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約束はいらない  作者: 冬泉
第一章「伝説の軌跡を追って」
15/23

約束はいらない-14◆「輝ける湖」

■ジョオテンズ山脈/龍の背→輝ける湖


 “竜の首”峠からは、長く険しい下りが一日以上も続いた。周囲に身を隠すところもなく、二人は不安定な峠道で完全に露出していた。この様な状態で襲撃されると、たとえカーシャとローランの二人でも苦戦必死だったであろうが、幸いその後は遭遇戦も無く、無事に神の切っ先の麓に広がる森林地帯に入ることが出来た。


「ここは、昔は妖精が住んでいた、と言われる森だ」


 木々の間を慎重に抜けながら、カーシャが言った。


「妖精? エルフたちですか?」

「うむ。その名残のせいか、ここはこのジョオテンズ山系の中でも比較的安全な場所に数えられる」

「なるほど。比較的安全ということは、まだ住んでいるかもしれませんね。森を傷つけないように注意するにこしたことはありませんね」

「そうだな。だが、安全と言っても“比較的”でしかない。無防備に寝ると次の日の光は見られないだろうな」


 カーシャは、ローランにもお馴染みとなった薄い笑みを浮かべていた。表面的には冷静で冷たく見えるカーシャも、話をしてみればそうでは無いと思える点が幾つか見え隠れする。


「ええ。安全といっても、ドラゴンの横で寝るのが、ジャイアントの横で寝るようになったぐらいの違いでしょうから」

「フフフ、そうだな。今日はここで泊まろう。明日、予定通りならば湖に着けるはずだ」

「はい。今日は、私が先に番をします。ちょっと気が高ぶっているので、すぐには休めそうにないので」

「そうか。では、すまぬが頼む」


 そう言うとカーシャは木に寄り掛かり、マントをかき寄せると目を閉じた。微かに聞こえる呼吸が規則正しくなる。カーシャはすぐに寝入った様だった。

 カーシャの呼吸音が規則正しくなって、しばらくしてからローランは天空を見上げた。その夜は満天の星空だった。天空に近いせいか、普段低地で見慣れている輝きとは異なり、様々な星が色とりどりに天を埋めている。


「・・・」


 ローランは、その煌めく星空をまるで吸い込まれるかのように見つめていた。

 ふと、流れ星が流れた。白い弧を曳くと、天空を駆け抜けて山波みの彼方に消えて行く。


「流れ星・・・。流れ星は世界を越えられるのだろうか・・・」


 ローランは流れ星の軌跡を目で追い、そして消えた山並みを見つめ続けた。

 何故だろうか。しきりに冬流とうるの事が思い出された。笑顔を浮かべる冬流、海辺でローラン達とはしゃぐ冬流、絶体絶命の状況下、ノオを護る為に自らを犠牲にしようとしてヘッドセットをかぶる冬流・・・。


「冬流・・・」


 一言呟くと、ローランは槍を握った。そんな時、そっと声が掛かった。


「・・・心配するな、ローラン殿」


 いつ目を覚ましたのだろうか。何時になく優しくカーシャは言った。


「想う心は、何時か必ず相手に伝わるだろう。それを信じ、前に進むことを恐れなければ、きっと辿り着く」

「はい。」


 ゆっくり振り返って、ローランは力強く、一言で答えた。その表情には、笑みが浮かんでいる。


「フフフ、言わずもがな──であったかも知れぬが」

「いえ、信じていることを言っていただくことで、より強く信じ、前に進めます」

「そうか・・・」


 カーシャの表情にも、ローランを励ますような暖かい笑みが浮かんでいる。その笑みに後押しされるように、ローランが言った。


「ラダノワ伯爵。お聞きしたいことが一つあるのですが・・・」

「言ってみるがいい」

「私は異世界への扉、冬流がいる世界への扉を探しています。ラダノワ伯爵は、異世界への扉に関わる目的をお持ちなのですか?」

「目的か・・・。そうだな──若い勇者の手伝いをしたい──そんな動機付けでは不純か?」


 カーシャの口調には、幾分面白そうな響きが混じっていた。


「いえ、目的が不純とか目的を問いただしたいというのではないんです。ラダノワ伯爵が異世界への扉に関わる目的をお持ちなのかと思っただけなのです」


 真剣な口調で話した後、ローランは少し砕けた感じの笑みを浮かべた。


「あえていうなら、私が『若い勇者である』ということが不純ですね」

「そうか? 己を卑下する事もないと思うが」

「『勇者』といわれる程の者ではないですよ。ただ、“自分”でありたいと願うだけですから」

「その行動に対する結果と、私は理解しているがね」


 謙遜するローランに、カーシャは微かな笑みを浮かべると言った。


「それ以外にもな・・・」

「何か目的があるのですか?」

「微かな予感めいたもの──先に進めと言う、そんな声が聞こえるのだ。気のせいかも知れないが・・・」

「先に進めという声、予感ですか?」

「そうだ。暗黒戦争が終わってまだ半年。本来ならば、私には別の役目があるだろうとは思うが、心の声を無視することは得策ではないと考えた」


 形の良い眉根を寄せるカーシャに、ローランも頷いて言った。


「心の声こそ、真に望むこと。声を無視することは、私も得策ではないと思います」

「そうだな。それ故に、ここにいる。もっとも――貴殿の手助けが出来るのだ。有意義だと、手前勝手に判断した」

「私の手助けを有意義だと判断いただけたことを、とても・・・とても、嬉しく思います。冬流とともに生きたい。個人的なものですが、私にとってなによりも大切な願いです」


 想いを込めて言葉を紡いだローランに、カーシャは大きく頷いた。


「その想いを、大切にな」


 そう言うと、カーシャは身じろぎして起きあがった。


「交替だ、ローラン殿。今度は貴殿が休みたまえ」

「ラダノワ伯爵。あまり休まれていませんが」

「心配するな。疲れは感じていない」

「気が高ぶるというところですか」

「いや──そう言う訳でもないがね。この様な事態は、何度か経験している。自然と体力が配分され、疲れは感じない。もっとも、一致の期間に限るのだが」

「わかりました。よろしくお願いします」


 ローランは岩に背をつけて座り、毛布をかける。気が高ぶり、眠れそうにないが目だけを閉じて休もうと努めた。


                ☆  ☆  ☆


 翌朝。どんよりとした空模様の下、カーシャとローランは再び歩き始めた。比較的木々が密生している為、馬は曳いて行くしか無かった。カーシャは、時折立ち止まるものの、方向に関しては確信がある様で迷わず先導して行く。


「こちらの方向なのですか?」

「方向が気になるのか?」

「はい。ラダノワ伯爵の歩みに確信に満ちているので。何故ですか」

「見てみよ、ローラン殿。全ての木々が傾いでいるだろう?輝ける湖を中心に、放射状に木々が外に向かって傾いでいるのだ。原因は不明だがな」


 ローランは鋭い表情で近くの木を観察した。


「放射状に傾ぐ時は、爆風などが考えられますが、木が傾ぐような爆発ならば木に焼け跡などがあるはずですが、木々にはない。また、強風では放射状には傾がない・・・」

「十分、気を付けるに越したことはないだろう」

「そうですね」


                ☆  ☆  ☆


 唐突に前方の木々の波が薄くなると、カーシャとローランは開けた場所に出た。目の前に青々とした湖が広がっている。


「ここが・・・」

「そうだ。ここが輝ける湖だ」

「輝ける湖・・・」


 ローランの声には感慨がこもっていた。漸く、漸くここまで辿り着いた。躯には震えがはしり、目を閉じて両手を軽く組む。


“落ち着け、これからだぞ”


 はやる心を戒めるローランを見て、カーシャは好意的な笑みを浮かべた。思えば、ローランとの旅に出発して以来、カーシャが笑みを浮かべることが多くなった。“紅い龍騎士”と言われた漠羅爾バクラニ新王朝の“龍位の騎士”であると言う堅いイメージが少し雪解けに成ってきたのか。真相は不明ながら、事実ローランはカーシャから優しさを感じるようになっていた。


「今のところは、異常は見うけられないな」


 “輝ける湖”の湖面は鏡のように静かだった。無論、風もない。ローランも辺りを見まわす目を止めると、カーシャの言葉に頷いた。


「そのようですね」

「取り敢えず、馬をもっと奥に繋いで、我々は直接湖から視認されない場所を捜すとしようか」

「そうしましょう」


 カーシャとローランは馬を十分湖岸から放して繋ぐと、木々の後ろに恰好の隠れ場所を見いだした。


「どれ位待たねばならぬかは判らんが──後は待機か」

「ええ。一人が情報を集めるために湖の観察、もう一人が休憩と後方警戒ですね」

「そうなるな」


 カーシャはローランの肩をポンと叩くと気さくな調子で言った。


「“急いては事をし損じる”とよく言われる。ここは忍耐力の勝負になる」

「そうですね」


 カーシャに肩を叩かれて、ローランは気負いで肩に力が入っていることに気づいた。照れくさそうに言いながら、肩を回して力を抜いた。



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