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そろそろ切見世の環境も良くしようか

 さて、今まで色々有ったが三河屋の遊女に聞いて見て回っても、今現在では特に大きな不満などはなくなっているようだし、三河屋の遊女たちに関しての生活環境は相当改善されたと思う。


 まあ、昔がひどすぎただけだしやったことは食事と睡眠時間と衛生環境の改善ぐらいと言われればそれだけなのだが。


 問題は切見世の方だな。


 俺は西田屋から押し付けられて面倒を見ることになった長屋だけではなく、その長屋と井戸や厠を共有している切見世の権利をすべて買い取った。


「とりあえず、長屋を建て替えるか、本格的に夏になって蒸し暑くなる前に」


 というわけで俺はいつもの大工の親方に切見世の長屋を一区画分新しく建ててもらうことにした。


「裏長屋の建物はすべて割長屋にして、壁は漆喰塗り入り口の反対には木戸をつけ風通しを良くして

 部屋は全て畳敷きの六畳間と土間でその上には梯子をかけた四畳の中二階も作るんですか?」


 俺は頷いた。


「ああ、そうしてやってくれ」


 大工の親方も頷いた


「へえわかりやした」


 この時代の長屋は表通りに面した表店と裏路地に建てられた裏長屋に分かれる。


 表店は表通りに面していて、主に店を構えた比較的裕福な小商人や稼ぎの良い大工などが住んでいて、こういった表店は大通りに面しているため日当たりも良く、奥八畳と手前四畳の部屋に別々に土間があるなど間取りも広く、商人は四畳の部屋で商売をし、八畳で生活をし奥側の土間が炊事用の土間と勝手口になっていた。


 まあ厠や井戸は共用なんだがな。


 横丁に面した大店などは2階建てで一階が全て商用のスペースで二階で寝起きする場合もあった。

 大店の番頭なんかは木造2階建ての部屋数が4つの現代の2DKくらいに広さのアパートに相当する長屋に住むことも出来たようだがこれはかなりの例外だな。


 しかし2階建ての4部屋、2DKで格別に広いというのはなかなか泣けるよな。


 一方裏長屋は表店の間の細い道から入っていく長屋で横に連なる「割長屋」と2軒の世帯が背中合わせに住む「棟割長屋」とがあった。


 割長屋は入り口の反対側に窓もありまだ多少は広かったし、多少は風通しも有ったが、棟割長屋は棟と垂直方向にも壁で部屋を仕切った造りなので三方が壁で日当たりも悪く風通しも悪くて、畳四畳に土間2畳程度のスペースしか無く、しかも上がった場所が板作りの場合も多かったし、畳は自前の場合もあった。


 更に壁板も薄く隣の音は丸聞こえだし夏暑く冬は寒かった。


 だから切見世の女郎たちは板の間にゴザを敷いて筵をかぶって寝るなんてのも普通に有った。


 出来上がったら安いせんべい布団ではあるが綿入りの布団も買ってやろうと思う。


「まあ板の間にゴザでやったり寝たりするより大分いいだろ」


 まあ片付けるのが面倒になるという可能性はあるし、農村では江戸時代でも筵や寝藁に寝るのが普通だったりもするんだがな。


「やっぱ、住環境の改善も大事だよな」


 とは言え一晩で何十両と金が落ちる大見世と違いそこまで売上の上がるわけではない切見世を根本的に改善するには、それなりに他の店の利益が確定しないとできなかったけどな。


 大工がちゃっちゃと費用やかかる時間を計算した後言った。


「出来上がるのに、半月ほどみてくだせえ」


 俺はそれに頷く。


「分かったよろしく頼む」


 出来上がるまでは現状の長屋に住んでもらうしか無いので、とりあえず食生活の改善のため、表店部分を買い取って価格激安の食堂にする。


 献立はワカメの入ったそば切りの蕎麦や、雑穀米、麦飯の豆味噌握りなど脚気対策になる穀物と鰯や鯵などの安い下魚の焼き魚に大根などの糠漬けと納豆の味噌汁などを定食にして16文で売る。


 あと利用者は俺が面倒を見ている切見世女郎に限ったわけではない。


 直接的に俺が面倒を見ているわけではない切見世女郎を助けるのは無理だが、こうやって間接的に助けることは出来る。


 俺が面倒を見てる切見世女郎が飯を食いながらしみじみと言った。


「はあ、安くてうまい食べ物屋があると助かりますわ」


 俺はハハと笑いながら答える。


「ああ、献立はそんなに多く出来ないけどな」


 女郎は首をふって答える。


「いやいや十分ですわ」


 これは切見世の女郎たちになかなか評判だった。


 なんせ薪や炭団もそんなに安くないからな。


 更にこの時代における庶民の飯は白米に漬物と具のない味噌汁なんてのが普通だ。


 それに比べれば献立に代わり映えがなくても十分贅沢らしい。


 こっちは儲けは度外視で原価や人件費さえ賄えればいいからそれなりに気楽だ。


「ああ、まずは食い物を良くするのが優先だからな」


「それに戌ノ刻の宵五ツ(20時)までで客は帰していいのは助かりますわ」


「まあ、下手に引き止めて、居残られても困るしな」


「まあ、そうでんな」


 あくまでも切見世女郎は時間単位での商売なのが小見世までとは違う。


 客に居残られて金を取られたりしても困るしな。


 新しい長屋が完成すれば、切見世女郎たちの部屋の空気の流れも良くなるだろう。


 そうすれば肺の病なども減るんじゃなかろうか。


 しかし、衣服については今まで通り古着屋のものを着てもらうしか無いな。


 この時代、いい服は馬鹿高いので彼女たちの稼ぎでは今は服まで良くするのは難しい。


 しかしまあ、貧乏な町人は棟割長屋に一家四人で住んだりもしてたんだからそりゃ捨て子も増えるよな。


 とは言え江戸の町人地は狭いんで部屋を広くするのはなかなか難しい所なんだが。


 後念のため過去に梅毒瘡をやったことがあるものを確認したら二人いたので、そいつらにもペニシリン溶液を綿に浸して舌の下での粘膜摂取をやらせた。


 抗体はできてるだろうから後は納豆菌に駆逐されてくれるのを祈るばかりだ。


 梅毒も第三期に至ると悲惨だからな。

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