「心配を掛けてすまぬ。まだ、物を見ることは出来ないが、天禅殿が良い医者を存じているそうだ。後で、診て貰ってはどうかと仰ってくれている」

「この村は小さくて目医者がおらんが、隣の町には儂の知り合いの目医者がおるのでな」

「そうですか。宜しくお願いします」

「何から何まで、本当に忝ない。この礼は、必ず」

「そう堅く考えんで下され。困った時に、困った人を助けられるのは当たり前の事じゃて」


 丁寧に頭を下げるローランとカーシャに、天禅は気にせんで下され、と言って笑った。 


「力仕事や体力の必要なことでお困りのことがあったら、言ってください。食事の後、お手伝いいたしますから」


 好意を受けっぱなしでは、と思ったローランは、何か自分にも出来ることがあれば、と思って申し出た。少し場を和らげる為にも、太い腕に力こぶを作って見せる。


「幸い、力は有り余ってますから」

「おぉ、それは有り難いのう。迷惑でなければ、あとで薪割りを手伝って頂けると助かるの」

「薪割りですね、承知しました」

「うふふふ、あれって結構大変なのです。手伝って頂ければ助かります」

「まかせてください」


 笑顔で言う冬流に、ローランも笑みを浮かべて返した。


「ところで、隣町の目医者まではどのようにいくのがよろしいですか?」

「車屋を頼んで、冬琉と三人で行かれるといい。すんなり見て貰えるよう、先方には、予め儂から電話しておくのでな」

「忝ない、天禅殿」

「お願いします」


 重ね重ねの好意に、カーシャとローランは何度も丁寧に礼を言うのだった。




 槍聖ローランの話の続きです。異世界に飛ばされたローランとカーシャですが、心優しき人たちに巡り会い、一息付けた所です。しかし、まだカーシャの目に問題があります。今後の彼らは、どうなるのでしょうか。乞うご期待!

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