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やっぱサービス業は笑顔と明るさが大事だよな

 さて、紀伊の殿様に蜜蜂用の巣箱とサトウキビやウコンをわたしたら後は養蜂や栽培が紀州でうまくいくことを祈るだけだ。


 大口のお客さんの収入の安定は勿論大事だがこっちに継続的に来てくれるかどうかは、見世がどれだけ客を呼び込み、それをどれだけ遊女が客を満足させリピーターとして返せるかにかかってる。


 基本リピーターのない店に将来はないからな。


 本来なら大見世がこの後どんどん潰れたのは当然だとおもうし吉原の評価が店構えだけはいいとか言われるのも仕方あるまい。


 俺は三河屋の遊女たちに最近の状況を聞いて回ってみた。


 まずは藤乃からだな。


「藤乃、最近お前さんの客の帰りはどうだ?」


 藤乃はニコニコという。


「あい、最近はほぼ昼の予約のみで埋まるようになりんしたな」


 俺も笑顔で頷いた。


「うむ、それはよいことだな」


 大見世の太夫のライバルは必ずしも他の見世の遊女だけではない。


 基本馴染みになった太夫がいる場合は隠れて勝手に他の見世の太夫に乗り換える事はできないとされているしな。


 まあ、詫び金さえ払えば大丈夫とはされてるし、実際には大名が女側の態度が悪すぎて見世を変える場合はそこまで強く言えない場合も結構あった、そりゃ刀を持った権力者には最終的には逆らえないよな。


 藤乃の予約が埋まるようになったのは普通に考えて見ればわかると思うが一晩をともにした客がそのサービスに満足してるからで、さらにその評判が口コミなどで広まるからだな。


 例えば最近何らかの理由でリニューアルオープンした住み込みで従業員を働かせている高級なホテルが2軒あるとする。


 片方は食事も休憩も十分で接客する従業員もニコニコ明るく対応している。


 もう一方は従業員はろくに食わせてもらえず休憩もろくになくて寝不足でいつもつかれたような表情をして対応もそっけない。


 それがどちらも部屋の広さは同じで値段が一晩10万とかだったとしたらどう思うだろうか?


 そりゃ従業員が元気で明るくてニコニコしてる方に行くだろ?


 遊郭だって同じだぜ。


 この時代の口コミの広まる速さを舐めちゃいけない。


 これが関所を越えた先の藩が違う土地とかなるとまた別なんだけどな。


 俺が見世の紹介をしてる細見だけでなく、客側の口コミをまとめた細見なんてのもあるご時世だ、だれだってハズレは引きたくねえからな。


 ちなみに太夫のライバルが誰なのかと言えば通ってくる大名などの正室や側室、奥女中などの面々だ。


 わざわざ金をかけてつまらない思いをしたらそりゃ家庭に戻っていくよな。


 まあ、夫婦仲が良好ではないとか政略結婚だとか色々そっちにも問題はあるわけだが。


「鈴蘭と茉莉花はどうだ?」


「あい、最近はわっちたち姉妹を一緒で指名のお客さんも増えてて助かってます」


「そうだね姉ちゃんありがたいよね」


 この姉妹は相変わらず仲が良く大抵は一緒にいる。


 そして本人たちが言うとおり最近はこの二人をまとめて指名する客もいる。


 その場合座敷遊びの芸者が二人分に増えたりもする。


 そうするとほぼ太夫と遊ぶのと変わらないほど金が飛んで行くのだが、まあ夜の床で姉妹が二人一緒に相手したりするのが珍しいのか客はそれでも満足してるようだ。


 俺が21世紀現代で風俗店員してたときも特別に仲のいい二人を同時に長時間指名してカラオケ行ったり、食事したりしてた客が居たけどな。


「そうか、なら良かったな」


 俺の言葉に頷く二人。


 実は借金の返済を早く出来るように鈴蘭を格子太夫にしようとしたこともあったのだが、鈴蘭が妹とお客さんの取り合いになるからと遠慮したのだ。


 まあ、客が望めば揚屋に呼ばせても良いことにはしたがな。


 揚屋遊びのある無しでやはりおとしていく金がだいぶ違う。


「桜はどうだ?」


 桜は苦笑気味にいう。


「まあ、わっちもぼちぼちってとこでありんすな」


 まあ年期明けも近いしな。


 どうしてもある程度若い方に客は行くもんだからしょうがない。


「ふむ、身請けしてくれそうなやつはいるのかい?」


「どうでありんしょうね?

 微妙な感じでありんすな」


「そうか……

 まあ年季が明けて身請け先なんかがない場合でも俺の店で働いてくれるとありがたいがな。

 多分それまでには手習い所も開けるだろうから専属の手習いの先生になってもらえればありがたい。

 それから岩も含めて体調はどうだ」


「あい、今のところ岩が消えたわけではありんせんが大きくなったり固くなったりはしてないんで大丈夫だと思いんすよ」


「そいつはよかった。

 まあ、食いもんと寝るのはやっぱ大事だな」


「そうでありんすな」


 まあ、顔色も悪くないしなんとかなりそうかな。


 次に聞くのは楓だ。


「楓は最近どうだ?」


 楓はちょっとしょんぼりして言う。


「うーん、最近は前ほどではなくなってしまったでやんすね。

 わっちは新米ですから仕方の無いことでありんすが」


 最近の脱衣劇なんかは鈴蘭と茉莉花のほうがどうしても目立ってるしな。


 むろん毎日うずめはん時代からの楓のファンも居るが、人間は結構移り気なもんだからしかたがない。


「すまんな、なにか新しい劇を考えるか」


「そうしていただければ助かりんす」


 とは言え俺が劇の内容やら振り付けやらを全部考えるのもきついんだよな。


杉山丹後掾すぎやまたんごのじょう辺りに頼めねえかな」


 歌舞伎で有名な近松門左衛門ちかまつもんざえもんなんかはまだ生まれたばかりだしな。


 杉山丹後掾はちょうどいま江戸でからくり芝居とかをやってる頃のはずだから頼めばなんとかなるんじゃなかろうか。

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