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約束はいらない  作者: 冬泉
第一章「伝説の軌跡を追って」
16/23

約束はいらない-15◆「光の柱」

■ジョオテンズ山脈/輝ける湖


 ローランとカーシャが“輝ける湖”に辿り着いてから、六晩が経った。その間、何の異常事態も起きず平穏無事に日々が過ぎていった。糧食その他の必要品はカーシャがBAG OF HOLDINGに準備してきており、帰りの分を考慮しても、あと1ヶ月はここに居ることが可能だった。


「ふぅ」


 既に何度目になるだろうか――ローランは湖を見つめながら、首元を少し緩めてみた。

 輝ける湖に着いた晩から、ローランとカーシャは交替交替で湖の監視に当たった。二直というのは、普通でも厳しいものがあり、ましてやそれが何晩も続くとジリジリと体力を削られて行くのいだった。

 ローランは固まった肩を回し、首を回し、無意識に不自然に入ってしまう力を抜く。そんな中でも、毎日のカーシャの態度が変わらないのは、過去にこの様な“待つ”経験を積んでいるからだろうか。


「あれから、六晩か」

「兆候はいつ・・・」


 思わず口にしたその問いを何度自問自答しただろうか――また今日も湖が夕日で紅く、紅く染まって行った。


                ☆  ☆  ☆


 さて、七晩目である。後の当直を担当しているカーシャにローランは揺り起こされた。“静かに”と言うジェスチャーをすると、カーシャは湖を示した。見ると、湖面の中央がキラキラと光っている。


「ついに・・・」


 ローランの瞳に湖面の輝きが映る。その光景に、武者震いが起こる。


「うむ。兆候が現れたぞ」

「いつから起こり始めましたか?」


 囁き声で話すカーシャに、どんな変化も逃さないように湖を見つめながら、ローランも囁き返した。


「煌めきが現れたのはつい先程だ。だんだん強くなっている」


 ローランは、カーシャの言葉に頷いた。湖面の光はどんどん強くなり、発光を始めた。何かが起きる寸前と言感じがしている。その時。


「光が・・・」

「!」


 一際強く発光すると、湖から天空に光の柱が立ち上った。柱は雲にまで達すると、雲を明るく照らし始める。


「むっ・・・」


 空を見上げたカーシャは思わず唸った。


「ローラン殿。あれに見覚えがあるか?」

「あっ、あれは!!」


 雲を見上げたローランは思わず息をのんだ。天空には街が現れていた。そう──雲間から逆さに下がる様に、幾つもの摩天楼が伸びる。そしてその中央に、忘れたくても忘れられない司政官タワーの姿があった。


 「し、司政官タワー・・・」


 ローランの熱い想いが言葉にこもり、その声は震えていた。カーシャは黙ってローランの顔を見た。ローランは、武者震いとはやる想いが、思わず一歩足を踏み出してしまう。


“落ち着け、落ち着け。ここからだ・・・”


 だが、自分で自分を戒めると、その場に踏みとどまって、深く息を継ぐ。


「どうやら、目的とする場所のようだな」

「はい」

「問題は、どの様にしてあそこへ行くかだな」


 暫し考えた後、ローランは言った。


「飛翔魔法を使って、光の柱に入ってみるか、あの現象を焦点として、偉大なる魔術師テンサーが創り出し、冬流と私が持つ壱なる弐の剣“神威”にて道を探す方法が考えられます」

「神威か・・・」


 確かめる様に言うと、カーシャは顔を上げた。


「次の機会は無いかも知れない。危険かも知れないが、出来る限りのことを一気にやってみるのが得策と思う」

「はい」


 ローランは頷いた。心を落ち着ける為に一つ息をすると、聖句を唱えた。


「天空に風。大地に水、人心に炎」

「唱えよ、そして我の声に従い汝の名を呼ばん。“王国”“礎”“名誉”“勝利”“優美”“峻厳”“慈悲”“知識”“知恵”」


 ローランが唱えたのは、神代の時代に育まれた神霊の呪言。


「・・・“王冠”、我のもとに現れよ!」


 最後の言葉と共に、空間に描かれた記号が碧の輝きを放ち始める。


「良し。ローラン殿、光の柱に向かうぞ」

「はい!」


“行こう。バルフレイル、神威。冬琉のもとへ”


 心の中で唱えるように言うと、ローランはMIAバルフレールで飛翔魔法(FLY)を掛けた。

 カーシャもSEAソロモンで飛翔魔法(FLY)を掛けると、周囲を警戒しながら湖の上に出た。後ろを振り向いて、ローランが付いてくるのを確認すると、一気に速度を上げる。光の柱は、すぐそこだ。


“この中か・・・”


 急速に近づいてくる光の柱を見て、ローランはゴクリと喉を鳴らした。


『念の為に、魔法反応をチェックする。少し待て』


 カーシャの声が、念派(Telepathy)で伝わってくる。

 ローランはカーシャの背に回り、周囲を警戒した。


『魔法反応は無いな』

『ん?』


 その時、ローランは心持ち引っ張られる感じを覚えた。


『ラダノワ伯爵。何か引っ張られる感じが・・・』

『本当か?私は何も感じないが』


 ローランは、己の感覚を研ぎ澄ましてみた。確かに引っ張られている。それも、だんだん強くなっていく。


『やはり、引っ張られています。それも強くなっていきます』

『どちらに引っ張られている?』

『光の柱の方向です』

『乗るか、反るかか・・・』


 カーシャの呟きに、ローランは決意を込めて言った。


『行きましょう。光の柱へ』

『よかろう。シールドを最大展開して、一気に突っ込んで見よう』

『はい。バルフレイル!シールド、最大展開!』


 一直線に光の柱に突っ込むバルフレールとソロモン。光の柱の眩しさに、カーシャは目を細めた。


『突入するぞ!』


 光に入った瞬間、強烈な電気ショックを受けたような感じがした。身体がバラバラに成りそうな感じが全身を揺さぶる。木の葉の様に吹き散らされながら、ローランとカーシャは光の海の中を翻弄される。


『ぐぅぅぅ』


 ローランは拳を握り締め、懸命に耐えようとする。

 霞む視界の端に、ちらりと人影が見えた気がした。次の瞬間、ローランの意識は宇宙の彼方に吹っ飛んでいた・・・。



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