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約束はいらない  作者: 冬泉
第一章「伝説の軌跡を追って」
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約束はいらない-11◆「不帰の峠へ」

■ステリック公国/ラダックの砦


 ローランとカーシャは、その晩は大事をとってラダック砦に一泊する事に成った。

 明日以降は、満足に睡眠も取れないかも知れないので、少しでも体力を温存したほうが良いと、カーシャが判断したためだった。


               ☆  ☆  ☆


 翌朝。肌を刺す寒風が吹く中、ローランとカーシャはリュラックに別れを告げた。高い青空が目に染みる。


「世話になったな、リュラック」

「閣下。本当にギャルドの騎士達をお待ちに成らないのですか?」

「うむ、時間が惜しいからな。現象が不規則であるならば、一刻も早く現場に行かねばならないだろう」


 心配そうなリュラックを安心させるように、努めてカーシャは平静な口調で言った。

 ローランも大きく頷いてカーシャに同意した。


「彼らを待ちたいところですが、“機”を逃す訳にはいきません」

「了解しました」


 納得したように、リュラックは少し相好を崩して頷いた。


「騎士達には、後を追ってくる様に伝えて置いて欲しい。重装備の筈だ。あの峠を越えるのが大変だと思うが」

「無論、援助致します。」

「宜しく頼む」

「リュラック殿、お世話になりました。あちらに向かうにあたり、気に留めておくべきことはありますか?」


 ローランの問いに、リュラックは幾つかの注意点を列挙した。


「夜の野営には気を付けて下さい。無闇に、明かりや古い建造物には近づかないことです。どんな“物”を呼び覚ますか分かりませんから」

「不要な冒険をするつもりはない」


 カーシャが苦笑して言った。


               ☆  ☆  ☆


 出発に当たり、ローランとカーシャは今一度装備を見直した。これから先、補給や補充は一切効かないからだ。


「ローラン殿。装備は万全か?」

「はい。大丈夫です」


 肩の荷を軽く背負い直しているローランは胸甲、手甲に鉄槍の身軽な格好であった。

 カーシャ自身も、旅装の上に紅い龍をあしらった胸甲と愛剣を身に付けただけである。


「糧食などは、最低限の非常食だけで良い。後はこちらで何とかするからな」

「わかりました。しかし、何とかするといいますと・・・」

「うむ。HOLDING BAG(内容重量が軽くなる魔法のザック)に装備一式を入れて有る。当分はこれで間に合うだろう」


 そう言うと、カーシャはマントの下に背負ったザックを指し示した。

 ローランは頷くと、リュラックの方を向いて一礼する。

 リュラックは、未踏差の危険地帯に赴く二人が、以外に軽装であることを心配している様だった。

 リュラックの心配そうな視線に気が付いたカーシャが何かと問うた。


「リュラック。何か心配事があるのか?」

「いえ、滅相もない。しかし・・・」

「構わない。申してみよ」


 リュラックは、ベテランの冒険者でもあるカーシャに物言いすることに躊躇したが、すぐに義務感が勝利を治めた。

 頭を上げるとリュラックはカーシャに忠言した。


「閣下。せめて主戦装甲(Main Battle Armor、通称MBA)位は着装されて行かれた方が宜しいかと思います。騎龍ではなく、騎馬で行かれるのですから」

「うむ、そうだな。リュラック、主の言う通りだ。道中、不意打ちの事も考慮しておかねばならないな」


 リュラックの言葉に頷くと、カーシャはローランに言った。


「ローラン殿。リュラックの言う事も尤もだ。念の為にMBAを着装して行こう」

「そうですね」


 カーシャが右手を一振りすると、正面に真紅の完全装甲(Full Plate Armor)が現れた。これが『バビロン』、漠羅爾バクラニ新王朝傑都ケットにその名も高い『龍位の騎士』に下賜された魔導装甲(Specified Enchanted Armor、通称SEA)である。

 同様に、ローランも心で呼びかけながら、右手を一振りすると、黄金の完全装甲(Full Plate Armor)が出現する。異世界クリスタル・トウキョウで見いだされ、彼の“マーベラー”、オメガことラインガード・ティタンが自ら調整した心意装甲(Mind In Armor、通称MIA)『バルフレール』である。


「バビロン、着装(Lock up)」


 カーシャが静かにコマンドを唱えると、バビロンの外装胸甲が上に、内部装甲が両側に開き、内部にカーシャを包み込む。神遺物(Artifact)にも匹敵する魔導レベルを持つSEAの着装は一瞬だ。カーシャがバビロンを纏うと、額に埋め込まれた胡老石(Elder Stone)が輝き出す。“魔導線”を伝って、胡老石から全身に魔導力が行き渡る。


「バルフレール、着装(Lock up)」


 ローランもコマンドを唱え、黄金色の装甲を身に纏った。


『久しぶりだな、バルフレール。お前と出会った地に赴こう』


 ローランが心で呼びかけると、バルフレールからも低い賛同の感じが伝わってくる。

 ローランは、バルフレールの感触を確かめるように、鉄長槍を握り締めた。


「凄い・・・これが魔導装甲なのか・・・」


 バビロンとバルフレールの出現を見て、リュラックや砦の守備兵達が息をのんだ。

 これまで、彼らも近衛騎士達が纏う『マゼラン』等のMBAを見る機会は有ったが、MBAとは比較にならない程の魔導力が込められたSEAや、それ以上の力を秘めたMIAを見る事は滅多に無かったからだ。

 魔導装甲の力と優美さを目の前にして、彼らは驚きに言葉も出なかった。


「お、おい。馬だ」


 最初に我に返ったリュラックが、カーシャとローランに馬を渡すように指示を出す。


「ありがとう」


 ローランはバイザーをあげて、侍従の持ってきた重戦馬を受け取った。


「リュラック殿、まいります。ギャルド騎士団のルーラム・レムコー殿、キーファ殿とエルクラート殿が到着しましたら、先に向かったとお伝えください。よろしくお願いします」

「は、はい。了解しました。道中ご無事で」

「では」


 ローランはリュラックに一礼して重戦馬に跨った。カーシャも騎乗し、眼前に聳え立つジョオテンズの山並みに鋭い視線を投げかけた。


「ローラン殿、行こう」


 ローランは頷くと、カーシャの後を追って、城塞の出口に馬を進めた。



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