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短編集

夢遊病お兄ちゃん。

私のお兄ちゃんには、少し変わった癖がある。

夜中に外へ歩いて行ってしまうのだ。

起きているんじゃないかって?ううん、違うの。

私見たもん。お兄ちゃんが夜中に家を抜け出す所。

声かけても気づかないし、なによりお兄ちゃんがパジャマのまま外に出るなんてありえないんだから。


「なんでお兄ちゃんは夜中に外へ行くの?」


お兄ちゃんは俗に言うイケメンだ。買い物に行くとたくさんの女の人に声をかけられているし、私から見てみても、けっこうかっこいいとおもう。あげないよ?


「うーん…。外へ行こうとしてるわけじゃないんだけどな」


お兄ちゃんは困った顔をして頭をかいた。

さっきはパジャマって言ったけど、実はもう違う。私がお兄ちゃんに癖のことを言ってみたら、その日から普通の服をパジャマ代わりにして寝るようにしてるみたい。


「何してたの?」


と聞いてみる。病院には行ってないらしい。なぜかというと、お兄ちゃんの癖はお兄ちゃんと私しかしらないから。


「そうだな、夢を見てたんだよ。」


珍しくあいまいにごまかさずに話してくれるようだ。


「お兄ちゃんの夢の中はまっくらでな?そこに1本の白い道が続いているんだ。

周りは何も見えないんだが、その道だけはっきり見えるんだ。

道は毎日変わって、その中を俺が歩いていく、そういう夢だ。」


お兄ちゃんは夢の中で歩いていただけで、本当に歩いて行っていたとは思っていなかったみたい。


「毎日同じ夢を見るの?変なの。」


「ははっ、そうだな。俺も、そう思う」


「でも、歩かないとダメなんだよ。」

「 後ろの道はどんどん崩れて行っちゃうからな。」

「前なんか目の前まで崩れてさ、焦った焦った。」

「ゲームみたいなモンさ」


大体がゴールまでたどり着けば終わり。でも、また明日には同じようなスタート。夜の間もあるきつづけるお兄ちゃんはそう言うと、少し疲れたようにけだるい雰囲気を吐き出した。


話をした日から、数日がたった。学校に行く準備をする私は玄関にいるお兄ちゃんに声をかける。


「遅刻するよ?」


お兄ちゃんはポストの前で、手紙のような真っ白な紙をひろげて動かなかった。


「…そういうことか。」


お兄ちゃんは私に気づかない様子で、そのまま高校に行ってしまった。

…行ってきますって言わなかったな。いけないんだ。

ポストを見ると、お兄ちゃんの見ていた手紙がそのまま残されていた。


『突然のお手紙、申し訳ありません。

伝えたいことがあって、これを書かせていただきます。

私はあなたを知りません。面と向かって話したこともありません』


…ラブレター、かな?でも、それならお兄ちゃんを知らないのはおかしいよね?


『あなたは私の命の恩人です。

何をしてくれたということではありませんし、あなたにとってはなんでもないのかもしれませんが、それでもあなたのおかげで、私は今日も生きています。』


『私は先日、事故で両親をなくしました。

突然のことで、私は途方に暮れて、親戚の家に預けられてからも、部屋に引きこもってばかりいました。

そうして過ごしているうちに、私も死んだ方がいいんじゃないかって、今思うとおかしな考えがよぎるようになり、死ぬ場所を探しに行くようになりました。』


『でも、いい場所を見つける度に、あなたをみかけるようになったんです。親戚に隠れての外出なので、真夜中、人がいないようなところを探していたのに、いざ死のうとするとあなたが現れました。』


『はじめは幽霊でも見えたんじゃないかと思っていましたが、気になってあなたの家までついて行ったことがありました。あなたは普通に家に帰っていったので、生きている人間だと思いました。』


『とにかく、あなたを見かける度に死ぬ日を先延ばしにしているうちに、死のうと必死になっている私に気づいて、なんだか馬鹿らしくなってしまいました。』


『これはもしかして、お父さんとお母さんが、私に死ぬなと言っているのかも。なんて思ってしまったんです。』


『だから、あなたは私の命の恩人です。

会って話すことは、おそらくないでしょうがどうしても伝えたいと思いました。

読んでくれて、ありがとう、助けてくれて、思いとどまる機会をくれて、ありがとうございました。』


それから、お兄ちゃんが夜中に家を抜け出すことはなくなった。

何かが変わったのか、元に戻ったのか、お兄ちゃんに聞いても教えてくれないから、私にはわからない。


最近変わったことといえば、お兄ちゃんに彼女ができたみたい。

優しい雰囲気の可愛い女の人。たしかに私じゃこの人に勝てる気はしなかった。

・お兄ちゃんは霊感がある。

・お兄ちゃんが夜外へ出るようになったのはこれが最初ではない。

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